今日は大谷翔平選手のインタビューを紹介します。
まずは下記リンクから記事を読んでみてください。
「15の質問」とあるように、質問内容は多岐にわたっていますが、私が取り上げたいのは2〜4つ目の質問に対する大谷選手の答えです。
参考 体重増の狙い、憧れの選手は…日本ハム大谷に「15の質問」日刊ゲンダイDIGITAL
これを読むだけで、大谷選手の頭の良さが伝わってきます。
アスリートにとって、トレーニングをして筋力を向上させることの役割・意味に対する理解度は100点満点です。
現役アスリートのみなさんには是非とも参考にしてもらいたい考え方です。
どのへんが参考になるのかを、S&Cコーチの立場から解説してみます。
大谷選手のインタビューのS&Cコーチ的解説
①“筋力がないとできない技術やメカニズムや動きがあるので。技術をうまくするためのフィジカルだと思っています。”
「そのとーり!!」とスタンディングオーベーションを送りたいコメントです。
ちょうど前回のブログで書いたばかりですが、「こうした動きをやりたい!」と思ってたくさん練習しても、そもそも筋力が不足していると、その動きが出来ない事があります。
小学校低学年の子がいきなり木製バットを持ってもきちっとスイングできない、というわかりやすい例を使って大谷選手が説明してくれている通りです(この説明からしても、大谷選手の頭の良さがわかるな〜)。
だから、野球の練習を繰り返すよりもはるかに健康的に・効率よく・効果的に筋力を向上できるウエイトトレーニングを実施して、その動きができるようになるための準備をしてあげましょう、ということなんです(ポケットの理論)。
②“筋力をつければ野球がうまくなるなんてこともありませんから。野球がうまくなるために必要なこととしてウエートトレーニングを入れているだけ。”
技術を向上させるために筋力向上が重要であると認識する一方で、「筋力をつければ野球がうまくなるなんてこともありません」と言い切れる頭の良さ!う〜ん、しびれます!
そりゃそうです!野球がうまくない人が筋トレをバリバリやったからといってプロ野球選手になれるわけないし、もともと野球がうまい人が筋力上げたからといって、自動的に野球がさらにうまくなるわけでもありません。
「筋力がないとできない技術やメカニズムや動きがある」という考え方と「筋力をつければ野球がうまくなるなんてこともありません」という考え方。
一見すると矛盾しているようなこの2つの考え方をしっかりと理解して自分のものにしている頭の良さ。
まだ若いのにスゴイです。
っていうか年齢は関係ないんでしょう。
頭の良さ&ちゃんと自分の頭で考え続けているか、なんでしょうね。
②の解説
ここで解説が必要ですね。
この2つの考え方がなぜ矛盾していないのか?
まず、筋力によって自分のできる動きや技術の枠が制限されることがあるので、筋力を向上させれば今までできなかった動きができるようになるポテンシャルを増やすことができるのは間違いないです。
これは前者の考え方です。
一方で、筋力がつけば野球がうまくなるわけがない、という後者の考えも事実です。
筋力の向上は、あくまでも動きができるようになるポテンシャルを増やすに過ぎないのですから。
別な言い方をすれば、動きを向上させるための準備までを整えるのがトレーニングです。
準備が整っているのであれば、あとはそれを活用して野球がうまくなるような作業をしてあげればいいんです。
その作業が「野球の練習」ということになります。
ただし、何も考えずに「野球の練習」をこなしているだけでは、野球がうまくならない可能性があります。
筋力が向上した場合、その新しいカラダを使って野球をするためには、以前のカラダで使っていた技術とは違う技術が要求されるので、そのあたりをしっかりと頭を使って考えながら練習をして調節してあげる必要があるのです。
ガシガシとトレーニングしてカラダもでかくなったし筋力も向上したのに、野球がうまくならねえな〜という野球選手がいるとしたら、この「頭を使って野球の練習をして、筋力向上というポテンシャルを使いこなすようにする」というプロセスができていない可能性があります。
以上をまとめると、トレーニングをして筋力UPすることで野球がうまくなるためのポテンシャルを増やす準備をしてあげて、今度はそのポテンシャルを実際に使えるようになるために、頭を使って考えながら野球の練習を行えば、野球がうまくなるはずだ、ということです。
この考え方をきちんと理解するのはどうやら難しいようで、専門のS&Cコーチですら理解できていない人も多いのが現状です。
それをしっかり理解している大谷選手、恐るべしです!
③“体重が何キロ増えたとか、体脂肪率が何%ということは、ボクはそこまで大した問題ではないと思っています。”
このコメントを読むだけで、大谷選手がトレーニングの役割をしっかりと把握しているのがわかります。
そうなんです。トレーニングはあくまでも手段であって目的ではないんです。
目的は野球がうまくなることで、それを達成するための手段としてウエイトトレーニングを実施すると、筋力が向上したり筋量や体重が増えたりして、野球がうまくなるポテンシャルをUPできるわけです。
それなのに、プロ野球のオフシーズンのスポーツ新聞には、◯◯選手が体重を増やすために毎晩寝る前にハンバーガーをどか食いしている、みたいなわけのわからない記事が載ったりすることがあります。
とにかく体重を増やすことが目的なのであれば、それも1つの方法かもしれませんが、あくまでも目的は野球がうまくなることのはずです。
場合によっては、筋量を増やして体重が増えることが、その目的を達成するための手段として有効になるというだけであって、手段と目的がすり替わってしまっては意味がありません。
大谷選手のインタビューからは、この手段と目的をしっかりと理解したうえで、手段の1つとして増量というものにチャレンジしたということが伝わってきます。
頭良すぎます!サイコーです!
まとめ
大谷選手の具体的なトレーニング内容はわからないので、そこの部分の評価はできません。
しかし、アスリートにとってのトレーニングの役割とか筋力向上の意味、といった部分に対する理解については、ピカイチだと思います。
このへんはダルビッシュ投手も同様にピカイチだと思います。
彼らのようなスーパースターが正しい認識を持ってトレーニングに取り組んでいるという事実。
素晴らしいですし、この業界で働く人間のひとりとして、とても頼もしいです。
世の中にはスーパースターがやっているというだけで間違ったトレーニングが流行してしまうケースがあります。
それだけ一流アスリートの影響力が強いということでしょう。
彼らの影響力を変えることができないのであれば、逆にその影響力を使って、大谷選手やダルビッシュ投手のようなスーパースターが正しいトレーニングに対する認識を広げていってもらいたいと思います。
今回のブログは、勝手に大谷選手の影響力を使って、良い情報を広げてみようという私なりのチャレンジです。
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※ちなみに、今回のブログ記事では、読みやすさを重視して「筋力」というワードを一貫して使いましたが、ここで言う「筋力」とは、筋力をはじめとした柔軟性、持久力、爆発的パワー等の体力要素をすべて含んだものの比喩表現とお考えください。
2020/10/11追記:
今回のブログで紹介した大谷選手の考え方や、それに対する私の解説を真の意味で理解するためには、「そもそもなぜウエイトトレーニングするのか?」という本質をある程度押さえておく必要があります。
そのためには、拙著「競技力向上のためのウエイトトレーニングの考え方」を読まれることをオススメします。
そちらを読んだ後に、大谷選手のインタビュー記事を読み返せば、どれだけ大谷選手が頭の良いアスリートなのかが、改めて実感していただけるはずです。
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【編集後記】
以前、ラグビーの五郎丸選手の発言を取り上げてブログを書いたら、その反響がえげつなかったです。
今回は少しイヤラシイですが、大谷選手の影響力を当てにして、狙ってヒットを当てに行きました!
さて、どうなるものか・・・。