ベンチプレスだけを実施することの問題点
以前にもブログを書きましたが、ベンチプレスは上半身の押す筋力向上や筋肥大には有効なエクササイズです。
その一方で、肩甲骨を動かしたり安定させたりする筋群(例:前鋸筋)を強化することが難しいというデメリットもあります。
これは、ベンチプレスにおいては、肩甲骨が胴体とベンチの間に挟まれて固定されている(=肩甲骨の動きがない)ことが関係しています。
肩甲骨をしっかりと寄せた状態で固定させておかないと肩を痛めるリスクがあるので、健康的にベンチプレスを実施するためには、これはこれで適切なフォームであり、問題ありません。
しかし、上半身押す系のウエイトトレーニング種目としてベンチプレスだけしかやらないと、肩甲骨を動かしたり安定させたりする筋群(とくに前鋸筋)を鍛えられない、という問題に直面します。
肩甲骨を動かしたり安定させたりする能力は、肩のケガや痛みを予防しつつ、上半身の力発揮を向上させるために必要な能力です。
したがって、ベンチプレスを実施するのであれば、それに伴い直面する上記の問題点を解決する必要が出てきます。
ベンチプレスだけを実施することの問題点の解決策
問題点の解決策として、大きく分けて3つの考え方があるかと思います:
- 解決策① :ベンチプレスにおいて、肩甲骨を動かす(押す時に外転させる)
- 解決策② :ベンチプレスの代わりに腕立て伏せを実施する
- 解決策③ :ベンチプレスにプラスして前鋸筋を鍛えるエクササイズを実施する
それぞれについて詳しく見ていきます。
解決策① ベンチプレスにおいて、肩甲骨を動かす(押す時に外転させる)
ベンチプレスにおいて「肩甲骨を寄せた状態(内転させた状態)で固定させておく」ことが前鋸筋の強化を難しくしている要因です。
それなら、肩甲骨を固定させておかないで、積極的に動かしてしまえば、この問題を解決できるのではないか?というのが解決策①の考え方です。
つまり、バーベルを押す時に、肩甲骨を内転させてしまえば、前鋸筋も動員されて強化できるのでは?ということです。
一見、合理的な解決策のようにも見えますが、私はこの解決策①はオススメしません。
すでに説明しましたが、そもそもベンチプレスにおいて肩甲骨を寄せた状態で固定させておく理由は、そうしないと肩を痛めるリスクがあるからです。
さらには、より重い重量を挙げて、より大きなトレーニング刺激を得るためでもあります。
したがって、ベンチプレスに伴う問題点を解決するために、ベンチプレスの動き・フォームそのものを変えてしまうのは本末転倒です。
解決策② ベンチプレスの代わりに腕立て伏せを実施する
私は上半身押す系ウエイトトレーニング種目としては、ベンチプレスよりも腕立て伏せをプログラムに入れることが多いです。
その理由は以前のブログでも書きましたが、今回のブログの流れで言うと、肩甲骨を動かしたり安定させたりする筋群(例:前鋸筋)を強化することができるというのが大きな理由です。
また、足を台の上に載せて腕立て伏せを実施すると、さらに前鋸筋の動員を高めることができます。
解決策③ ベンチプレスにプラスして前鋸筋を鍛えるエクササイズを実施する
個人的には、解決策②を採用すれば多くの場合、一件落着になると考えています。
その一方で、どうしてもベンチプレスを実施したいケースがあることも事実です。
たとえば以下のようなケースが考えられます:
- アメフトやラグビー選手のように上半身の圧倒的な筋力や筋量が必要で、腕立て伏せだけでは十分な負荷をかけることが難しい
- アスリートがとにかくベンチプレスをやりたがる
そういう場合には、ベンチプレスは適切なフォームで実施しつつ(例:肩甲骨を寄せた状態で固定させておく)、プラスアルファで前鋸筋を鍛えるエクササイズを実施するという解決策が必要になります。
前鋸筋を鍛えるエクササイズと聞くと「push up plus」とか「scap push up」と呼ばれるエクササイズを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、私は最近は実施していません。
このあたりの議論は、アメリカのS&CコーチEric Cressey氏が動画で説明しているのでチェックしてみてください。※Eric Cressey氏は「Shoulder Guy」と呼ばれるほど肩に詳しいS&Cコーチです。
代わりに、「Wall Slide」と呼ばれるタイプのエクササイズを使うことが多いです。
Wall Slideにもいろいろなバリエーションがありますが、私が最近好んで使っているのは以下のバージョンです。こちらもEric Cressey氏の動画を紹介しておきます。
ベンチプレスで上半身の筋力強化や筋量増加を図り、それに加えて「Wall Slide」等で別途前鋸筋を鍛えておく。
ベンチプレスに伴うデメリットを解決する策としては、この③もアリだと思います。
ただし、個人的な意見としては、ベンチプレスとWall Slideをやりつつも、定期的に腕立て伏せも実施することで、前鋸筋を使って肩甲骨を外転させながら上半身で押すという連動も鍛えられるのではないかと思います。
Wall Slideだけだと負荷が低すぎて、前鋸筋のアクチベーションにはなるけど筋力向上には繋がらない可能性も高いですし。
じゃあ、どのくらいの頻度で腕立て伏せもやらせたほうがいいのか、どのタイミングでどういう形でやらせたらいいのか、というのは、S&Cコーチの腕の見せどころになってくるでしょう。
まとめ
個人的には腕立て伏せを好んでプログラムに入れますが(解決策②)、ベンチプレスは絶対にやらせないというわけではありません。
時と場合によってはベンチプレスもプログラムに入れます。
そして、その場合は、Wall Slide等の前鋸筋を鍛えるエクササイズを追加して、デメリットをできるだけ抑えるような対策も考えます(解決策③)。
ただし、解決策①は絶対にとりません。
プログラムデザインの考え方のひとつとして参考にしていただければ。
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【編集後記】
今日はまと治療院で身体のケアをしていただきました。
セルフケアが基本ではありますが、定期的にプロからケアを受けるのも大切ですね。