テレビ東京で放送されている『FOOT×BRAIN』というサッカー番組に、ラグビーの五郎丸選手が出演し、「世界との距離の縮め方」というテーマでお話をされていました。
S&Cコーチとしての立場から、印象に残った点をまとめてみます。
印象に残った五郎丸選手の言葉
以下の言葉は一言一句、五郎丸選手が言った通りというわけではありません。
私が聞いて、私なりにまとめたものです。
でも内容はだいたい当たっていると思います。
①南アフリカに勝てたのは、フィジカルバトルで逃げなかったのがキー
日本人はフィジカルが弱いから、持ち味のスピードや敏捷性、パスワークを向上させて世界と戦おう、みたいな話はよく聞きます。
しかし、それは弱点を認識しているにも関わらず、それを改善せずに、目を逸らしているだけだと私は昔から思っていました。
だって、守備の時はパスワークでフィジカルコンタクトを避けるなんて戦術が取れないんですから。
今回のW杯に向けて、フィジカルという弱点に向き合って強化してきた五郎丸選手の言葉は重みがありますね。
②世界一タフな練習(S&C含む)のおかげで、W杯で世界の強豪を相手にしても普通に試合ができた
この「普通に」試合ができた、という言葉が心に刺さりました。
日本人がフィジカルが弱いというのはどの競技にも共通した事実かもしれません。
しかし、少なくともしっかりとS&Cに取り組めば、世界とも「普通に」戦える準備を整えることができるんです。
その準備も整えないで「日本人の特徴を活かして戦う」とか言ってても勝てるわけないでしょ。
③身体は大きくなったけど、走力・スピードは変わらなかった
この言葉から、私は2つのことを思いました。
1つは、適切なS&Cを実施すれば、筋肉をつけて身体が重くなっても、走力・スピードの低下を防ぐことができるという点。
もう1つは、ラグビーのようなタックルを含むコンタクトスポーツにおいては、単純な走スピードだけでなく「体重✕走スピード」が重要なんだという点です。
この「体重✕走スピード」は最近、研究の世界では「Sprint Momentum」と呼ばれて注目を集めています。
たとえば、ラグビーのシニア選手とジュニア選手の間(つまりプレーレベルが違う選手間)で走スピードにはあまり差がないけど、Sprint Momentumに大きな違いがあるという研究報告もあるくらいです。
④フィジカルから逃げてしまうと戦えない
ま、上の①と同じことですね。
同じ趣旨の発言が何度も出てくるという事は、本当に重要なことだと五郎丸選手が実感されているという事なんでしょう。
⑤日本人は小さいからという考えを捨てないとダメ
小さいからダメだと考えてしまうと逃げに繋がる気がします。
逆に小さいからこそ、他の国より積極的にS&Cに取り組む必要があるのです。
⑥しっかり(栄養を)摂取して良いトレーニングしていけば身体は必ず大きくなる
ちゃんとやれば結果は出るんです。
最初からゴチャゴチャ言い訳をしてS&Cに取り組まないアスリートは、勝つ気がないと言っても過言ではないでしょう。
⑦エディー・ジョーンズ監督はタフな練習を要求するけど、8割9割くらいのところ(「もう限界!」という所のちょっと手前)で止める→限界までやっちゃうともうやりたくなくなっちゃうけど、「まだ行けるんじゃない」と思えて、次の日もがんばれる
なんだかトレーニングでは限界まで追い込むのが自分の使命みたいに勘違いしているS&Cコーチや競技コーチが多い気がしますが、そもそも1回のトレーニングセッションで限界まで追い込んだからといって急激に体力が向上するわけないんです。
体力が向上するのは、継続的に適切なトレーニング刺激を身体に与え続けることで次第に起こる事なんです。
時間がかかるんです。
トレーニングは「プロセス」なんです。
長期的な視点が必要なんです。
だから、限界まで追い込まずにその手前で止めるというのは、継続してトレーニングに取り組ませるという点で非常に秀逸なアプローチだと思います。
ケガのリスクを下げるという効果もあるでしょう。
まとめ
今回のW杯で結果を出しただけに、言葉に重みがありますね。
たとえ結果が出なかったとしても、言っている事は正しいと思いますが、世間一般への影響力とかを考えると、やはり今のタイミングでこのような発言をされるというのは大きいと思います。
ラグビーだけでなく、あらゆる競技のアスリート・コーチに参考にしてもらいたい言葉です。
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【編集後記】
トップリーグとスーパーラグビーの両方でプレーするラグビー選手はいつ休みを取るんですかね・・・。