私はこれまで、自分が正しいと思うことを誠実に愚直にやっていれば、S&Cコーチとして周りからは正当な評価をもらえるものだと思っていました。
そして「私は〇〇(有名アスリートや有名チーム)のトレーニング指導をしています!」という形で、実績のあるアスリートやチームの名声を利用して自身を宣伝している同業者を冷ややかな目で見ていました。
まあ、今でも、中身がないのに宣伝だけしている人は冷めた目で見ていますが。。。
ただ、「正しいことをやっていれば・・・」という考え方は甘かったな、お子ちゃまだったな、と思うように変わってきました。
S&Cコーチとしての自分を実力以上に大きく見せようとは思いませんが、「箔をつける」のは重要だと考えるようになったのです。
S&Cコーチとして「箔をつける」ことを考え出したキッカケ
S&Cコーチとして「箔をつける」ことを考えるようになったキッカケの1つが、2018-19シーズンにBリーグ2部のアースフレンズ東京ZというチームでS&Cコーチとして働くようになったことです。
日本でバスケチームのトレーニング指導を担当するのは初めてでした。プロも大学も高校も含めて。
当然、日本のバスケ界では私は無名の存在でした。
なので、最初にチームでトレーニング指導を始めた頃は、「こいつ誰だ?」と選手たちに思われていたはずです。
一般的に、新任のS&Cコーチがチームでの指導を開始するときは、多かれ少なかれ、選手たちから値踏みされるような時期はあるものでしょう。
信頼を得るには時間がかかるものです。私もそれは覚悟していました。
しかし、それにしても、想定以上に、なかなか信頼を得られないな〜、すごい疑いの目で見られてるな〜、という感覚がありました。
振り返って考えてみると、私のトレーニングのやり方が、それまで選手たちが経験してきたやり方とは大きく異なることが原因の1つだったと感じています。
というのも、選手たちがこれまで大学や以前所属していたチームでやってきたトレーニングの内容を聞く機会がたびたびあり、私としては「うーん」と唸ってしまうような内容が多かったからです(注:すべてが「うーん」だったわけではありません)。
良い悪いはべつとして、少なくとも、私のやり方やトレーニング哲学とはかけ離れていました。
私としては、自分のやり方には自信があったので、選手たちがこれまでやってきたやり方を否定するのは避けつつも、なぜ私は私のやり方でトレーニングをやってもらっているのかを、できるだけ論理的に選手たちに説明するよう努めました。
それでもなかなか選手からの信頼を得ることができませんでした(少なくとも私はそう感じていました)。
バスケ界では無名だった私がどれだけ論理的に説明したとしても、日本バスケ界で強豪とされる大学やチームで長年トレーニング指導をされているトレーナーの方たちのほうが、選手たちからの信頼度が圧倒的に高かったのです。
正直、私はお名前を存じ上げない方が多かったのですが、バスケ界の中では有名だということでした。
つまり、そういう方たちは、バスケ界では「箔がついている」ということです。
バスケにかぎらず、それぞれの競技の中で有名なトレーナーさんというのはいるものなんだろうと思います。
なぜ「箔をつける」のか?
そのような経験をして、「結果に繋がるトレーニング指導を提供できる」とか「なぜそのトレーニングをするのか論理的に説明できる」だけでは不十分だと思うようになりました。
まずは、「河森のトレーニングをやれば効果が出る」と選手たちから信頼してもらう必要があります。
なぜなら、せっかく効果のあるトレーニングを提供しても、「こんなトレーニングやる意味あるの?」と半信半疑で取り組んでもらうようでは、効果が半減してしまうからです。
そんな信頼を得るために手っ取り早いのが「箔をつける」ことです。
なぜそのトレーニングをやるのかを論理的に説明できようができなかろうが、箔がついていれば、アスリートは話を聞いてくれるし、信頼してトレーニングに取り組んでくれます。
邪道なやり方に思われるかもしれませんが、トレーニング効果を出すという目的を達成するための手段としては、非常に有効です。
あとは、箔をつけてそれを上手に活用しつつ、必要であれば論理的に説明できるように準備しておき、結果に繋がるトレーニングを提供できるように腕を磨いておけばいいのです。
そうすれば鬼に金棒です。
中身のない「箔」はだだのメッキでいつかは剥がれてしまいますが、中身さえしっかりしていれば「箔をつける」ことやそれを利用することは決して悪いことではありません。
もちろん、トレーニングを実際にやってもらって効果を実感してもらうことによって、アスリートからの信頼を得るほうが王道です。
それが理想ではあるでしょう。
しかし、そのやり方の問題点は「トレーニング効果が出るには時間がかかるから、信頼を得るのにも時間がかかる」ということです。
すぐに結果を出すことが求められておらず、数年単位の長期計画でトレーニング指導をできる状況であれば、そういうやり方もアリでしょう。
徐々に信頼を勝ち取っていけばいいのですから。
しかし、プロスポーツのような世界では、そんな悠長なことは言ってられません。すぐに結果を求められるので。
そういう場合は、「箔をつける」ことで手っ取り早く信頼を得て、トレーニングに積極的に取り組んでもらい、できるだけ早く結果に繋げるという戦略も必要だと感じます。
まとめ
S&Cコーチとして結果を出すには、自分が正しいと思うことを誠実に愚直にやるだけでは不十分かもしれません。
1つの手段として、「箔をつける」ということも意識して活動をしたり、発信をしたりしてみましょう。
また、一言で「箔をつける」といっても、S&Cコーチとして一般的に「箔をつける」のと、特定の競技の世界のなかで「箔をつける」という2つのタイプの箔のつけ方を意識したほうが良いかもしれません。
少なくとも私の場合、「博士号を持っている」とか「海外留学していた」とか「国立スポーツ科学センターでオリンピック選手をトレーニング指導していた」とか「それなりに読まれているブログを書いている」とか「専門書を出版している」とかいうS&Cコーチとしての一般的な「箔」は、バスケ界では通用しませんでした。
もともとトレーニングに関心が高く情報収集をしている選手の中には、私のブログやツイッターをフォローしてくれていた選手もいましたが、ほんの一握りでした。
昔、「踊る大捜査線」というドラマで、いかりや長介さんが演じる和久さんの名セリフ「青島、正しいことをしたければ偉くなれ」というものがありましたが、これはなかなか奥が深い言葉だな〜と改めて感じています。
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【編集後記】
先日、健康診断を受けました。バリウムを飲んだあとの白いウンチは、トイレを流してもなかなか流れてくれません。流れたと思っても、時間がたつとひょっこり顔をのぞかせます。バリウムあるあるでしょうか。