過去のブログでも書きましたが、腕立て伏せは素晴らしいエクササイズです。
とくに、肩甲骨を含めた上肢の動きが重要な競技のアスリートに対しては、上半身の押す系エクササイズとして、私はベンチプレスよりも好んで選択することが多いです。
※バドミントンやフェンシングのように、上肢を使って道具を操る必要のある競技のS&C指導を担当してきた経験が影響しているのかもしれません。
その最大の理由として、腕立て伏せは肩甲骨を自由に動かせるエクササイズであるという点が挙げられます。
逆に言うと、自由に動かせるぶん、自分でしっかりコントロールしてあげないといけないわけで、それを繰り返すことで「肩甲骨の安定性」という能力の向上に繋がると考えています。
ちなみに、ここで言う「肩甲骨の安定性」とは、肩甲骨をカチッと固めてまったく動かさないようにするという意味の安定性ではなく、動きの中でしっかりコントロールするという意味です。
腕立て伏せを指導していて直面するエラーの1つ
腕立て伏せをアスリートに指導していて直面するエラー(修正が必要な間違った動き)の1つに「下降局面(エキセントリック)初期に肩甲骨が過剰に内転してしまう」というものがあります。
そもそも、エキセントリックにおいて肩甲骨は次第に内転して、コンセントリックにおいて肩甲骨が次第に外転する、というのが自然な動きです。
ただし、ここで求めたいのは「次第に」という部分です。
つまり、上腕骨と肩甲骨が連動して動いてほしいのです。
しかし、上述したようなエラーが見られる場合、下降局面初期に肩甲骨のみが動いて(内転して)左右の肩甲骨が完全に寄ってしまってから、上腕骨の動きが始まるという感じで、2つの動きが完全に別々になってしまっています。
これでは、肩甲骨の安定性を向上するために、あえて腕立て伏せを選択した意味がありません。
肩甲骨を寄せた状態で押したいのであれば、ベンチプレスでもいいんですから。
また、このようなエラーが起きると、可動域が制限されたり、ボトムポジションで上腕骨骨頭が前方にglideしたりしがちで、トレーニング効果や安全性という点でマイナスです。
解決方法の一つとしてのコーチングキュー
このようなエラーが見られる場合には、「下がり始める時は、最初に(肩甲骨ではなくて)肘を曲げるように!」 というコーチングキューが有効です。
さらに言うと、もし開始姿勢の段階ですでに肩甲骨が少し内転orウイングしている場合は、「両腕で突っ張って床を押した状態から、最初に肘を曲げて下がり始めるように!」と声がけするのも有効です。
ただし、これらのコーチングキューが有効なのは、上述のエラーの原因が運動制御(身体の動かし方)に起因する場合です。
そもそも正しい動きをするだけの筋力が不足している場合は、どんなコーチングキューを与えたところで、動きは改善されません。
そういう場合は、ボックスの上に両手を置いて腕立て伏せをするなど、エクササイズ自体をregressionしてあげる必要があります。
まとめ
今回紹介したコーチングキューは、「下降局面(エキセントリック)初期に肩甲骨が過剰に内転してしまう」というエラーが見られた時のみ有効なものです。
そのようなエラーが見られない時は、むしろ使わないほうがよいです。
そもそもコーチングキューというのは万能なものではなく、場合に応じて適切なものを選択する必要があるものです。
それを認識したうえで、状況に応じて今回紹介したコーチングキューを活用してみてください。
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【編集後記】
月刊トレーニング・ジャーナル7月号の連載記事「エビデンスに基づいた、の意味するものとは── 実は自然に実践しているEBP」が面白かったです。S&Cプロフェッショナルとして、学術論文を読んで、科学的知見をトレーニング指導に活用したいとお考えの方にはオススメです。