先日、以下のようなツイートをしました:
篠山選手「身体を自分からぶつけるか、どういうタイミングでぶつけるか、ぶつけた後にどれくらい動けるかという部分は技術のひとつ。もっとウエイトをしなければいけないとか、もっと身体を分厚くしなければとか、そういう単純なことではない」
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
今回のバスケW杯の日本代表の試合を私もテレビで観ましたが、トルコ・チェコ・アメリカはスクリーンやリバウンド争いでの身体接触が激しく、それがボディブローのように効いている印象を受けました。
こういう経験をすることができるのも、W杯に出て格上のチームと真剣勝負をすることができたからでしょう。
この経験を活かせば、日本のバスケもどんどん強くなるんじゃないかと期待しています。
で、普通に考えると、「日本はフィジカルコンタクトが課題だから、身体をデカくして筋力を高めるためにウエイトトレーニングをガシガシやろう!」という発想になると思います。
しかし、それだけではなく、フィジカルコンタクトも「技術」だから、その技術を磨くことも必要であるという点まで考えられる篠山選手は頭がいいな〜と思って、上記のツイートをしました。
今日はこの点について掘り下げて、ウエイトトレーニングを指導するS&Cコーチとしての立場からの私見を述べます。
ウエイトトレーニングがフィジカルコンタクトを強くするために貢献できること
S&Cコーチとして、コーチや選手から「フィジカルコンタクトを強くしてくれ」と要望をされることがあります。
これはバスケに限らず、相手との身体接触がある他の競技でもよくあることです。
前回のブログで「sprint momentum(体重×走速度)」という指標を紹介して、身体接触のある球技スポーツではこの能力を高めるとフィジカルコンタクトで有利になるというお話をしました。
» 参考:身体接触のある球技スポーツにおける「sprint momentum(体重×走速度)」の重要性
ウエイトトレーニングをやって筋量を増やしつつ走速度を維持することさえできれば、理屈としてはsprint momentumも増えるので、フィジカルコンタクトが強くなる可能性は高まります。
とくに、走ったり移動したりしている中での身体接触の場面では、sprint momentumの大小が影響を及ぼすはずです。
一方、バスケのリバウンド争い等の場面では、走っているわけではなく、速度がほぼゼロの状態で相手と押し合いをするので、sprint momentumという指標はあまり参考になりません。
しかし、速度がほぼゼロであるからこそ、余計に体重があると大きなアドバンテージになります。
さらには、ウエイトトレーニングをして筋力が高まれば、相手との押し合いでも負けないようになる可能性は高まります。
したがって、相手との身体接触があるスポーツにおいてフィジカルコンタクトを高めるために、ウエイトトレーニングが貢献できる役割が大きいのは間違いありません。
その役割は大別して以下の2つにまとめることができます:
- ①筋量(≒体重)を増やす
- ②筋力を高める
これらのアドバンテージを得るために、身体接触のある球技スポーツのアスリートには、ぜひともウエイトトレーニングに励んでいただきたいと思います。
ウエイトトレーニングだけやっていてもフィジカルコンタクトは強くならない!
説明したように、フィジカルコンタクトを強くするために、ウエイトトレーニングが貢献できる役割が大きいのは間違いありません。
その一方で、「ウエイトトレーニングだけやっていれば、自動的にフィジカルコンタクトも強くなるだろ」みたいな感じで、S&Cコーチの私に丸投げされたりすると困ります。
というのも、どれだけウエイトトレーニングをやって筋量を増やしたり筋力を高めたりしても、それを使いこなせるようにならないと、フィジカルコンタクトの強さには繋がらないからです。
ウエイトトレーニングによる体力向上は、あくまでも「ポテンシャルUP」にすぎません。
いわば、フィジカルコンタクトを強くするための「土台作り」です。
S&Cコーチである私の役割はそこまでだと考えています。
たとえ、どれだけ筋量を増やして筋力を向上したとしても、アスリート自身がそれを「使おう」と思わなければ使えるようにはなりません。
せっかく身体がデカくて筋力も強かったとしても、相手との接触を怖がって避けているようでは、まったく意味がないのです。
また、それを「使おう」と思ったときに、正しい使い方を知らないと、使いこなすことはできません。
「とりあえずぶつかるぞ!」という意識だけでは、ファールを吹かれてあっという間に5ファール退場になってしまうのがオチです。
前者はアスリートの「意識」、後者はフィジカルコンタクトの「技術」ということなんだろうと思います。
これは、フィジカルコンタクトにかぎらず、競技におけるあらゆる動きに当てはまることです。
バスケであれば、ドリブルとかシュートとかディフェンスとかにも当てはまります。
しかし、それらの技術については練習をしっかりやっているしコーチも指導していますが、ことフィジカルコンタクトとなると、その技術を練習したり教えたりしているチームはどれだけあるのだろうかと疑問です。
バスケ界ではスキルを教えるのに特化した「スキルコーチ」が活躍の場を広げていますが(とくに米国で)、フィジカルコンタクトの技術を教えるのに特化したスキルコーチなんかは今後需要が増えるのではないかと個人的には思っています。とくに日本で。
ラグビー界においては、日本代表に「世界のTK」こと髙阪剛さんが「タックルコーチ」という肩書で招聘されて、タックルのスキルを指導されています。
ラグビー選手は日本の中ではウエイトトレーニングをガシガシやっていて身体もデカく筋力も強いアスリートだと思いますが、それだけでフィジカルコンタクトが強くなるわけではないので、わざわざタックルの専門家を呼んで、その技術を磨いているわけです。
「世界のTK」をバスケ界に招いてタックルを教わるわけにはいきませんが(ファールになっちゃうので)、フィジカルコンタクトの技術を指導する専門家を招聘するというアイデアは、バスケ界も学べるところがあるのではないでしょうか?
「フィジカルコンタクト」を体力ではなく技術と捉える
フィジカルコンタクト強化をS&Cコーチに丸投げして、その技術を練習することが少ない理由はどこにあるのでしょうか?
私は、フィジカルコンタクトを「体力」として捉えているのが大きな理由だと考えています。
つまり、筋力・柔軟性・持久力・爆発的パワー等の体力要素と同列だと考えてしまっているので、その強化はS&Cコーチの役割だし、トレーニングだけしていれば強化できるはずで、練習をする必要性を感じないんだと思います。
あくまでもこれは私の仮説にすぎませんが。
しかし、たとえばバスケにおけるフィジカルコンタクトというは、冒頭でご紹介したツイートで取り上げた篠山選手の発言のように「身体を自分からぶつけるか、どういうタイミングでぶつけるか、ぶつけた後にどれくらい動けるか」といったもののはずです。
これをただの「体力」だと思いますか?私はそうは思いません。
そこには、判断力であったり、身体の動かし方であったり、という技術的な要素が含まれているはずです。
つまり、フィジカルコンタクトは「技術」なんです。「体力」ではありません。「体力」を土台とした「技術」です。
筋力・柔軟性・持久力・爆発的パワー等と同列に考えるべきではなく、ドリブル・シュート・ディフェンス等と同列に考えるべきです。
フィジカルコンタクトは体力ではなく技術である。
そう考えられるようになると、その強化をS&Cコーチに丸投げすることもなくなり、練習してその技術を磨くようにもなるはずです。
そのように思考プロセスを変えて行動も変えることができれば、フィジカルコンタクト強化に繋がる可能性も高まるでしょう。
また、フィジカルコンタクトは技術だとはいえ、その技術を実行するため、そして習得するためには、土台となる体力が必要です。
必要な体力がなければ、どれだけ練習してもできない動きというものは確実に存在するので。
したがって、土台となる筋力を高めたり筋量を増やしたりするためには、やはりウエイトトレーニングは欠かせません。
体力を向上させること、そして、技術を磨くこと。
この2つが車の両輪のように働いて始めて、パフォーマンスを最大化することができるのです。
まとめ
以上を踏まえて、S&Cコーチの立場から、フィジカルコンタクトを強くするのに必要な3ステップを提言してみると:
- ステップ①:ウエイトトレーニングで筋量を増やし筋力を高める
- ステップ②:練習や試合で激しくフィジカルコンタクトをするんだ!という強い「意識」を持つ
- ステップ③:フィジカルコンタクトの「技術」を身に付ける(練習したり、試合で経験を積んだり)
ということになります。
で、S&Cコーチが自信をもって役割を果たすことができるのは、ステップ①までです。
ステップ②と③に関しては、競技コーチとアスリート側に求められる部分です。
冒頭のツイートで発言をご紹介した篠山選手は、以上のようなことをちゃんと理解しているんだろうと推測されます。
この発言だけを切り取ると、ウエイトトレーニング否定派なのかな〜と受け取られかねませんが、私の知る限り、篠山選手はしっかりとウエイトトレーニングをやっているはずです(私の知り合いが篠山選手の所属先チームでS&Cコーチをされています)。
それをやったうえで、それだけじゃダメで、ちゃんと身体をぶつける技術も身に付けないといけないということをわかっている。素晴らしいです。
思わず「その通り!」とつぶやいてしまいました。
今回のブログを書き上げるのに、結構時間がかかりました。たぶん3~4時間くらい。
しかし、バスケに限らず、身体接触のある球技スポーツにおける「フィジカルコンタクト」というものに対する私の考え方を整理することができたので、それだけの時間をかける価値はありました。
今後このトピックについて意見を求められたら、より明確にわかりやすく説明できるはずですし、このブログ記事を紹介することもできますからね。
やはりS&Cコーチがブログを書くのはメリットが大きいです。
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【編集後記】
昨日は午前中にトレーニング指導を1件した後、美容室でヘアカットしてもらいました。
私、汗っかきなので、夏の暑い時期は髪型はショートカットです。
サッパリしました。
冬は伸ばすことが多いのですが、今シーズンはどうしようか考え中です。
短いのはなんといってもラクですからね。