#92 『Get Long, Get Strong』:持久系アスリートに対してレジスタンストレーニングを処方したり指導したりする時のフィロソフィー⑦

※本ブログはアフィリエイト広告を利用しています

 

14598040756 7b9b6c9071 b

 

あと2つ続きます。

 

 

第7条「Get Long, Get Strong」

はい、すいません、英語です。

副題の日本語は「可動域を広げ、その可動域いっぱいでトレーニングする」です。

 

この英語の表現方法はもともとCharlie Weingroffというアメリカ人の理学療法士兼S&Cコーチのものです。

要するに、ストレッチポールコロコロや静的ストレッチ、モビリティドリル等の方法によってまずは可動域を広げておいて、その後その広がった可動域をできるだけいっぱい使ってトレーニングしましょうって事です。

 

持久系競技においては可動域の一部しか使わず、しかもその制限された可動域内の運動を何百・何千・何万回と繰り返すので、柔軟性が低下する傾向があります。

ですので、まずは可動域の向上を図りましょうという話になります。

 

しかし、可動域を向上させても、その新たに獲得された可動域における筋力やスタビリティの向上が伴わなければ、逆にケガのリスクが増えてしまう可能性があるので、しっかりと可動域をいっぱい使ってレジスタンストレーニングをしましょうという事です。

そうする事によって、ただ単純に動かすことのできる可動域ではなくて、しっかりと筋力を発揮して動きをコントロールする事のできる「ファンクショナルな可動域」を向上させる事ができるでしょう(ファンクショナルという言葉を使うべきか迷いましたが他に適切な言葉が思い浮かびませんでした)。

 

また、ストレッチポールコロコロや静的ストレッチ、モビリティドリル等の方法によって一時的に可動域が広がっても、継続して実施しないと元に戻ってしまいますが、一時的に可動域を広げた後にその可動域をいっぱいに使ってレジスタンストレーニングを実施する事で、広がった可動域が元に戻りづらくなる、要するに一時的な可動域の向上が定着しやすくなるという主張をする人もいます。

本当にそうなのか、今のところ私にはわかりません。

でも、可動域を広く用いたレジスタンストレーニングが可動域向上、あるいはその定着にポジティブに貢献しうるという事は強く信じています。

特にエキセントリックな力発揮をしながら可動域を大きく使うようなエクササイズ(例えばRDL)は、場合によっては単純なストレッチ等よりも可動域向上効果が高いような気がします。

 

 

競技中の可動域が狭いのに可動域向上させる必要ある?

以上のような私の主張に対して「そもそも持久系競技においては可動域の一部しか使わないんだから、可動域を向上させる必要はないんじゃないか?むしろ、持久系アスリートの柔軟性が低いとしたらそれは競技特性に合わせて身体が適応した結果なんだから、それを変にいじってしまうほうがケガのリスクが増えたりパフォーマンスに悪影響を与えたりする可能性があるんじゃないか?だからレジスタンストレーニングも全可動域を使う必要はなく競技特異的な可動域を用いて実施するほうがいいんじゃないか?」というご意見をお持ちの方もいるでしょう。

しかし、私はそうは思いません。

具体例を挙げて説明します。

 

例えば、長距離ランナーの競技中の股関節の可動域が60°だったとします(適当に数字をピックアップしただけなので、実際どうなのかはわかりませんが、ここでの議論において正確な数字は必要ないので、このまま議論を続けます)。

このランナーはこの60°の可動域での運動を毎日何百・何千・何万回と繰り返しているわけです。

その結果(?)、いわゆるファンクショナルな可動域も60°になっているとします。

「そもそも競技中に60°以上は股関節が動かないし、ファンクショナルな可動域も十分備わっているから、可動域をこれ以上広げようとするのはナンセンスだし、例えばスクワットするなら股関節は60°以上使う必要はなく、むしろこの60°という可動域の範囲内の筋力を向上させるのが有効だ」という考え方は一見合理的に聞こえますが、果たしてそうでしょうか?

このアスリートにとって、競技中に股関節を60°動かすのが本当にベストなフォームなのでしょうか?

 

もしかしたら、ファンクショナルな可動域が60°だから、競技中の可動域も60°以上に広げられないという可能性もあります。

もしストレッチ等で可動域を広げてその可動域をいっぱい使ってトレーニングする事によってファンクショナルな可動域が70°に広がったとしたら、もしかして競技中も70°股関節を動かす事によってパフォーマンスがアップするかもしれません。

つまり、体力的な限界(この場合ファンクショナルな可動域)が実際の競技中のベストなフォームというかテクニックを制限しているという考え方です。

体力が向上すれば、それに伴って競技中のパフォーマンスを最大限にするテクニックも変化する可能性があり、もしこれが本当なら、「競技中の可動域が60°だからそれ以上の可動域は必要ないし、トレーニングでもこれ以上の可動域を用いる必要がない」という考え方はナンセンスという事になります。

 

実際のところ、ランナーの股関節の可動域が60°から70°に増えると、それだけ大きな力積を生み出す事ができるポテンシャルも上がり、理論的にはストライドが伸びそうです。

しかし、筋力の増加が伴わないと10°広がった可動域を動かすのに余計に時間がかかってしまうことになり、その結果ピッチが低下する可能性があり、ストライドとピッチの変化率の割合によってはランニング速度が低下する事も考えられます。

だからこそ可動域を広げるのに加えてこの可動域全体で筋力を上げるのが必要なのです。

もし可動域全域で筋力が向上し、股関節を70°動かすのにかかる時間が以前と変わらなくなったとすると、ピッチは変わらずにストライドが伸び、結果としてランニング速度が向上する可能性があるのです。

 

 

まとめ

以上、長距離ランナーの例はあくまでも仮想のお話ですが、私の理論的な考え方を説明するには十分でしょう。

要するに、体力が競技テクニックの制限因子となりうるので、競技テクニックだけを見てそれに合わせて体力トレーニングを考えるのはどうかという事です。

持久系アスリートの競技中の可動域に関係なく、トレーニングではGet long, get strongを方針にガシガシ鍛えるのが私のやり方です。

持久系競技とは関係ありませんが、ジャンプ能力を向上するのに、ジャンプでの可動域よりも大きな可動域を使ったパラレルスクワットのほうがジャンプでの可動域に近いクウォータースクワットよりもトレーニング効果が大きかったという論文も存在します。

» 参考:スクワットの深さがジャンプパフォーマンスに与える影響

 

以上、第7条でした。

次回がこのシリーズ最終回です。

 

※もし記事がお役に立てたら、facebookで「いいね」を押したりtwitterでつぶやいたりして頂けるとうれしいです(^_^)