先日、Twitter上で「血液クレンジング」なるものが拡散され、バスっていました。
血液クレンジングとは、血液を採取し、医療用オゾンを血液に加えた後で体内に戻す治療法らしいです。
それが私が最初に抱いた印象でした。
時間が経つにつれ、Twitterをやっている医師たちの間からも「ニセ医学だ!」と非難するコメントが出てきました。
そして、下で紹介しているネット記事で、とても納得のいく解説を読んで「そうだよな〜」と思うと同時に、トレーニング分野でも同じような状況があるな〜と危惧を抱きました。
自分の健康や命に関わる「医療」でもこんな状況。「トレーニング」ではさらに野放し状態。
芸能人が拡散する「血液クレンジング」に批判殺到 「ニセ医学」「誇大宣伝」指摘も(BuzzFeed Japan) https://t.co/zop38omgCn
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
何の根拠もない怪しいトレーニングを大々的に宣伝して、あたかもそれさえやっておけば競技力が一気に向上するかのように謳っているものがメディアやSNSを賑わせるのは日常茶飯事です。
さらには、有名アスリートがそのトレーニングをやっている様子がメディアやSNS等で拡散されてしまうと、それを観た多くのアスリートが「あの有名アスリートがやっているなら、効果的なトレーニングに違いない」と勘違いしてしまうリスクも高くなります。
科学的根拠のないニセ医学を使ってお金を騙し取り、芸能人を使って拡散するのとまったく同じ構図です。
胡散臭いトレーニングを見極めるのは難しい・・・
医療の場合、科学的根拠がないもの、効果・安全性が科学的に検証されていないものは保険適用外になります。
医療の素人である一般人にとっては、保険がきかない「自費診療扱い」のものは疑うべし、というわかりやすい目安が存在しているわけです。
まあ、それでも「医師が薦めているなら間違いないだろう」と信じて、保険のきかない怪しい医療に手を出してしまう人がいるのも事実ですが・・・。
一方、トレーニングの場合、何が科学的根拠があって、何が科学的根拠がないのかのラインは、論文を読める専門家でもないと見極めるのは困難です。
つまり、医療における「保険がきくか、きかないか」のような、非専門家にとってもわかりやすい目安がトレーニングについては存在していないのです。
だからこそ、トレーニングの有効性を見極める時に「あの有名アスリートがやっている」とか「メディアで取り上げられていた」という表面的な情報に頼らざるをえないのでしょう。
しかし残念ながら、有名アスリートが活躍をしている理由が特定のトレーニングにあるケースはほとんどありませんし、メディアが取り上げるのは効果のあるトレーニングではなく目新しいトレーニング(視聴率がとれる・売れるトレーニング)です。
したがって、「エセトレーニング」が流行してしまうリスクは、「エセ医学」が拡散してしまうリスクよりも高いでしょう。
科学的根拠のない胡散臭いトレーニングを有名アスリートがやっていることがメディアで拡散されているのを観て、忸怩たる思いになったのは一度や二度ではありません。
さらにやっかいなのは、「科学的根拠のないトレーニング」は必ずしも「効果のないトレーニング」というわけではないという点です。
まだ科学的に検証されていないとか、科学的に検証するのが難しいといった理由で、「科学的根拠はないけど効果があるトレーニング」というのは存在しうるのです。
だからこそ、科学的根拠がないという理由だけで、特定のトレーニングを「ダメ!」と決めつけて非難をするのが難しいのも事実です。
とはいえ、だからといって科学的根拠なんて意味がない・必要ないというわけではなく、「できるかぎり」科学的根拠にもとづいたトレーニング指導を提供しようとする姿勢は、専門家としては絶対的に必要です。
それが専門家としての責任であり倫理観というものでしょう。
そうした努力を怠り、「トンデモトレーニング」を拡散したり、アスリートに提供している専門家は、倫理的に問題があると言わざるをえません。
効果がはっきりしたトレーニングは当たり前でつまらないもの
冒頭のツイートで紹介したネット記事の中で、心に響いた言葉があります。
健康な人がより健康になりたい、病気を予防したいと願うのは当然です。ただ、お金を払えば手軽に健康が得られるような方法はまず存在しません。
効果がはっきりした健康法は、適正体重の維持、適度な運動、バランスのよい食事、禁煙といった当たり前でつまらないものです。
効果が不明確な健康法にお金をつぎ込む前に、これらの当たり前の健康法を行うほうがお得だと思います。
まったく同じことがトレーニングにも当てはまります。
手軽に体力を向上することができるようなトレーニングはまず存在しません。
効果がはっきりしたトレーニングは、当たり前でつまらないものです。
そして、多くの場合、キツいものです。
そうした当たり前でつまらないトレーニングに地道に取り組む努力をせず、効果が不明確なトレーニングに手を出しても、時間や労力の無駄です。
多くのアスリートはなんとなく気付いているはずです。
しかし、地味でツラいトレーニングを継続するのは大変なので、そこから目をそらして、ラクで真新しいトレーニングに食いついてしまうのでしょう。
まとめ
自分の命や健康がかかっている医療でさえ、ニセ医学が流行して騙される人が後をたたないのが現状です。
国家試験に受からないと医師になれないという高いハードルがある業界でさえそうなのですから、資格なんて必要のない、誰だって今日から「私はトレーニング指導の専門家です」と宣言して活動できてしまうトレーニング業界の状況は、推して知るべしでしょう。
専門家である私の立場としては、ブログやSNSを通じて、正しい情報を発信し続けることしかできません。
また、ネット等でトンデモトレーニングを見かけた時は、科学的根拠がないことだけで批判するのは難しいので、「私だったらお金を貰ってもそのトレーニングはやりません!」という形で指摘しようと思います。
逆に、トレーニングを実施するアスリートの皆さんには、トレーニング情報の真偽を見極める目をぜひとも養っていただきたいです。
すぐに身につけることは難しいかもしれませんが、よ〜く注意をしてさまざまな人が発信している情報を精査することを続けていれば、見えてくるものがあるはずです。
» 参考:【アスリート向け】アスリートも「トレーニング情報リテラシー」を身に付ける必要があるのでは?
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【編集後記】
昨日は「S&Cコーチとして押さえておきたい考え方セミナー」を実施しました。
今日のブログトピックと少し関連がある内容で、このセミナーでお伝えしたことを理解していれば、トンデモトレーニングに騙されるリスクも大幅に減るはずです。
今考えてみると、S&Cコーチだけでなく、競技コーチやアスリートにも知っておいていただきたい内容なので、セミナータイトルの付け方を間違えたかな〜と反省しています。
ちょっと改名をして、リニューアルをしようか考え中です。