上半身プル動作の筋力を鍛えるための懸垂
懸垂は上半身のプル動作パターン(特に垂直方向)を鍛えるエクササイズの中でも、特に重要なエクササイズと私は位置づけています。
懸垂のことを「上半身のスクワット」と呼ぶ人もいるくらい、基礎的かつ効果的なエクササイズです。
ラットプルダウンも悪くはないですが、ラットプルダウンをずーっとやっていてもプル動作の筋力がなかなか向上しないなんて事は結構あります。
一方、懸垂をしっかりと一定の期間取り組むと、必ずプル動作の筋力が向上すると断言できます。
懸垂は、継続してやり続ければ筋力が向上するけど、やらないと筋力が落ちてしまうという正直なエクササイズで、そのぶん非常にやりがいがあると思います。
ただし、適切なフォームでやらないと効果がないばかりか、肩や腰を痛めかねないので、注意しましょう。
懸垂の具体的なテクニックについては、以前のブログで解説していますので、そちらを参考にしてみてください。
☑参考記事:#145 懸垂のテクニック
☑参考記事:#104 【コーチングキュー】懸垂編:ケガや痛みを防ぎ、トレーニング効率アップにつなげる
懸垂のプログラミングの考え方
さて、正しいフォームで実施することはもちろん重要ですが、どのようにプログラミングをするか(どのようにセット数、レップ数、etcを処方するか)も同じくらい重要です。
私の経験上、懸垂は他のエクササイズとは異なり少し特殊な部分があり、いわゆる一般的な「3セットx10レップ」のような設定が向いていません。
仮にこのプログラムをやろうとしても、1セット目は10レップできたとしても、2セット目にできるレップ数が6レップになって、3セット目は3レップしかできないなんてことはザラです。
つまり、セットを重ねるにつれてのダメージ・疲労度がハンパなく、完遂可能なレップ数が一気に減ってしまう傾向があるのです。
もちろん、レストを長くとる事によって、ある程度はレップ数の低下を抑える事もできるかもしれませんが、懸垂の疲労・ダメージの回復にはかなり長い時間が必要であるというのが私の感想です。
そこで、懸垂においては、セット毎にレップ数を減らす形でプログラミングをするのが効果的であると考えます。
また、懸垂は地道に続ければ確実に伸びるエクササイズではありますが、その伸び率は非常に小さいです。
そこで、漸進性過負荷の原則を適用するためにトレーニング刺激を増やそうとしたら、ちょっとずつレップ数を増やすというのが合っていると思います。
そこで、1セッション内で「セット毎にレップ数を減らす」という点と、セッションを重ねる毎に「ちょっとずつレップ数を増やす」という点を組み合わせた懸垂のプログラミングの例について紹介したいと思います。
「Fighter pull-up program」とも呼ばれている方法です。開発者は不明ですが、ロシア人の誰からしいです・・・。
懸垂のプログラム例
ここで紹介するのはひとつの例ですが、プログラムデザインのパターンは理解することができると思うので、そのパターンをそれぞれの状況に合わせて調整してみてください。
まずは最大反復回数の測定
まず最初に自体重での最大反復回数を測定することから始めます。
この測定結果をもとにその後のトレーニングのプログラムを作成していくので、この測定においては正しいフォームを重要視します。
反動を使ったり、可動域を狭くしたりというのは許しません。そのようなレップについては数えないようにしています。
アスリートには「この測定結果によって今後のプログラムを決めるから、ズルをして自分の能力以上の回数を実施したら、今後のトレーニングがきつくなるよ」と最初に脅しておくと、ズルはしないで正しいフォームを使って現時点で自分の能力でできるレップ数を繰り返す傾向があります。
プログラム例(5セットバージョン)
さて、今回は懸垂の最大反復回数が7回だったと仮定します。このアスリートに対して、その後は以下の様なプログラムを処方していくことになります。
- Week 1 – 5, 4, 3, 2, 1
- Week 2 – 5, 4, 3, 2, 2
- Week 3 – 5, 4, 3, 3, 2
- Week 4 – 5, 4, 4, 3, 2
- Week 5 – 5, 5, 4, 3, 2
- Week 6 – 6, 5, 4, 3, 2
- Week 7 – 6, 5, 4, 3, 3
- Week 8 – 6, 5, 4, 4, 3
- Week 9 – 6, 5, 5, 4, 3
- Week 10 – 6, 6, 5, 4, 3
- Week 11 – 7, 6, 5, 4, 3
- Week 12 – 7, 6, 5, 4, 4
※このプログラムは週1回の頻度で懸垂を実施すると仮定して、Week1…と示していますが、週2回以上実施する場合は、Day1…という形で考えてもらえれば良いと思います。
ここまで書けば、このプログラムデザインのパターンは理解して頂けると思います。このプログラムのミソは:
- 最大反復回数よりも2レップ少ないレップ数から始める
- セット毎にレップ数を減らす
- 毎週1レップずつ、総レップ数を増やす
といった点にあります。
プログラム例(4セットバージョン)
5セットもやってられないよ〜という場合は、同じパターンを4セットのバージョンに適用すれば良いのです。例えば:
- Week 1 – 5, 4, 3, 2
- Week 2 – 5, 4, 3, 3
- Week 3 – 5, 4, 4, 3
- Week 4 – 5, 5, 4, 3
- Week 5 – 6, 5, 4, 3
- Week 6 – 6, 5, 4, 4
といった感じです。
ここで注意が必要なのは、4セットバージョンは5セットバージョンと比べてレップ数の増加率が高いということです(総レップ数の増加率は毎回1レップずつで同じですが、1セットあたりのレップ数という意味では増加率が早いです)。
このレップ数の増加率にアスリートの筋力の伸び率がついていけないようであれば、同じプログラムを2週続けてから次のパターンに進む(総レップ数を2週間毎に1レップずつ増やす)といった工夫が必要でしょう。
スーパーセットまたはトライセットのすすめ
先述の通り、懸垂の疲労・ダメージの回復にはかなり時間がかかるため、レスト1分とかでこのプログラムをガシガシやるのは難しいかもしれません。
かといってレストを5分にして、その間は何もやらずに時間が過ぎて回復するのをボケーッと待っているのはもったいないです。だってそれだけで20分以上かかっちゃいますから。
そこで、懸垂を他のエクササイズと組み合わせてスーパーセットまたはトライセットのような形にするのをオススメします。
例を挙げます:
- (2A) 懸垂 → (2B) プレス → (2C) 片膝立ちPallofプレス
これはトライセットの例ですが、2Aを1セットやったら1-2分休憩して2Bを1セットやり、また1-2分休憩したら2Cを1セットやり・・・という形で、1セットずつサーキット形式で実施していく事になります。
これだと懸垂の1セット目と2セット目の間が5分以上あくことになり、懸垂で使う筋群はそこそこ回復することができます。
また、レスト中ただボケーッと待っているよりも時間を無駄なく効率的にトレーニングを実施する事ができて、トータルのトレーニング時間の短縮にもつながります。
ただし、スーパーセットやトライセットを作る時に注意が必要なのは、それぞれのエクササイズがお互いを邪魔しないという点です。
例えば懸垂とバーベルカールを組み合わせるのはあまり得策ではありません。
バーベルカールを実施することで懸垂でも使う上腕筋やら上腕二頭筋やらが回復できないどころかさらに疲労・ダメージを受けることになり、結果として実施可能なトータルレップ数が低下することになりかねません。
注意しましょう。
まとめ
久しぶりに長文になりました。
今回紹介したのはあくまでも1つの考え方、例であり、他のやり方もあります。
でも、なかかな懸垂の筋力・最大反復回数が向上しないな〜と悩んでいる場合は試してみる価値はあると思います。
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【編集後記】
最近はセルフ筋膜リリースの道具としてソフトボールがお気に入りです。大きさ、硬さ、そして縫い目のおかげで滑りにくい点。う~ん、ステキです。