PAP研究の流行
ちょうど私が大学院で学んでいた2000年代の頃、「post-activation potentiation」についての研究がとても流行っていました。
「post-activation potentiation」はその頭文字をとって「PAP」と略されることもあります。
かなりざっくりと説明すると、「重いスクワットを1〜数セットやった数分後にジャンプをするとパフォーマンスが向上する」みたいな感じです。
「スクワット」と「ジャンプ」の部分はあくまでも例なので、他にもいろいろなパターンで調べられています。
研究をする立場からすると、こういうタイプの実験は簡単だからやりやすいんですよね。
だから、2000年代にめちゃくちゃ流行ったんだと思います。
» 参考:【論文レビュー】クウォータースクワットvs.パラレルスクワット:活動後増強(post-activation potentiation)
PAP研究の活用法
PAPの研究結果は、主に2つの活用方法が考えられます:
- ①試合前ウォームアップ
- ②コンプレックストレーニング
①に関しては、試合開始の数分前に高重量でスクワットをやる、みたいな環境があるのは珍しいので、実際に活用するのは現実的ではないかもしれません。
一方、②に関しては、高重量ウエイトエクササイズと爆発的エクササイズを組み合わせる形の「コンプレックストレーニング」という手法に活用できそうな気がします。
しかし、PAPによるパフォーマンス向上効果は8-12分後に最も高くなるとも報告されており、高重量ウエイトエクササイズと爆発的エクササイズの間に10分前後も休息するとなるとトレーニング時間が長くなりすぎるので、それはそれで現実的ではないと個人的には思います。
» 参考:【論文レビュー】コンプレックストレーニングは実用的?
PAPとPAPEって何が違うの?
研究の世界でも流行り廃りがあり、2000年代にはかなりの数を目にしたPAP関連論文も、最近はその数がすっかり少なくなりました。
だいぶ調べ尽くされてしまった、というのと、実用性に乏しいことがわかってきた、という2点がその理由だと推測されます。
そんな中、ここ5年ほどの間に、PAPではなくPAPEなる略語を目にする機会が増えてきました。
すでに一部の研究者やS&Cコーチの間では、「え、まだPAPなんて言ってるの?遅れてるね〜!今はPAPEっていうのがナウいんだよ!」みたいなことになっているとか、いないとか。
そこで今回のブログでは、「PAPとかPAPEとかPPAPとか言われても、なんだかわけがわからないよ!」という方を対象に、それらの言葉の意味するところの違いについて解説してみます。
まず、PAPEとは「post-activation performance enhancment」の略語です。
主に2000年代に多く研究されてPAPと呼ばれてきた現象は実際にはPAPではなく、PAPEと呼んだほうが正確なんじゃないか、というのがここ5年ほどで言われるようになってきたことです。
つまり、今まで我々がPAPと思ってきたものがPAPではなかった、ということです。
「じゃあ、真のPAPって何なの?」って思いますよね?
真の「PAP」というのは、筋肉が大きな力を発揮した後に、その筋肉を電気的に刺激した時に起こる単収縮(twitch)が増強されることを指している用語です(Vandervoort et al. 1983)。
単収縮における力の最大値やRFD等が増強されることが報告されています。
真のPAPの場合には、本人の意識とは無関係に(不随意的に)、筋肉を電気的に収縮させている、というのがポイントです。
電気的に筋肉を刺激しているので、神経系が活性化されたということはなく、筋肉内で何かしらの現象が起こった結果として、単収縮が増強されたと考えられます。
とくに、「ミオシン軽鎖のリン酸化」が「真のPAP」のメカニズムの候補としては有力なようです。
一方で、PAPEというのは、筋肉が大きな力を発揮した後に、随意的な(自ら意識して実施する)動きのパフォーマンスが向上することを指している、というのがポイントです。
つまり、真のPAPとPAPEの違いは、向上もしくは増強しているのが、不随意的な動きなのか随意的な動きなのか、という点です。
PAPEにおいて随意的な動きのパフォーマンスが向上するメカニズムの1つとして、真のPAP(つまりミオシン軽鎖のリン酸化)が貢献している可能性はあるものの、それ以外にも神経系の活性化や筋温の上昇、筋肉の含水量増加等が関与している可能性も指摘されています。
だから、真のPAPとPAPEをイコールと捉えるのは正しくない、別の呼び方をしよう、という動きがここ5年ほどの間にでてきた、というわけです。
さらに言うと、PAPEによるパフォーマンス向上効果は最初の運動後8-12分ほどしてピークに達する一方で、真のPAPによる単収縮増強効果は最初の運動直後が大きく、28秒後にはその効果の大きさが半減するとも言われています。
つまり、真のPAPとPAPEとでは、向上もしくは増強効果の時間経過が大きく異るということです。
PAPEによるパフォーマンス向上効果がピークに達する最初の運動後8-12分というタイミングにおいては、真のPAPによる増強効果はほぼ消えてしまっているので、PAPEによるパフォーマンス向上メカニズムの1つとして真のPAPが貢献している可能性はかなり小さいとも考えられます。
だからやっぱり、PAPとPAPEは別物として捉えて、適切な用語を使い分けましょう、ということなんですね。
まとめ
メカニズムを考えるうえでは、PAPとPAPEは別物としてしっかりと区別して、用語を使い分けることが重要でしょう。
一方、スポーツ現場で働くS&CコーチがPAPEを活用しようとしている限りにおいては、用語の違いはそれほど重要ではないかもしれません。
メカニズムなんてどうでもいいから、パフォーマンス向上やトレーニング効果向上に繋がるのかどうか、繋がるならどういうやり方が最適なのか、が知りたい、という方がほとんどでしょうから。
なので、現場の方が今回のブログを読んだからといって、明日から何かが変わるということはないかもしれません。
一応、研究の世界においては、PAPと呼んでいたものをPAPEと呼び直す動きがあるんだよ、ということを知識として持っておいていただけば。
※ちなみに、PPAPはペンパイナッポーアッポーペンの略です。
参考文献
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【編集後記】
自宅の建築がだいぶ進んできて、7月には引越しできそうです。
ただ、その入居前後には、いろいろとやることがあったり、お金もかかったりして、かなり大変ですね・・・。
早くここを乗り越えて、新居での生活をエンジョイしたいものです。