元競泳選手の松田さんの記事をネットで読んで、共感する部分があったので紹介します。
メダリスト松田丈志の現地ルポ。「五輪と世界水泳は何が違うのか」
オフシーズンのトレーニングの重要性
この記事で私が共感したのは以下の部分です:
冬場のトレーニングは選手のパフォーマンスの下地となる。この下地の部分の不足は後から効いてくるボディーブローのようなものだ。テクニック、スピード、持久力ともにピカイチの萩野だからこそ表面上の戻りは早いが、下地の部分はなかなか戻ってこない。
競泳における「冬場のトレーニング」は、一般的には「オフシーズンのトレーニング」にあたります。
つまり、このコメントは、オフシーズンにおけるトレーニングの重要性について言及しているものです。
あるいは、オフシーズンにトレーニングを「やることの重要性」というよりも、「やらないと、シーズンに入ってからどんな悪影響があるのか」を説明していると言ったほうがいいかもしれません。
松田さんは、ご自身のアスリートとしての経験から、このような発言をされているのでしょう。
トレーニング指導の専門家としてさまざまなアスリートを観てきた私の経験からしても、松田さんが指摘されていることは真実です。
特に、シーズンが長い場合に当てはまることですが、オフシーズン中になんらかの理由でトレーニングが不足してしっかりと鍛えておくことができていないと、たとえシーズン中にトレーニングを継続したとしても、なかなかトレーニング不足を取り戻すことができず、シーズン終盤になるとごまかしがきかなくなってくるものです。
「下地の部分の不足は後から効いてくるボディーブローのようなものだ」という松田さんの表現は、まさに「言い得て妙」です。
競泳の萩野選手の場合は「表面上の戻りは早い」というコメントも納得です。
たしかに、もともと実力のあるアスリートの場合、オフシーズンのトレーニングが不足していても、なんとかしちゃうんです。
もともと強いんで、ごまかせちゃうと言うか。
それはそれで「スゴイな〜」と単純に感心してしまうのですが、やはり身体は嘘をつけません。
特に長いシーズンの終盤になると「下地の部分の不足」をごかますことができなくなってしまいます。
オフシーズンのトレーニング不足がシーズン(特に終盤)に影響を与える理由
たとえばオフシーズンが3ヶ月程度で、シーズンが9ヶ月も続くような競技においては、オフシーズンにおけるトレーニング(あるいはその不足)が、シーズン終盤に影響を及ぼすというのは、感覚的に理解しがたいかもしれません。
半年以上も前の時期にトレーニングをしっかり積めているか積めていないかが、シーズン終盤のパフォーマンスに影響を与えているとは想像しづらいでしょう。
ハッキリ言って、直接的には影響を与えていないでしょう。
ただし、トレーニングというのは、前の時期のトレーニングによる効果が、現在の時期のトレーニングに影響を与えて、それが次の時期のトレーニングに影響を与える・・・というように、連続する時間の流れの中で、前の時期にやったことの影響が波及しながら次へ次へと繋がっていくものです。
したがって、オフシーズンのトレーニング(あるいはその不足)が間接的にシーズン終盤のパフォーマンスに影響を及ぼすことは十分ありえます。
では具体的にオフシーズンのトレーニング(あるいはその不足)がシーズンに影響を与える理由はどのようなものが考えられるのでしょうか?
- ①シーズン開始時の体力レベルを上げておく(あるいはそれができていない)
- ②エクササイズのフォーム構築
①シーズン開始時の体力レベルを上げておく(あるいはそれができていない)
シーズン中もトレーニングを継続するのは必須です。
オフシーズンだけ一生懸命トレーニングしても、シーズンに入った途端にトレーニングを一切やめてしまうと、トレーニング効果を維持することはできません。
しかし、ひとたびシーズンに入ってしまうと、試合に向けて疲労を残さないように調整をする必要もあり、また、トレーニングよりも競技練習が優先されるため、トレーニング量は圧倒的に減ってしまいます。
トレーニング量が少ないと、体力を大幅に向上するのは難しく、トレーニング効果としては体力を維持する程度にとどまる可能性が高いです(伸びシロがたくさん残っているトレーニング初級者の場合は、トレーニング量が少なくても体力向上できる可能性はあります)。
で、維持できればまだいいほうですが、さすがにトレーニング量が著しく少ない状況が長く続いてしまうと、維持することさえも難しくなり、体力が少しずつ減少していくリスクが高まります。
しかし、比較的トレーニング量を確保できるオフシーズンにしっかりと鍛えておくことができれば、シーズンが始まる時点での体力を高めておくことができます。
貯金(貯筋?)をしておくことができるイメージです。
貯金をしておいたうえで、シーズン中もトレーニングを継続すれば、トレーニング量が減った結果、貯金を少しずつ切り崩すことになったとしても、すぐにスッカラカンになることはありません。
つまり、オフシーズンにしっかりとトレーニング量を確保してシーズン開始時の体力レベルを向上させておけば、長いシーズン中に体力が徐々に低下してしまったとしても、シーズン終盤における体力レベルが高い状態をキープしやすいのです。
もし、オフシーズンにしっかりと鍛えておくことができず、シーズン中盤あたりで著しい体力の低下を感じ始めた場合、シーズン終盤の重要な時期に向けて貯金を少しでも残しておくために、一時的にトレーニング量を増やして体力の向上を図ることも理屈上は可能です。
しかし、体力を向上させるには、維持させるのと比べると、はるかに多くのトレーニング量が必要になります。
トレーニング量を増やすにはそのぶん練習量を減らさないといけないし、トレーニング量が増えると疲労も溜まりやすくなります。
練習量が減り疲労が溜まると、目の前の試合に向けての調整という意味では確実にマイナスです。
なので、シーズン終盤に良いコンディションで戦うために、一時的に目の前の試合は捨てるくらいの覚悟がないと、シーズン中にトレーニング量を増やして体力向上を狙うのは難しいです。
そこまでのリスクを背負って大胆な決断をできるコーチや監督はどれほどいるでしょうか・・・。
となると、シーズン中の試合に悪影響をおよぼす心配なく、トレーニング量を確保して体力レベルを上げておくことができるオフシーズンの間に、しっかりとトレーニングをしておくことが現実的です。
そして、そのオフシーズンの時期にしっかりとトレーニングをこなして下地を作っておくことができるかどうかが、シーズン終盤におけるコンディションに間接的ながら影響を及ぼすということもご理解いただけるのではないでしょうか。
②エクササイズのフォーム構築
既に述べたように、オフシーズンはトレーニングに使える時間が比較的確保できる時期です。
時間を使って量をこなすというのは、体力向上という生理学的な意味でも重要ですが、エクササイズのフォームを徹底的に意識して、正しい動きを構築しておくという点でも非常に大切です。
極端な話、オフシーズンの特に初期段階においては、フォーム構築を優先して、たとえばウエイトトレーニングの挙上重量を大幅に減らすだけの余裕があります。
挙上重量を減らせば、そのぶん生理学的な意味でのトレーニング効果は下がってしまいますが、長期的に考えると、それでもオフシーズン初期にエクササイズのフォームを構築しておく意義は大きいのです。
オフシーズンに時間をかけてフォームを構築しておけば、シーズン中には最大限のトレーニング効果を得ることにエネルギーも時間も集中できます。
しかし、オフシーズンにしっかりとトレーニングを積んでフォームを習得できていないと、シーズンに入ってからもフォーム構築にエネルギーや時間を費やさないといけなくなります。
ただでさえトレーニングに割くことのできる時間が限られているシーズン中に、そんなことに気を取られているようでは、非効率的だしトレーニング効果も低下してしまいます。
もちろん、正しいフォームを意識するというのはトレーニングを続けている間は常に必要なことですが、シーズンに入ったら微調整をするくらいの状態にしておきたいものです。
もし、オフシーズンのトレーニング不足によりエクササイズのフォームが構築できていないと、シーズンに入ってからも必要以上にフォーム習得に時間がかかるし、もし大幅にフォームが崩れてしまったら、いったん挙上重量を下げてフォームの再構築をしないといけなくなります。
そんなことをシーズン中に繰り返しているようでは、やはりシーズン終盤にかけて悪影響が出てきます。
まとめ
多くの夏季競技においては、今の時期にシーズンで最も重要な試合があり、それが終わったらシーズンが終了してオフに入るという状況にあるかと思います。
長いシーズンを戦い抜いた後は、身体的にも心理的にも少し休んでリフレッシュするのが重要ですが、それが終わったら、次のシーズンに向けて準備する期間であるオフシーズンが待っています。
このオフシーズンにしっかりとやることをやって下地を作っておくことができるかどうかで、来シーズンの結果が変わってくるはずなので、しっかりとトレーニングをやってもらえればと思います。
ちなみに、オフシーズンにしっかりと鍛えて下地を作っておくことは重要ですが、オフシーズンだけで1年間戦える身体を作ることはできません。
シーズン中もトレーニングを継続することは必須です。
また、オフシーズンにガシガシ鍛えて下地を作ってやるぜ〜と張り切りすぎて、いきなりトレーニング量を増やしてしまうとケガのリスクが高まるので、十分気を付けましょう。
» 参考:シーズンオフのトレーニングだけで1年間戦えるカラダを作る事は不可能だっ!!
» 参考:【アスリート・競技コーチ向け】アスリートがケガをしやすい時の2パターンを知っておいて、リスクを避けましょう
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【編集後記】
アシックスタイガーの靴を購入。2足目です。アシックス社はアシックス、アシックスタイガー、オニツカタイガーという3つのブランド展開をしていますが、履きやすさ(機能性)とデザインのバランスが丁度よいアシックスタイガーが私のお気に入りです。