親しくさせていただいているユニバーサルストレングス野口さんのブログ記事「S&Cプロフェッショナルであるならば学術論文(英文論文)から逃げてはならない・・・」を読んでインスパイアされたので、今回は関連したブログ記事を書こうと思います。
そもそも学術論文を読む必要はあるのか?
より良いS&Cコーチを目指すのであれば、学術論文を読むことは絶対に必要です。
学術論文を読まずに、日々進歩している科学的知見を現場でのトレーニング指導に活かすことはできません。
私自身、日常的に学術論文を読んでさまざまな科学的知見を学び、それをもとにトレーニング指導の内容を変化(進化)させています。
正直言って、学術論文を読まない人には、S&Cコーチとしての能力で負ける気がしません。
もちろん、S&Cコーチの能力は論文を読むことがすべてではありませんが、そこに取り組もうともしない人に負けるわけがない、という意味です。
このあたりのお話については、2014年のNSCAジャパンカンファレンスでもお話をしました。
S&Cコーチとして学術論文を読めるようになるまでのプロセス
学術論文を読むのはS&Cコーチとして必須だ、と主張しているだけでは何も変わらないので、もう少し具体的なお話として、私が考える「S&Cコーチとして学術論文を読めるようになるまでのプロセス」を紹介したいと思います。
大きく分けて、4つのステップ(段階)があります:
- ステップ①:英語の文章を読んで意味を理解できる
- ステップ②: 「学術論文」という特定のタイプの文章を読める
- ステップ③:論文を批評的に読んで自分なりの解釈をする
- ステップ④:S&Cコーチとしての立場で、研究結果を現場で活用できる
ステップ①:英語の文章を読んで意味を理解できる
学術論文は基本的に英語で書かれているので、まずは英語の文章を読んで意味を理解できる必要があります。
これがファーストステップです。
学生時代にある程度の勉強をしていて基本的な英語能力が備わっているのであれば、あと必要なのは「慣れ」です。
数をこなすことで、英語文章を読む能力は確実に伸びます。
※学生時代にまともに勉強していなかった人は、そもそもS&Cコーチには向いていません。
いきなり英語で学術論文を読むのはハードルが高いと感じる場合は、Strength & Conditioning Journalの記事を読むことから始めてみることをオススメします。
比較的読みやすい文章が多いし、ここで使われる専門用語はS&C関連の学術論文でも頻繁に目にするものが多いので、将来的に学術論文を読むための準備にもなります。
実際に数をこなすために英語の文章を読む時は、PCやタブレットの画面で読むのではなく、プリントアウトしたものに書き込みながら読むのがオススメです。
その際には、電子辞書を手元に置いておくのがよいでしょう。
紙の辞書と比べて電子辞書の良い点は、複数の辞書が入っているわりに持ち運びがラクということです。
英単語の意味を調べる時、英和辞書だけでなく、英英辞書も使って調べることで、その英単語の意味やニュアンスをより正確に掴むことができるようになります。
私も留学中はカシオのEx Wordという電子辞書を愛用していました。
ステップ②: 「学術論文」という特定のタイプの文章を読める
英語の文章を読めるようになったら、次の段階は「学術論文」という特定のタイプの文章を読めるようになることです。
学術論文は、自由作文とは異なり、フォーマットがある程度決まっています。
だいたい以下のようなセクションに分かれています:
- Abstract
- Introduction
- Methods
- Results
- Discussion
- References
このような論文の構成を理解し、各セクションにどのようなことが書かれているのかを把握しておけば、学術論文はグッと読みやすくなります。
フォーマットが決まっている分、それに慣れてしまえば、他のタイプの文章よりもはるかに読みやすいはずです。
ステップ③:論文を批評的に読んで自分なりの解釈をする
英語の文章に親しみ、学術論文という特定のタイプの文章のフォーマットにも慣れ、とりあえず論文で書いている内容を理解できるようになったら、そこでオシマイではありません。
次の段階は、論文を批評的に読んで自分なりの解釈をする、というステップです。
わかりやすく言うと、筆者の主張を鵜呑みにせずに「ホンマかいな?」とツッコミながら読んで、「いや、そこはこうやろ!」と自分なりの見解を持つということです。
そして、そのためには、被験者タイプ、研究デザイン、統計手法、etcといった項目について精通し、自分なりに研究データを評価をできることが必要になります。
なぜこのプロセスが大切なのかというと、論文筆者の主張には主観が入り込む余地があり、「この研究結果からは、そんなことまで言えないだろ!」という飛躍した主張をしているケースが多々あるからです。
特に、AbstractとDiscussionには主観が入り込みやすいです。
また、もう1つの理由は、同じ研究データを見ていても、視点が異なると解釈も変わりうるからです。
もし、筆者とは異なる視点で研究データを解釈したいのであれば、自分なりの目で研究内容を評価・解釈できる必要があります。
» 参考:【論文レビュー】ちょっとトレーニング中断しても、長期的な筋力アップにはそれほど影響しない?
個人的な意見として、ここのレベルの能力を身につけるには、大学院まで進学して、自身で研究をして論文を書くというプロセスを経験するのがベストだと思っています。
以前のブログでも書いたので、そちらを参照にしてみてください。
» 参考: 論文を批判的な目で読んで、その内容を解釈するために必要なことについての私見
ステップ④:S&Cコーチとしての立場で、研究結果を現場で活用できる
これが最後のステップです。
そして一番難しいステップでもあります。
ステップ③までに必用な能力は「研究者としての能力」といっても過言ではなく、大学院まで進学すれば学ぶことができます。
しかし、ステップ④で必用な能力は大学院では教えてくれません。
ステップ③までの能力を身に付けた上で、日々のトレーニング指導に科学的知見をどう活用しようか試行錯誤することによってのみ磨かれていく能力であると私は思います。
まとめ
S&Cコーチとして学術論文が読めるようになるには、以上の4つのステップを踏む必要があります。
なかなか時間のかかるプロセスですし、一朝一夕で身につくようなものではありません。
特にステップ④の能力に完成はなく、S&Cコーチとして一生磨き続けないといけないでしょう。
しかし、ステップ③までの能力は、数年間、腰を据えて取り組めば身に付けることができるものです。
そして、いったんその能力を身に付けておけば、その後、新たな科学的知見が出てきた時には、学術論文を読むことによって、自分の知識をアップデートすることができるようになります。
これはS&Cコーチとして活動し続けるのであれば、大きなアドバンテージだと思います。
S&Cコーチとして学術論文から逃げずに立ち向かうのか、あきらめるのか・・・。
大きな分かれ道ですね。
動画 論文の読み方
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【編集後記】
International Journal of Sports Physiology and Performanceから論文査読の依頼が来ました。
私の場合、学術論文を読めるかどうか、ではなく、他の研究者が書いた論文を審査するレベルにあるのです。
ただの自慢でした。