先日、以下のようなツイートをしました:
筋トレAとBを比較したら、Aの方が筋力向上効果が高く、しかもトレーニング量はAの方が少なかった、という論文を読んだ。
「より少ない量でより大きな効果を得られるからAの方が優れている」と筆者は主張しているが「量が少なかったからこそ効果が大きかった」という可能性を見落としている。
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
論文を読むときには、著者の主張を鵜呑みにせず、研究デザインや結果をみて自分なりの解釈をすることが大切である、と私はこれまで発信してきました。
なぜなら、筆者の主張には主観が入り込む余地があり、「この研究結果からは、そんなことまで言えないだろ!」という飛躍した主張をしているケースが多々あるからです。
» 参考:S&Cコーチとして学術論文を読めるようになるまでのプロセス
VBTとPBTを比較した研究
冒頭で紹介したツイートはまさに「この研究結果からは、そんなことまで言えないだろ!」パターンです。
具体的には、以下の論文を読んで、私が思ったことをつぶやいたものです。
最近流行りのvelocity-based training(VBT)と昔ながらのpercentage-based training(PBT)を比較した研究です。
今回は「論文レビュー」ではないので、具体的な内容については触れません。
ただ、研究結果のうち重要な点だけを簡単にまとめると:
- ベンチプレス1RMやカウンタームーブメントジャンプ(CMJ)の向上効果はVBT>PBTだった
- トレーニング量はVBT<PBTだった
ということになります。
この2点については、著者の主観が入り込む余地はなく、客観的な事実であったと考えることができます。
しかし、この事実にもとづいて、著者は「より少ない量でより大きな効果を得られるからVBTのほうが優れている」といった論調で議論を進めています。
そこに私は引っかかって冒頭のツイートをしたのです。
私が引っかかったのはVBTとPBTで「トレーニング量」が異なっていた点です。
VBTのほうが少なかったのです。
より少ないトレーニング量でより大きなトレーニング効果を得られたということで、それを著者は「より優れている」と解釈したわけです。
一方、私としては「PBTのトレーニング量が多すぎただけじゃないか?」「PBTのトレーニング量がもっと少なかったら、トレーニング効果はVBT<PBTだったかもしれない」と考えました。
あくまでも可能性でしかないので、実際にPBTのトレーニング量がもっと少なかったらどうなっていたかはわかりません。
トレーニング手法を比較する研究でトレーニング量を揃えるべきか?
一般的に、トレーニング手法を比較する研究においては、注目する変数以外はできるだけコントロールする(手法間で同じにする)のが好ましいと考えられます。
たとえばVBTとPBTを比較する場合は、「トレーニング負荷の設定方法」の違いを比較するのが1番のポイントなので、それ以外の変数はできるだけ同じにしたいわけです。
別々のエクササイズを実施していたり、トレーニング頻度が違っていたり、セット数やレップ数が違っていたり・・・だと、両者でトレーニング効果に違いが見られたとしても、その違いが「トレーニング負荷の設定方法」によって生じたのかどうかがわからないからです。
とはいえ、今回紹介した研究では、VBTにおけるレップ数や負荷はトレーニング中のバーベル速度をモニターして個人ごとに調整されていたので、事前にトレーニング量を規定することが難しい研究デザインでした。
したがって、トレーニング量をVBTとPBT間で揃えるのは非現実的だったとは思います。
しかし、たとえそうだったとしても、研究結果を解釈するうえでは、トレーニング量が違ったことがトレーニング効果に影響を与えた可能性があると認めた上で、議論を進めるべきでした。
それにもかかわらず、VBTはトレーニング量が少ないのにトレーニング効果は大きいなんて、素晴らしい!みたいな感じで、おもいっきり主観混じりの主張をしていたので、思わず夜中にツイッターでつぶやきたっくなったのです。
著者がそんな主観たっぷりの解釈をしてしまった原因はおそらく2つあります:
- ①著者は「PBTよりもVBTのほうが優れているはずだ」と予想していた
- ②トレーニング量は多いほうがトレーニング効果も高いはずだ、という勘違いがあった
①著者は「PBTよりもVBTのほうが優れているはずだ」と予想していた
悪く言えば「バイアス」があったということです。
VBTのほうがいい、と思い込んでいると、VBTに都合のよい解釈をしてしまうものです。
できるだけ客観的な目で研究結果のデータをみる、という姿勢が欠けていたのかもしれません。
とはいえ、研究をするときに仮説を立てるのは一般的なことであり、それ自体は悪いことではありません。
「PBTよりもVBTのほうが効果があるんじゃないか?」と仮説を立てて、それを検証するために研究をするのは正しいやり方です。
そこは間違っていません。
しかし、その仮説を検証するために研究をやって得られたデータを解釈するときには、できるだけバイアスを排除して、客観的な姿勢で向き合うことが求められます。
たとえば、仮説と真逆の結果がでたとしたら、なぜそのような結果がでたのかを検証したうえで、場合によっては仮説が間違っていたと認めることも大切です。
残念ながら研究者も人間です。
どれだけ客観的に研究結果を解釈しようと注意をしても、完全にバイアスを排除することは難しいかもしれません。
だからこそ、論文を読むときは著書の主張を鵜呑みにせず、研究デザインや結果をみて自分なりの解釈をする能力を身につけたほうがいいのです。
②トレーニング量は多いほうがトレーニング効果も高いはずだ、という勘違いがあった
「トレーニング量が少ないにもかかわらず、トレーニング効果は高かった(からそっちのほうが効率がいい)」という解釈をする裏側には、「トレーニング量は多いほうがトレーニング効果も高いはずだ」という考え方があったはずです。
しかし、トレーニング量というのは、多ければ多いほどいいというものではありません。
適切な量というものがあるはずなので、それより少なくても多くても、トレーニング効果は下がってしまいます。
実際に、ウエイトトレーニングを10セットやるよりも、その半分の5セットやるほうが筋力向上効果が高いと報告している研究もあるくらいです。
多ければいいってもんじゃないのです。
» 参考:トレーニングにおいては、足し算よりも引き算が重要(だけど難しい)
今回紹介した論文の著書がそのことを認識していれば、結果の解釈も異なるものになっていたのではないかと思います。
まとめ
トレーニング効果を調べた論文を読むときには、今回説明したようなことも気にしてあげると、正しい解釈ができるようになります。
で、今回紹介した研究を解釈するのであれば、VBTグループがやったトレーニングのほうがPBTグループがやったトレーニングよりもベンチプレス1RMやCMJの向上効果が高かったことは間違いありません。
しかし、その差の原因が負荷設定の仕方の違いにあるのかどうかは、この研究からはわかりません。
トレーニング量がグループ間で異なっていたからです。
つまり、複数のトレーニング手法を比較して、トレーニング効果に違いがあった場合に、「その原因は〇〇にある」と結論づけるためには、〇〇以外の変数をコントロールする(同じにする)必要があるのです。
とはいえ、着目しているトレーニング変数以外はすべてコントロールしていないと、その研究結果は意味がないのかといえば、必ずしもそうではないのですが、それについてはまたべつの機会に書きたいと思います。
また、可能性としては、VBTという手法を用いることがトレーニング量を抑えることに繋がり、それがトレーニング効果を高めることに貢献した、ということも考えられます。
つまり、VBTという強度設定手法を使うことのメリットは、過剰なトレーニング量を防ぐことである、という可能性です。
しかし、それを確認するためには、単純にトレーニング量を減らしたときにトレーニング効果が高まるかどうか等を検証する必要がでてきます。
更に言うと、検証のための追加研究をして、実際にVBTという手法を用いるとトレーニング量を抑えることに繋がること、そして、トレーニング量を減らしたほうがトレーニング効果が高まること、の2点が確認されたとしても、その場合は、VBTという負荷設定方法が重要なのではなくてトレーニング量が過剰にならないように調整することが重要であるという結論になるはずです。
どちらにしろ、この研究だけでは、VBTのほうが優れているなんてことは言えないのです。
にもかかわらず、SNS等においては、1つの論文だけを紹介して「VBTのほうが効果があるかもしれません」みたいな感じで薄っぺらい発信をしている人がいるのも事実です。
やはり、自分で論文を読んで解釈できるようにしておくこと、そして、そのような発信を見たら自分自身で論文を読んで確認すること、が重要です。
» 参考:誰かが学術論文を引用して意見を発信していたら、その学術論文を読んでチェックしたほうがいい理由
動画 論文の読み方
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【編集後記】
携帯電話のキャリアをソフトバンクからワイモバイルに変えました。
iPhone6Sを使っていたので、SIMロックを解除して、その機種をそのまま使いつつ、ワイモバイルに変更した形です。
次のステップは機種をiPhone11に変えることです。
多分、これはSIMカードを入れ替えるだけで簡単に設定できるはずです。