久しぶりに論文レビューをします。
論文の内容
研究プロトコル
スポーツ系大学(研究機関?)所属の学生アスリート(半年以上の筋トレ経験あり)を3つのグループに分けて、週2回のトレーニングを8週間に渡って実施し(5セットx4-10RM)、その前後でジャンプ測定を実施した:
- コントロールグループ(CON)
- スクワットグループ(SQ)
- レッグプレスグループ(LP)
結果
特に重要な点だけ箇条書きします:
- スクワットジャンプ(SJ)の向上率はCONで1.3%、SQで12.4%、LPで3.5%だった。SQの向上率はCONよりもLPよりも有意に大きかった。
- カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)の向上率はCONで0.8%、SQで12.0%、LPで0.5%だった。SQの向上率はCONよりもLPよりも有意に大きかった。
- ドロップジャンプ(DJ)におけるreactive strength index(RSI; ジャンプ高/接地時間)の向上率はSQのほうがLPよりも大きい傾向が見られた。
考察
この研究の結果から、「短期間のトレーニングとしては、LPよりもSQのほうがSJ、CMJ、DJのパフォーマンスをより向上させる効果があった」と筆者は結論づけています。
別な言い方をすると「短期間のトレーニングにおいては、LPよりもSQのほうがSJ、CMJ、DJといったジャンプパフォーマンスへのトレーニング効果の転移が高い」ということになります。
この研究からは、なぜLPよりもSQのほうが有効だったのか、というメカニズムを明らかにすることはできませんが、論理的に考えて予想をしてみます:
- SQは立位でバランスを取りながら実施するため、座った状態で実施するLPよりも、立位状態からのジャンプという動作へのトレーニング転移効果が高かった
- SQでは脊柱+骨盤の体幹部の剛性を高めた状態での脚伸展の出力が求められるが、LPでは体幹部はマシンのシートに固定されているため剛性を高める必要性が低く、同じく体幹部の剛性を高めた状態での脚伸展の出力が求められるジャンプ動作へのトレーニング転移効果は前者のSQのほうが高かった
- LPでは、コンセントリック終了時においても股関節が完全に伸展しないため、ジャンプ動作とは股関節のROM(range of motion)が異なり、結果としてトレーニング転移効果が低かった(2016/10/19追記)
まとめ
この研究から言えるのは、短期間のトレーニングでジャンプパフォーマンスを向上するためにSQとLPのどちらか一方だけを選ぶとすればSQのほうが良いということでしょう。
あるいは、この研究は、見方によっては「フリーウエイトvs.マシン」の比較に見えなくもありません。
前回のブログでも触れたように、私の中では「マシンエクササイズよりフリーウエイトエクササイズを優先する」のが原則になっているので、その信念に対するエビデンスが1つ増えたと捉えることもできます。
フリーウエイトエクササイズの特徴として「体幹部の剛性を高めた状態で四肢を動かし出力を行う」ことが非常に重要です。
それは、多くのマシンエクササイズにはない特徴です(体幹部の固定・安定がシート等の外的な物体によってもたらされているから)。
ジャンプに限らず、多くのスポーツ動作においては、股関節等からの出力を体幹部を固めた状態で受け止める必要があるので、そのような能力をフリーウエイトエクササイズによって鍛えることが重要です。
しかし、原則には例外がつきものです。
メインのエクササイズとしてSQ等のフリーウエイトエクササイズを実施したうえで、アシスタンスエクササイズとして(=例外として)LPのようなマシンエクササイズを選択するのは全然アリです。
脊柱への負担をおさえつつトレーニング量を増やせるし、疲労によりフォームが崩れるのをそれほど気にせずに追い込むことが可能なので、筋肥大に重要な「代謝環境」というトレーニング刺激を与えるには有効でしょう。
したがって、今回紹介した論文を読んで「レッグプレスだめじゃん!やっぱりスクワットじゃん!」と単純な結論に結び付けずに、広い視野で捉えることが重要になります。
科学的知見にもとづくS&C指導は奥が深いですね〜。
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【編集後記】
「亜人」というマンガをKindleで大人買いしてしまいました。これも面白い!