#557 競技者としてバーベル競技をやっていた経験は、S&Cコーチとして弱みにもなりうる諸刃の剣

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競技者としてバーベル競技の経験がないけど、それでもいい

私は、自分自身が競技者として、ボディビルディング・ウエイトリフティング・パワーリフティング等のバーベル競技をやっていた経験がありません。

S&Cコーチになるべく勉強を始めた当初は、そうした経験がないのはマイナスなんじゃないか、と考えていました。

  • ボディビルディングの経験があれば、筋肥大させることが得意なはず
  • ウエイトリフティングの経験があれば、クリーンやスナッチ等のエクササイズを指導することが得意なはず
  • パワーリフティングの経験があれば、スクワット・ベンチプレス・デッドリフトを指導することが得意なはず

だから、それらの競技の経験を持っている周りのS&Cコーチに対して、引け目を感じているところがありました。

自分には得意とするところ(=武器)がないんじゃないか、という感じで。

 

しかし、さまざまな経験をした今となっては、そうしたバーベル競技をやっていなかったことが、むしろS&Cコーチとしての自分の強みに繋がっているのではないか、と考えるようになりました。

その「強み」とは、「バイアスのない状態で、アスリートの体力を向上させるのに必要なエクササイズのやり方(=フォーム)を徹底して追求して指導することができる」という点です。

 

 

バーベル競技のスクワット vs. S&Cのスクワット

たとえば、「スクワット」というエクササイズがあります。

これは、ボディビルダーもウエイトリフターもパワーリフターも実施しているエクササイズです。

しかし、スクワットのフォームは目的によって大きく異なります。

  • ボディビルダーは特定の筋肉の筋肥大という目的のために最適なフォームでスクワットをします。
  • ウエイトリフターはスナッチとクリーン&ジャークでより高重量を持ち上げるという目的に繋がるようなフォームでスクワットをします。
  • パワーリフターはスクワットが競技種目の1つなので、ルールの範囲内で、できるだけ重い重量を挙げられるようなフォームでスクワットをします。

したがって、一言で「スクワット」と言っても、そのフォーム(=手段)は目的によって大きく異なるのです。

つまり、ボディビルダーがウエイトリフターのスクワットを見て「あのフォームはダメだ」と言ったり、パワーリフターがウエイトリフターのスクワットを見て「フォームを変えれば、もっと高重量を挙げられるはずなのに」と言ったりするのはナンセンスなのです。

そもそも、それぞれの目的は異なるのですから。

実際には、バーベル競技のアスリートが、他のバーベル競技のアスリートのフォームに口出しをしているところを見ることはほとんどありません。

お互いに、目的が違うからやり方(=手段)も異なるという点を理解しているからでしょう。

 

S&Cコーチとして、バーベル競技以外のアスリートにトレーニング指導をする時にも、スクワットを使います。

一般的に、アスリートにスクワットをやってもらう目的は、見た目をよくするための筋肥大ではなく、ウエイトリフティング競技に繋げるためでもなく、できるだけ重い重量を持ち上げるためでもありません。

じゃあ何が目的かというと、より良いアスリートになるために必要な体力を向上させるためです。

具体的には「ケツ(殿筋)の筋力強化」です。

 

ケツの筋力が強くなれば、腰や膝への負担が減り、ケガをしづらい身体を作り上げることができます。

また、競技中の走る・跳ぶ・止まる・曲がる等の動きにおいて、ケツの筋力を使えるようになると、パフォーマンス向上にも繋がります。

私は、そのような目的のために最も適したフォーム(=手段)でアスリートにスクワットをやってもらっています。

具体的には、GS Performance式のスクワットです。

 

このスクワットのフォームは、一見、面倒くさい窮屈なフォームに見えます。

しゃがんで立ち上がるという動作だけを考えると非効率的にも感じられるかもしれません。

でも、それでいいんです。

自然にORラクにしゃがんで立ち上がるのが目的ではないし、より高重量を持ち上げることが目的でもないからです。

「競技力向上に繋げるためにケツを鍛えたい」

それを追求すると、このようなスクワットのフォームになるということです。

 

私はS&Cコーチなので、アスリートの体力向上という目的に合致したフォーム(=手段)を徹底的に追求して、そのやり方で指導するだけの覚悟ができています。

しかし、アスリートにやらせるS&Cトレーニングとしてのスクワットに関する議論をインターネット等で見ていると、元あるいは現役のバーベル競技の競技者の方が、自分たちのやり方が正しいというバイアスを完全に捨てきれないまま、S&Cにおけるスクワットに口出しをしているのを見かけることがあります。

「S&Cにおけるスクワットは目的が違うから別物であり、フォームは異なっていてもいい」と至極まっとうなことをおっしゃっている人でも、どうやらバイアスを捨てきるのは難しいようで、的はずれな議論をされていることが多いです。

 

 

バーベル競技をやっていたことから生まれるバイアス

S&Cコーチが競技者としてバーベル競技をやっていた経験があると、なかなか自分の競技におけるやり方(=フォーム)がベストなんだ!というバイアスを捨てることができず、S&Cのためのフォームを徹底することが難しいのではないかと感じています。

「バーベル競技とS&Cは別物である」ということは頭ではわかっていても、バイアスを完全に捨てきるのは相当難しいようです。

それなら、そもそも不必要なバイアスを持っていない状態で、S&Cとしての手段を徹底的に追求することができる私のようなバーベル競技未経験者のほうが、S&Cコーチとして成功しやすいのではないかと今では考えています。

 

もちろん、バーベル競技の経験者は優秀なS&Cコーチになれないと言っているわけではありません。

ただ、バーベル競技を経験したことにより身体に染み付いているバイアスを完全に捨て去り、S&Cを追求することは、かなりハードルが高い作業であると言っているのです。

そのようなバイアスを持ってしまっているという点で、バーベル競技の経験者は、優秀なS&Cコーチを目指す上でハンデをおっていると言っても過言ではないでしょう。

 

 

まとめ

私のように、バーベル競技を競技者としてやった経験のないS&CコーチまたはS&Cコーチ志望者の方は、それで引け目を感じる必要はまったくありません。

むしろ、変なバイアスや主観が入らずに、S&Cという目的を達成するための手段を徹底して追求することができるという点で、有利な立場にいると考えていいでしょう。

バーベル競技経験者でS&Cコーチとして活動している、または志望されている方は、無意識のうちにバイアスを持ってしまっているぶん、S&Cコーチとしては不利な立場にあるという点を自覚してください。

それを乗り越えるのは高いハードルですが、覚悟を決めて、常に「目的と手段」という点を意識しながら判断を下すように努力し続ければ、乗り越えられるはずです。

 

 

2022年3月17日加筆

こんな記事を書くと、バーベル競技経験者のS&Cコーチから嫌われてしまいそうです。

でも、決してそういう方たちをディスりたいわけではありません。

バーベル競技経験者であっても、S&Cとの違いをしっかりと認識されて、注意をしながら他競技のアスリートを指導されている方はいます。

ただ、自分がやっているバーベル競技に誇りを持っていると、「そのバーベル競技のやり方が正しいんだ」と思いたくなってしまったり、そのバーベル競技のコミュニティ内の他の人からの目を気にしてしまって、そのバーベル競技においては正しいと考えられているやり方から外れたやり方を指導するのに抵抗があったりするケースがあると思うんです。

 

私自身はバーベル競技の経験はありませんが、大学や大学院で指導を受けた先生方にウエイトリフティング出身者が多かったので、その影響を受けて「ウエイトリフティング的なやり方が正しいんだ」というバイアスを若い頃に持っていました。

そこから少しでも外れたやり方をするのには抵抗感を覚えることもありました。

どっぷりとウエイトリフティングを競技としてやっていなかったのにもかかわらず、なかなか捨てきれないバイアスを持ってしまった私の経験から考えると、競技者としてバーベル競技をやられていた方が、自分がそのようなバイアスを持っている可能性がある、ということをまずは認識して、それを捨てて、他競技のアスリートの体力向上のためのトレーニングを考えるのはとても難しいんだろうな〜と想像できます。

ただ、難しいけど不可能ではないはずです。

まずは自分がそのようなバイアスを持っているかもしれない、ということを認識した上で、注意をしながら他競技のアスリートに指導していただければ。

 

最後に、そのような注意をしながらS&C指導をされているバーベル競技者の方の記事を紹介しておきます。

私がごちゃごちゃ言うよりも、受け入れやすいのではないかと思います。

参考 バーベル競技者が他競技アスリートへウエイトトレーニングを指導する際の10の心得SBD_コラム

 

 

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【編集後記】 

テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」で紹介されていた「インベスターZ」という漫画にハマっています。投資などのお金の話が中心のストーリーで、とても勉強になります。

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