冷水浴や温水浴、交代浴etcのリカバリー方法が、研究の世界でもスポーツの現場でもホットなトピックになりつつある今日この頃。
10年前まではリカバリー方法に関する科学的知見が乏しく、経験や感覚にもとづいてやっている部分が多い状況でしたが、この10年でこのトピックに関する研究も増えてきました。
特にオーストラリアやニュージーランドの研究者が精力的に研究をしている印象があります。
この分野の研究が活発になってきた初期の段階では、さまざまなリカバリー方法のポジティブな影響、つまり疲労回復能力そのものに焦点を当てた研究が多かったと思います。
しかし、ここ最近は、それらのリカバリー方法を適用することによるネガティブな影響、特にトレーニング効果を阻害するリスクに関する研究が進んでいます。
たとえば、冷水浴をすることで疲労回復が促進されるのであれば、翌日あるいは翌々日のトレーニングにおいて、よりフレッシュな状態でトレーニングができるので、より重い重量を持ち上げられたり、より多くの量のトレーニングをこなせるはずです。
つまり、冷水浴により疲労回復を図ることができれば、毎回のトレーニングでより高いトレーニング刺激を身体に与えることができるはずなので、中長期的に見た時に、より大きなトレーニング効果・適応を得ることができると予測できます。
その一方で、トレーニング直後に筋肉を冷やすことで、トレーニング適応にネガティブな影響を及ぼす可能性を示した研究が最近発表されました。
今回は、その内容を紹介します。
論文の内容
研究の背景
毎回のウエイトトレーニング後に冷水浴(cold application)を実施することが、トレーニング適応(特に筋肥大と筋力UP)にどのような影響を及ぼすかを調べた研究です。
研究プロトコル
ウエイトトレーニング経験のない被験者を2つのグループ(冷水浴グループ vs. コントロールグループ)に分け、両者に同じトレーニングを実施させました。
トレーニング内容は、手首屈曲エクササイズ(5セット✕8レップ@70-80% 1RM)を週3回、6週間実施するというものでした。
トレーニング内容は2つのグループで同一でしたが、その後、冷水浴グループは10°Cの冷水に20分間腕を浸して、コントロールグループは冷水浴を実施しなかった、というのが2つのグループの違いでした。
結果
6週間のトレーニング前後でいろいろな測定を実施し、以下のような結果となりました。主要な測定項目3つ(前腕の筋厚、前腕の周囲径、手首屈曲最大筋力)の結果だけ紹介します:
考察
この研究の結果を簡単にまとめると、毎回のウエイトトレーニング後に冷水浴を実施することで、筋肥大と筋力UP効果が阻害されたということになります。
なぜそのような阻害効果が見られたのか、そのメカニズムについては論文内でいろいろと推測がされていますが、それは推測に過ぎず、今回の研究が示したのは阻害効果が観察されたという事実だけです。
その事実にもとづいて考えると、「ウエイトトレーニングしてもその効果が下がってしまう可能性があるなら、ウエイトトレーニング後に冷水浴はしないほうがいいんじゃない?」というのが私の感想です。
もちろん、今回の研究にもlimitationはあります。
例えば被験者がウエイトトレーニング未経験者ということで、同じ現象がウエイトトレーニング経験者でも観察されるとは限りません。
また、研究の対象としたのが前腕の筋群ということで、他の筋群でも同じような現象が起こるとは限りません。
前腕という小さな筋群では疲労はlocalなものに限られるしすぐに回復するだろうから、冷水浴による疲労回復効果というポジティブな影響よりも筋の適応メカニズムに与えるネガティブな影響の方が大きかったけど、もっと全身の筋群を使うようなエクササイズ(例:スクワット、デッドリフト)の場合は、疲労もlocalではなくglobalというかsystemicなので、冷水浴による疲労回復によるポジティブな影響が、ネガティブな影響を上回るという可能性も否定できません。
しかしながら、筋群単位のlocalな視点で見ると、ウエイトトレーニング後の冷水浴が適応のメカニズムにネガティブな影響を与える可能性はかなり高そうです。
それを示唆した研究は他にも色々とあります。
その例をtwitterから引用していくつか紹介します:
Acute reduction in ribosome biogenesis after res ex+CWI. Another mechanism underpinning reduced chronic adaptation? pic.twitter.com/umBnbToEs4
— Llion Roberts (@llionroberts86)
Do ice baths really ↘️adaptations to trg? The current evidences suggest no for endurance trg | http://t.co/qAv0oDNhn1 pic.twitter.com/pqoAUfNsGE
— Yann Le Meur (@YLMSportScience)
@TrulsRaastad @ICST2014Italy Cold water immersion attenuates acute satellite cell response to strength training. pic.twitter.com/ZpiLjDHdNp
— Rob Newton (@ProfRobNewton)
まとめ
今回紹介した研究は、毎回のウエイトトレーニング後に冷水浴をするとトレーニング効果が阻害されることを示してるので、この知識をもとに、私なら毎回のウエイトトレーニング後に冷水浴はしないという決断を下すことになります。
ここで勘違いしないでほしいのは、毎回のウエイトトレーニング後にはやらないというだけであって、例えば大会やトーナメント等で毎日あるいは数日おきに何試合もこなさないといけない、というシチュエーションにおいては、冷水浴を使用するのはアリだと思います。
少なくとも、急性あるいは短期的には冷水浴が疲労回復にネガティブな影響を及ぼす可能性は少なく、疲労回復効果はある程度ありそうだという科学的知見があるので。
したがって、ウエイトトレーニングの適応を阻害するという現象と、疲労回復効果というポジティブな効果は分けて考えて、状況に応じて使いこなすという姿勢が重要だと思います。
今回の研究結果を受けて「冷水浴は一切やっちゃダメ!」という過剰反応はしないでください。
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【編集後記】
一時期は腰痛がひどく、寝返りをうつだけで傷んだので、今週末の実技セミナーへの参加をキャンセルしようかとまで考えたのですが、今週に入って劇的に回復してきたので、なんとか参加できそうです。
とりあえず一安心です。
無理だけはしないようにコンディションを整えようと思います。