先日、以下のようなツイートをしました。
トレーニング指導のクライアントさんに「午前と午後のどちらにウエイトトレーニングをしたほうが効果高いですか?」と質問をされたのですが、ちょうどそれに関連したレビュー論文を見つけたので、ブログ記事にしようと思います。
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
学校の授業・仕事・競技練習etcとの兼ね合いで、ウエイトトレーニングを実施する時間が限定されてしまうアスリートが多いでしょう。
しかし、もしウエイトトレーニングをする時間を自分で決められるのであれば、「1日のうちにいつやるのがベストなのか?」というのは気になるところです。
今日は、そんな疑問に対して、現時点で科学的にはどのようなことが言えるのか、について見ていきます。
論文の内容
研究プロトコル
朝にウエイトトレーニングをした場合と夕方にウエイトトレーニングをした場合とで、筋力アップや筋肥大の効果を比べた過去の研究をまとめてメタ分析を実施した。
朝の時間帯は6:30-10:00、夕方の時間帯は16:00-20:00。※研究によって多少異なります。
結果
主な結果をまとめると以下の通りです:
- ①朝と夕方に測定した筋力は、夕方のほうが高い
- ②朝にウエイトトレーニングをすると、朝と夕方の筋力差はなくなる
- ③夕方にウエイトトレーニングをすると、夕方のほうが筋力は高いまま
- ④ウエイトトレーニングを朝にしても夕方にしても、筋力の向上率に差はない(朝の筋力も、夕方の筋力も、朝・夕方の筋力平均値も)
- ⑤ウエイトトレーニングを朝にしても夕方にしても、筋肥大効果の大きさには差はない
考察
上記の結果のうち、①に関しては、トレーニングに関係なく、たとえば今日、朝と夕方で筋力測定したらどうか?というお話です。
②〜⑤は、数週間ウエイトトレーニングをやった場合に、どういう変化が起こるか?というお話です。
それぞれの結果について、少し詳しく見ていきます。
①朝と夕方に測定した筋力は、夕方のほうが高い
これはそのままです。
普通に考えても、寝起きすぐは身体が動かないし、夕方くらいのほうが力を出せる気がしますが、実際に測定したらそうだったということです。
体温やホルモンが、「日内変動」といって、一日のなかで変化するのが影響しているのでは、と考察されています。
②朝にウエイトトレーニングをすると、朝と夕方の筋力差はなくなる
①で述べたように、朝より夕方のほうが高い筋力を発揮できるのが普通です。
しかし、ウエイトトレーニングを朝にやることで、朝と夕方の筋力差がなくなる(縮まる)可能性が示唆されました。
つまり、朝にウエイトトレーニングをやると、相対的に朝の筋力のほうが(夕方の筋力よりも)伸びるということだと解釈できます。
したがって、朝の比較的早い時間に試合があるような場合は、ウエイトトレーニングを朝にやって、朝の筋力向上を狙うという戦略も考えられます。
※①の結果と②の結果に含まれている被験者は完全に一致しないので、その二つの結果を直接比べて「絶対にそうだ!」とは言い切れないので注意が必要ですが・・・。
③夕方にウエイトトレーニングをすると、夕方のほうが筋力は高いまま
②の逆の結果です。
ただし、①と③のデータを見比べるかぎりは、夕方にウエイトトレーニングをやると、相対的に夕方の筋力のほうが(朝の筋力よりも)伸びる、とは言えなさそうです。
というのも、夕方にやったからといって、朝と夕方の筋力差がさらに広がっているようには見えないからです。
したがって、このデータからだけだと、夕方に試合がある場合は、ウエイトトレーニングも夕方にやったほうがいい、とは言い切れません。
※①の結果と③の結果に含まれている被験者は完全に一致しないので、その二つの結果を直接比べて「絶対にそうだ!」とは言い切れないので注意が必要ですが・・・。
④ウエイトトレーニングを朝にしても夕方にしても、筋力の向上率に差はない(朝の筋力も、夕方の筋力も、朝・夕方の筋力平均値も)
多くのアスリートにとって、もっとも気になるのが「朝と夕方、どちらにウエイトトレーニングをしたほうが筋力向上効果が大きいのか?」ということでしょう。
この結果④では、「朝にウエイトトレーニング vs. 夕方にウエイトトレーニング」を比較したときに、以下の3つの筋力の向上率に差が見られなかったと報告されています:
- 朝に測定した筋力
- 夕方に測定した筋力
- 朝・夕方に測定した筋力の平均値
この結果だけから考えると、ウエイトトレーニングは朝やっても夕方やっても、筋力向上効果は変わらないと言えそうです。
しかし、データをよ〜く見てみると、「夕方に測定した筋力」については、夕方にウエイトトレーニングをやったほうが伸び率が大きそうな傾向があります。
「統計的に有意な差」には届いていませんが、差の大きさ(standardized mean differences; SMD)をもとに私が主観的に解釈すると、そうなります。
したがって、私がS&Cコーチとして決断するなら、夕方に試合がある場合は、ウエイトトレーニングも夕方にやったほうがいいかも、と解釈します。
⑤ウエイトトレーニングを朝にしても夕方にしても、筋肥大効果の大きさには差はない
これはそのままです。
しかし、「統計的に有意な差」には届いていませんが、差の大きさ(standardized mean differences; SMD)を見てみると、夕方にウエイトトレーニングをやったほうが筋肥大効果が大きい可能性はありそうな気もします。
とは言え、信頼区間(confidence interval; CI)から判断すると「データ数が少なすぎて研究間の結果のバラツキも大きいから、現時点ではなんとも言えない」「今後のさらなる研究が期待される」というのが妥当な結論だと思います。
Limitation
このメタ分析に含まれている研究では、筋力をMVC(アイソメトリック最大筋力)という形で測定しています。
1RMのようにダイナミックな方法で測定された筋力について、朝 vs. 夕方のウエイトトレーニングを比較した研究の数が少なかったため、メタ分析には含まれていません。
まとめ
現場での応用を想定して、このレビュー論文の結果をどのように解釈すべきかは非常に難しいところです。
というのも、2つの正反対の解釈の仕方をできなくはないからです。
- 解釈①:ウエイトトレーニングは朝やっても夕方やっても差はないから、自分の都合の良い時間帯にやればいい
- 解釈②:試合等がおこなわれる時間に合わせてウエイトトレーニングもやったほうがいい
「結局どっちやねん!?」と思われるかもしれませんが、「現時点ではなんとも言えません」としか答えようがありません。
研究されているトピックなのに、なぜ絶対的な答えが出てこないんだ?と不思議に思われるかもしれませんが、ま〜研究ってそんなものです。
とくに、論文の数がまだまだ少ないトピックなので、「現時点では確定的なことは言えないから、さらなる研究が必要とされる」というのが現実的な科学的結論です。
ただし、研究の世界ではそれでもいいのかもしれませんが、現場でトレーニング指導をしているS&Cコーチの立場としては「一日のうち、どの時間帯にウエイトトレーニングやるのがベストなのか?」とアスリートやコーチから尋ねられたら、なんらかの回答をしないといけません。
私だったら「試合と同じ時間帯にやるのがベストですが、それが無理なら、都合のよい時間にやってもらっても大きな影響はありません」と今のところは答えるでしょう。
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
【編集後記】
今回紹介した論文は、新しく購入したiPad ProでGoodNotesというアプリを使って読みました。Apple Pencilも使って、マーカーを引いたり、文字を書き込んだりもしました。テクノロジーの進歩のおかげで、紙に印刷したのと変わらない状況で論文が読めるようになりました。一気にデスク周りのペーパーレス化が進みそうです。