高負荷と低負荷でのウエイトトレーニングの効果を比較すると、各セットで限界まで追い込んだ場合、筋肥大効果には差がないとする科学的知見があります。
たとえば、40-50%1RM程度の軽い負荷であっても、限界まで追い込んでトレーニングすれば、十分な筋肥大を引き起こすことができるということです。
そのような科学的知見を紹介して、新型コロナウイルスの影響でジムに通えない状況であっても、自宅トレで工夫をすればなんとかなるという記事も書きました。
» 参考:自宅トレで軽い重量しか使えなくても追い込むまで回数をこなせばなんとかなる!
とくに自宅で軽い負荷を使ってトレーニングをする場合、負荷が軽いぶん、ジムで高負荷を挙げる場合よりも、トレーニング頻度を増やさないといけないんじゃないか、とか、負荷が軽いぶん、すぐに回復するだろうから頻繁にトレーニングできる、とか考える方もいるかもしれません。
しかし、そんな直感とは真逆の現象を示唆する研究が最近発表されたので、紹介したいと思います。
論文の内容
研究プロトコル
健康で鍛錬された(healthy-trained)男子大学生・大学院生11名が被験者として研究に参加した。
被験者は2つのタイプのウエイトトレーニングを実施した(間に1週間のインターバルをあけて)。
どちらも利き脚を使ったニーエクステンション(膝伸展)を疲労困憊まで追い込んで実施する内容だったが、持ち上げる重量が異なっていた:
- Light Load:40% MVCで疲労困憊までを1セット
- Heavy Load:80% MVCで疲労困憊までを平均1.8セット
MVCはアイソメトリック最大筋力のこと。ここではニーエクステンションにおけるMVC。
Light LoadとHeavy Loadでセット数が異なるのは、volume loadを同じにするため。volume loadは、重量x総レップ数のこと。
被験者はLight Loadプロトコルを先に実施し、そのvolume loadを計算した上で、Heavy Loadプロトコルを実施するときにはLight Loadプロトコルと同じvolume loadになるように総レップ数を決定し、その総レップ数をできるだけ少ないセット数で実施するよう求められた。
たとえば、Light Loadプロトコルで40kgを25レップ実施できたとしたらvolume loadは40×25=1000kgとなり、それと同じvolume loadをHeavy Loadプロトコルで実施する場合の総レップ数は1000÷80=約13レップとなる。
Heavy Loadプロトコルで疲労困憊まで追い込んで実施した場合に9レップしか実施できなかったら、2分間の休憩を挟んで、残りの4レップを実施するという形。
各トレーニングプロトコルを実施する直前、直後、24時間後、48時間後にニーエクステンションのMVCを測定した。
また、各トレーニングプロトコル実施直後に主観的不快度(rating of perceived discomfort)が記録された。
結果
主だった内容だけ抜粋します。
- トレーニング直後のMVC減少はLight LoadのほうがHeavy Loadよりも大きかった。
- トレーニング24時間後にはHeavy LoadのMVCはトレーニング前のレベルまでほぼ回復したが、Light Loadではトレーニング48時間後でもまだ回復しきれていなかった。
- トレーニング直後の主観的不快度は、Light LoadのほうがHeavy Loadよりも高かった(10 vs 8)。
考察
この研究では、握力を測定したり、トレーニングしていない側の脚のMVCを測定したりして、疲労が中枢と抹消のどちらで起こっているのかも調べられていますが、私がとくに興味をもって伝えたい内容からズレるので、そのあたりの解説は省きます。
で、この研究結果の肝は、volume loadが同じである、そして、疲労困憊まで追い込む、という条件下で比べると、低負荷を使ってトレーニングしたほうが高負荷を使ってトレーニングするよりも、トレーニング直後の疲労が大きく、回復にも時間がかかるということです。
過去の研究結果から、筋肥大については高負荷と低負荷で同じ程度のトレーニング効果が期待できそうである一方、本研究の結果によると、低負荷でのトレーニングは急性の疲労が大きく、そのぶん回復にも時間がかかるというデメリットがあるようです。
これをどう解釈するかは状況によって変わりますが、通常の状況であれば、私だったら高負荷でのウエイトトレーニングを優先させます。
筋肥大効果は同じで、疲労度が小さいのであれば、ウエイトトレーニングだけでなく練習もやらないといけないアスリートにとってはメリットしかありません。
さらに言うと、トレーニング効果という点でも、筋肥大については高負荷と低負荷で差はないかもしれませんが、筋力向上については高負荷のほうが効果が高いと報告されているので。
一方、新型コロナウイルスの影響で、自宅でのトレーニングを余儀なくされていて、自宅で手に入る軽い負荷を使うしかない状況においては、低負荷を使って追い込むまでトレーニングをやるしか選択肢はないかもしれません。
しかし、高負荷でトレーニングするよりも疲労が溜まりやすく回復にも時間がかかるという点は注意しておいたほうがいいでしょう。
負荷が軽いからラクだ、と考えて毎日のようにトレーニングしてしまうと、思ったよりも疲労が溜まってしまう恐れがあります。
まあ、競技の練習ができずに自宅でのトレーニングくらいしかできない状況なのであれば、それでも大きな問題はないかもしれませんが。
ちなみに、この研究ではvolume loadを2つのプロトコルで揃える、という一見面倒くさいことをやっています。
これは研究においては往々にしてやられることで、特定の変数の影響を調べたい場合、それ以外の変数はコントロールする必要があるのが理由です。
たとえば、今回紹介した研究では、負荷の大きさ(Heavy vs. Light)という変数の影響を調べたかったので、それ以外の変数をコントロールするため、volume loadを揃えたという背景があります。
もし、HeavyもLightも3セットやって各セット疲労困憊まで追い込むというプロトコルで比較した場合、おそらくvolume loadはLightのほうが大きくなるはずです。
その場合、負荷の大きさだけでなくvolume loadもプロトコル間で異なってしまうので、疲労度に差が見られたとしても、その原因が負荷の大きさなのかvolume loadの違いなのかを特定するのが難しくなるのです。
とはいえ、HeavyもLightも3セットやって各セット疲労困憊まで追い込むというプロトコルで比較したほうが、現場としては知りたい情報だったりする場合もあります。
だから、理想としては、現場でやられているトレーニングに近いプロトコルで調べるような研究と、できるだけ多くの変数をコントロールするような研究を、両方ともやってもらうのがベストなわけですが。
今回の研究のテーマについて考えると、仮にHeavyもLightも3セットやって各セット疲労困憊まで追い込むという形で比較したとすると、Lightのほうがvolume loadは多くなると予想され、Lightが引き起こす疲労度は、今回紹介した研究よりも大きくなると考えられます。
で、volume loadを揃えた本研究においてLightのほうがHeavyよりも疲労度が大きかったということは、volume loadを揃えずにLightのほうがvolume loadが多い場合は、さらにLightのほうがHeavyよりも疲労度が大きくなる可能性が高いと予想されます。
だから、おそらく、LightのほうがHeavyよりも疲労度が高くなるという結論は変わらないでしょう。
まとめ
特定のトレーニング方法を評価して、取り入れるか取り入れないかを判断する場合には、トレーニング効果というプラス面だけでなく、疲労や筋肉痛といったマイナス面も考慮にいれたうえで、総合的に考えることが重要です。
これはトレーニングに限らず、サプリメントやリカバリーメソッドの効果にも当てはまることです。
何事にもプラスとマイナスがあるので、その両面を見てあげることが大切だな〜と思います。
で、ウエイトトレーニングの高負荷vs低負荷ということでいうと、できることなら高負荷でトレーニングしたほうが総合的にはメリットが大きそうです。
動画 トレーニング強度
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【編集後記】
音声教材の販売を始めました。
新たなカテゴリーの発信手段として、少しずつラインアップを増やしていこうかと考えています。