アスリートのトレーニング指導を担当していると、勝つ時もあれば負ける時もあります。
そういう時にS&Cコーチとして、どのような心構えでいれば良いのか、私なりの考え方を紹介します。
勝たせてあげられなかった!?
数年前、ソチ五輪が終わった頃、とあるネット記事を読んだあとに、Twitterで以下のようなつぶやきをしました:
(1/2) サポートする側の人間の「アスリートを勝たせてあげられなかった」という発言には、「自分たちの力で勝たせてあげることができる」という驕りがみえる。勝つのはアスリート本人で、他の人が勝たせてあげることなどできないはず。
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
(2/2) 責任感のある発言だと感じる人もいるかもしれないが、私には無責任な精神論にしか聞こえない。自分の役割の限界を認識したうえで、その役割の中で自分にできるベストを尽くすのが本当に責任感のある行動だと思う。
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
今でもこの考えは変わらないです。
もちろん、アスリートやチームが負けた時には、その原因を検証する作業は必要です。
S&Cコーチの担当部分(トレーニング内容やコンディション調整)に問題があった場合もあるはずなので、S&Cコーチの立場として、改善できる部分を探す姿勢は重要だと思います。
しかし、スポーツにおける勝ち負けというのは、体力的な要因だけで決まるわけではありません。
戦術・技術・心理・環境・用具・相手との相性etcといったさまざまな要因が勝ち負けに影響しています。
したがって、体力面での準備が完璧だったとしても、他の要因が原因で負けてしまうこともあるわけです。
さらには、トレーニングが順調に進んでいたとしても、それが実際に競技成績や試合の結果に繋がるまでには時間がかかるので、それなのに試合結果に一喜一憂してトレーニング内容をしょっちゅう変えていてはいつまでたっても結果がでなくなってしまいます。
» 参考:トレーニング効果が競技成績向上に結びつく実感を得るのにかかる時間
アスリートやチームが負けるたびに「勝たせてあげられなかった」「私の責任だ!」と発言しているS&Cコーチは、一見熱くて責任感のある立派な人に見えるかもしれませんが、実際はS&Cコーチとしての役割やその限界を理解せずに精神論を振りかざす無責任な人だと私は思います。
もしかしたら、体力面の準備には大きな問題がなかったのに、他の要因のせいで負けたのかもしれません。
それなのに、冷静な分析をすることなく、「私の責任だ!」とかカッコつけて言っちゃって、その後の試合に向けての体力面の準備のやり方を変えてしまうと、せっかくうまくいっていたものを捨てることになり、逆効果になってしまうリスクがあるのです。
負けた試合に向けての体力面の準備を冷静に分析し、試合での身体の動きや主観的な調子等をアスリートにも確認したうえで、トレーニングやコンディション調整の部分では大きな問題がなかったと判断できるのであれば、たとえ1回や2回試合で結果が出ないことが続いたとしても、トレーニングやコンディション調整のやり方は変えずに継続することが、長期的に見ると成功に繋がるはずです。
仮に、本当にS&Cコーチのせいで「勝たせてあげられなかった」のであれば、そこまで勝敗にマイナスの影響を与えてしまうようなS&Cコーチは即刻辞任すべきです。
それなのに辞任もせず「私の責任だ!」と口だけで言っている人は、やはり逆に無責任だと思います。
そんなの口に出して周りに言う必要ないでしょ。
カッコつけているだけでしょ。
黙って責任とって辞めればいいでしょ。
まとめ
アスリートやチームが負けた時に、S&Cコーチは軽々しく「勝たせてあげられなかった」「私の責任だ!」と言うべきではないと思います。
そんな発言をした時点で思考停止に陥ってしまい、結果としてアスリートやチームのためになりません。
カッコつけるのはやめましょう。
冷静に負けた原因を分析する作業は重要ですが、そのうえで、S&Cコーチとしての担当部分について大きなミスがなかったのであれば、勝ち負けに一喜一憂せずに同じやり方を継続することがアスリートやチームのためになるはずです。
試合で負けるたびに「自分のやり方が間違っているんじゃないか?」と不安にならずに、分析したうえで問題なかった部分については自信を持って継続できるようになるためには、トコトン勉強してS&Cコーチとしての知識やスキルを磨き続けて、そして目の前のアスリートやチームを愛してトコトン考えぬくことが大切です。
そうすれば、試合結果に一喜一憂しないブレない軸を作り上げることができるはずです。
とはいえ、S&Cコーチの役割は勝つためのトレーニング指導を提供することなので、アスリートやチームが勝てなかったときに批判されたりクビになったりすることもあります。
そういうことが起こるのはしょうがないと割り切ることも重要です。
そのうえで、「勝たせてあげられなかった」「私の責任だ!」なんてカッコつけずに、S&Cコーチとしてできることを粛々と一貫性とプライドをもってやり続ける人のほうが、よっぽどカッコいいと思います。
» 参考:S&Cコーチとしての評価は、アスリートやチームの競技成績を抜きには語れない
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【編集後記】
先日、鰻屋さんで鰻重をいただきました。
食べログで3.92の点数がついている人気店で、お値段もそれなりでしたが、それでもナットクのお味でした。
たぶん、これまでの人生で食べた中で一番おいしい鰻重でした。
スーパーで売っているパック入りの鰻とはまったくの別物でした。
骨もないし、ふっくらしているし、タレもそんなについていなくて鰻そのものの味が楽しめました。
「今まで食べていた鰻は鰻じゃなかったのか・・・」と思うほどの衝撃でした。
私もS&Cコーチとして、本物のトレーニング指導を提供できるよう精進します。