私は以前から、「論文を引用して意見を発信している文章を読んだら、元の論文を自分自身で読んでチェックしましょう」と主張しています。
理由はシンプルです。
引用元の論文を読んでみると、「いや、この研究結果からはそんなこと言えないでしょ!!」とか「いや、そんなこと論文には書いてなかったけど・・・」と思うケースがあるからです。
つまり、論文を不正確に引用して、あたかも自分の主張が研究によって裏付けられているかのように発信してしまっている人がいるのです。
だからこそ、正しい情報を仕入れるためには、そうした文章を読んだときにその内容を鵜呑みにせず、引用元の論文を自分で読んでチェックすることが不可欠です。
とはいえ、私が「自分で論文を読め!」と言っている対象は、S&Cコーチ等の専門職の方たちです。
アスリートや競技コーチの場合、自分で論文を読むのは難しいでしょうから、とりあえず「論文を引用しているからといって100%信用するのは危険だ」とだけ意識しておいてもらえれば。
論文を引用して文章を書くのであれば、正確に引用する必要がある理由
つい先日も、とあるウェブ上のコラムで、論文が不正確に引用されているのを見かけてツイートをしました。
たしかに一次情報である論文を読むと、そんなこと書いていない。
このケースだと、二次情報(DNSコラム)の時点で論文データの解釈が間違っていて、その間違った情報を三次情報として拡散しちゃっている感じ。
正しい情報を手に入れる&拡散するためには、自ら論文を読むのが大切。 https://t.co/T4RNcjixU7
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
ツイッター上では、「これは論文じゃなくてコラムなんだから、そこまで正確に引用する必要はない」という趣旨のご意見もいただきました。
個人的には、とても不誠実な考え方だな〜と感じました。
論文を引用して文章を書くのであれば、その文章が論文だろうがコラムだろうがSNSだろうが、正確に引用する必要があることに変わりはありません。
では、なぜ論文を引用して文章を書くのであれば、正確に引用する必要があるのでしょうか?
大きく分けて2つ理由があると私は考えます:
- ①引用した論文や著者を愚弄することになるから
- ②虚偽にもとづいた発信は無価値・有害だから
①引用した論文や著者を愚弄することになるから
私自身、大学院まで進学して研究をして論文を発表した経験があります。
そんな論文著者の立場で考えた場合に、誰かが私の論文を引用して、そこには書いていないようなこと、もしくはその研究結果からは言えないようなことを主張するような文章を書いていたら、とても不快です。
「いや、俺の論文はそんなこと言ってないぞ!」「自分の主張を良く見せるために、俺の論文の内容を捻じ曲げて引用してくれるな!」と思います。
とても腹が立ちます。
1本の論文を発表するまでにかかる時間や労力って、想像を絶するものがあるんですよね。
だから、研究結果を論文という形で発表してくれている研究者たちに敬意を払うためにも、彼ら・彼女らの論文を引用するときには、正確な引用を心がけることが最低限のマナーです。
逆に、自分の主張があたかも研究によって裏付けされているように見せるために、論文の内容を捻じ曲げて引用する行為は、その論文や著者に対する愚弄でしかありません。
論文やその著者に敬意を払うことなく、不正確な引用をして愚弄するような人の発信は、私は信用することができません。
②虚偽にもとづいた発信は無価値・有害だから
論文の不正確な引用は、ようするに「虚偽」です。
そんな虚偽にもとづいた発信は無価値です。
それどころか、有害にもなりえます。
無価値・有害な情報を発信していては、信用が失墜してしまいます。
だからこそ、情報の発信側には、正確な引用をすることが求められます。
逆に発信の受け手の立場で考えると、そんな無価値・有害な情報を垂れ流している人の発信は、やはり信用することができません。
不正確な引用をしてしまう原因
故意に不正確な引用をしようとする人はいないと思います。
それなのに、論文を不正確に引用して発信してしまう人が多いのはなぜなのでしょうか?
私が考える理由は3つです:
- ①単なるケアレスミス
- ②論文の読み方がわかっていない
- ③自分の主張ありきで、研究によって裏付けられているように見せたい
①単なるケアレスミス
完璧な人間なんていないので、どれだけ正確に論文を引用しようと注意していても、ケアレスミスで不正確な引用になってしまう場合はあります。
私自身、これまでいろいろな場面で論文を引用してきましたが、すべてを精査したら引用の仕方が不正確なケースも1つ2つは出てくるかもしれません。
絶対にない!と言い切れるだけの自信はありません。
とはいえ、正確な引用を心がけて発信をしている人が、ケアレスミスで不正確な引用をしてしまった場合、第三者からそれを指摘されたら「すいません、引用の仕方が不適切でした、訂正します」という反応を示すはずです。
少なくとも私だったらそうします。
そういう対応をしておけば、基本的にはその発信者の信用が失墜することはないでしょう。
もちろん、あまりにも頻繁にケアレスミスが起こるようでは、「この人、論文を正確に引用しようという意識があるのだろうか?」「ちゃんと論文を読む能力がないのでは?」と思われても仕方ありません。
②論文の読み方がわかっていない
そもそも論文の読み方がわかっていないので、そこには書かれていないこと・その研究結果からは言えないようなことを発信してしまっている、と思われるケースもあります。
故意に事実を捻じ曲げようという意図があるわけではないので、悪意はないのかもしれません。
しかし、悪意がないだけに逆にたちが悪いです。
発信している本人は、無価値・有害な情報を自分が発信してしまっている、という自覚がないわけですから、第三者から指摘されてもイチャモンを付けられたくらいにしか受け止められないでしょうし、訂正することもないでしょう。
本人に悪意はないのかもしれませんが、正確に論文を引用して発信するために、最低限必要な論文の読み方を勉強していないわけなので、無責任・不誠実だと個人的には思います。
③自分の主張ありきで、研究によって裏付けられているように見せたい
自分が主張したいことがあり、論文を引用することで、あたかも研究によってその主張が裏付けられているように見せたいがために、不正確な引用をしてしまっていると思われるケースもあります。
べつに主張をすること自体は否定しませんし、すべての主張が研究によって裏付けられている必要があるとも思いません。
研究によって裏付けられていないけど、私の経験上、こういうトレーニングのやり方が効果がありますよ、という発信には十分価値があります。
また、自分の主張の正当性を高めるために、それを裏付けるような論文を引用すること自体にも、とくに問題はありません。
私なんかブログやセミナーで論文をよく引用して発信していますし。
問題なのは、自分の主張ありきで、それが研究によって裏付けられているように見せたい、という願望が勝ちすぎて、自分にとって都合の良い解釈をしてしまい、論文を不正確に引用してしまうことです。
自分の主張を裏付けるような研究を探しても見つからなければ、論文を引用せずに、自分の経験にもとづいた意見として発信すればいいだけです。
無理やり関係のない論文を引用して、自分の主張に権威付けをしようとする行為は、論文を愚弄しているし、とても不誠実です。
まとめ
今回は論文を引用して文章を書くときに注意するべきことについて解説しました。
ご自身で発信をするときや、他の方の発信を読むときに参考にしていただければ。
また、今回ご紹介した基本的な考え方は、科学的知見に基づくトレーニング指導を実施するときにも当てはまります。
論文を読んで科学的知見を仕入れ、それをトレーニング指導に活用するのであれば、論文を正しく理解して、過大解釈をしないよう注意することが不可欠です。
発信するにしてもトレーニング指導に活用するにしても、共通して求められるのは、「知識に対する誠実さ」だと思います。
お金や名声やエゴのために誠実さを捨てるようなことだけはしたくないですね。
参考文献
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【編集後記】
事業復活支援金の申請をしました。
一人でやろうとしたら、手続きが煩雑すぎて、半分あきらめてしまっていました。
なんとか専門家の方からお手伝いいただき、申請することができました。
やはり餅は餅屋ですね。