ウエイトトレーニングにおける「セット間レスト」という存在
ウエイトトレーニングのプログラムデザインというのは、多くの人が興味をお持ちのトピックです。
私がセミナーを自主開催した後に実施しているアンケートでも、今後聞いてみたいトピックを質問すると「プログラムデザイン」が回答としては1番多いです。
プログラムデザインを実施するときには、さまざまな変数を決定する必要があります。
その中でも、あまり注目を集めない地味な存在が「セット間レスト」です。
研究者からもあまり注目されていないようで、他の変数と比べるとそれほど研究がされていない印象があります。
とはいえ、少しずつではありますが、それなりに研究が進み、以前に提唱されていたやり方が否定されつつあるという現実があります。
具体的に言うと、以前は「筋肥大」が目的の場合はセット間レストを短くすることがNSCA等でも提唱されていました。
一般的には1分間くらいでしょうか。
これはもともと、セット間レストが短いほうが、筋肥大に貢献すると考えられる血中のホルモン(とくに成長ホルモン)濃度が増えるという研究結果にもとづいています。
しかし、このいわゆる「ホルモン仮説」は近年否定されつつあるのが現実です。
詳しくは過去にブログ記事を書いているのでそちらをお読みください。
#341 「筋肥大のためにはセット間レストを短くすべき!」という考え方は、科学界では否定されつつある
つまり、「筋肥大」が目的の場合でも、セット間レストはしっかりと取ったほうがよいという考え方が現在では主流になっているのです。
そのメカニズムについてはまだまだ解明されていません。
しかし、普通に論理的に考えれば、セット間にしっかりと休んだほうが、より重い重量を挙げられるORより多くのレップ数をこなせるので、結果としてより大きなトレーニング刺激を身体に与えることができるからだろうということは、想像がつきます。
実際に、昔に提唱されていた短いレスト(例:1分間)で10レップくらい繰り返すようなトレーニングを経験された方であれば、同意いただけるはずです。
私も昔は「こんな短いレストで多くのレップ数こなすのは超キツいから、全然重い重量を扱えないんだけど、こんなんで効果あるの?」なんて思っていたものです。
このあたりについて詳しく調べた研究が最近報告されたので、レビューしてみます。
論文の内容
研究プロトコル
少なくとも過去6ヶ月間においてウエイトトレーニングや有酸素トレーニングを実施していなかった若くて健康的な28名が被験者として研究に参加した(つまり「非鍛錬者(untrained)」)。
被験者は「片脚レッグプレス」を用いて週2回、10週間にわたってトレーニングを実施し、その前後で1RMや大腿四頭筋の横断面積を測定した。
被験者の各脚は、以下の4つのグループに分けられ、それぞれ異なるプロトコルでトレーニングを実施した。
- LI:1RMの80%の重量で限界まで追い込み、3分間のレストを挟んで計3セット実施
- SI:1RMの80%の重量で限界まで追い込み、1分間のレストを挟んで計3セット実施
- VLI-SI:1RMの80%の重量で限界まで追い込み、1分間のレストを挟んで、volume loadがLIと同じになるまで繰り返す
- VSI-LI:1RMの80%の重量で限界まで追い込み、3分間のレストを挟んで、volume loadがSIと同じになるまで繰り返す
※「volume load」は「重量xセット数xレップ数」で計算される総挙上重量みたいなもの。
ちょっとわかりづらいですが、LIとVLI-SIは同じ被験者で、左右異なる脚を使ってトレーニングをしている感じです。
で、まずはLIをやって、その後、LIで実施したvolume loadを計算して、それと同じvolume loadに到達するまでセットを繰り返すのがVLI-SIとなります。
だから、VLI-SIで実施するセット数は必ずしも3セットとは限らないということです(もっと多くなるかも)。
同様に、SIとVSI-LIは同じ被験者で、左右異なる脚でトレーニングをしています。
これ以上うまく説明できる自信がないので、詳しく知りたい方は論文をお読みください(笑)
結果
主だった内容だけ抜粋します。
- 1RMはすべてのグループでトレーニング前後で向上し、グループ間に有意な差はなかった
- 大腿四頭筋の横断面積はすべてのグループでトレーニング前後で増加し、LIとVLI-SIの増加量は他の2グループより有意に大きかった
- 各グループが実施したセット数とレップ数の平均は以下の通り:LI 3セットx16.1レップ、VLI-SI 4.5セットx11.6レップ、SI 3セットx9.8レップ、VSI-LI 2.3セットx13.4レップ
- volume loadはLIとVLI-SIが他の2グループよりも有意に多かった
考察
まず、1RMつまり最大筋力の向上にはセット間レストの影響が見られなかったということです。
個人的には、「セット間はたっぷり休んだほうが重い重量を挙げられて、最大筋力向上効果も高そうだけどな〜」と考えているので、それとは異なる結果であり、ちょっと違和感があります。
しかし、今回の研究デザインとしては、重量(強度)は1RMの80%で固定されているので、そこが原因かなと思います。
つまり、「強度が同じ」であれば、セット間レストの長さ(やそれにともなうvolume load)に関わらず、最大筋力向上効果は似たようなものなんだろうな、ということです。
逆に言うと、最大筋力向上のためには、量よりも強度がトレーニング刺激として重要である可能性が高いということです。
まあ、個人的には最大筋力向上のためには量もそれなりに大事だとは思いますが、この研究では被験者が非鍛錬者だったということやトレーニング期間の短さ(10週間)ということが影響したかもしれません。
いずれにせよ、セット間レストを長くするメリットは「より重い重量を挙げられるORより多くのレップ数をこなせる」のはずですが、この研究では後者に焦点を当てて調べるようなデザインだったので、前者についてはまた別の研究が実施される必要があるというところですね。
次に、筋肥大効果について見ていきます。
すべてのグループでトレーニング前後で筋肥大が認められましたが、LIとVLI-SIのほうが他の2グループより横断面積の増加量が大きかったということでした。
このデータの解釈は複雑なので、段階的に進めていきます。
まず、シンプルにLIとSIを比べたら前者のほうが筋肥大効果が大きいので、セット数と強度が固定されていて、各セットを限界のレップ数まで追い込むのであれば、セット間レストは長いほうが良いと言えそうです。
で、次に気になるのは、筋肥大効果がLI > SIだった理由は、LIのほうがよりたくさんのレップ数をこなせるからなのか、単純に「セット間レストが長い」ということに何かしらの意味があるのか、という点です。
実際、LIは1セットあたり平均16.1レップこなせていて、SIは1セットあたり平均9.8レップしかこなせていないので、セット間レストが長いほうが多くのレップ数をこなせるのは間違いなさそうです。
次に比べたいのは、レップ数(もしくはvolume load)は同じだけど、セット間レストが異なる場合です。
この研究で言うと、LIとVLI-SIの比較、そしてSIとSLI-LIの比較です。
それぞれの比較を見てみると、筋肥大効果に有意な差はありません。
つまり、強度と総レップ数を揃えた場合、セット間レストが異なっていても、筋肥大効果は似たようなものになるということです。
ただ、セット間レストが短いと、1セットあたり限界まで追い込んだ場合のレップ数が少なくなるので、そのぶん、セット数はより多くこなす必要がでてきます。
じゃあ、セット間レストに関わらず、総レップ数が多いことが筋肥大にとって重要なのかというのが最後の疑問で、それはLIとVLI-SIのほうが他の2グループより横断面積の増加量が大きかったことから、そのとおりです、となります。
つまり、筋肥大効果に関するデータから言えることをまとめると、セット間レストが長いほうが筋肥大効果は大きいけど、その理由は単純により多くのレップ数をこなせるから、ということになります。
逆に言うと、セット間レストが短くても、そのぶんより多くのセット数をこなして総レップ数が同じになれば、同じくらいの筋肥大効果が期待できるということです。
この科学的知見を現場で実際に活用するなら、筋肥大を目的とする場合、レストを長くしてセット数を少なめにしておくか、レストを短くしてセット数を増やすか、どちらかを選択しましょう、ということです。
私だったら前者を選択しますが・・・。
Limitations
今回紹介した研究を解釈して活用する上で、押さえておくべきLimitationがいくつかあります。
まず、今回の研究結果が当てはまるのは、「強度を固定して、各セットで限界まで追い込む場合」に限られるということです。
一般的には、各セットを限界まで追い込むよりは、3セットx10レップみたいな感じで、1セットあたりのレップ数が指定されていることが多いはずです。
そして、指定されたレップ数をこなせるようになったら、さらに追い込んでレップ数を増やすというよりも、重量を増やすことが一般的でしょう。
すでに説明したように、セット間にしっかりと休むことのメリットは、より重い重量を挙げられるORより多くのレップ数をこなせることだと考えられますが、今回の研究は後者のメリットについて調べた研究だったということです。
セット間にしっかりと休むことで、より重い重量を挙げられるのか、そして、挙げられたとしたらそれが長期的により大きなトレーニング効果に結びつくのか、というのは、また異なる研究デザインを用いて調べる必要があります。
また、被験者が非鍛錬者であった、というのも気にしておく必要があります。
日常的にトレーニングをしている鍛錬者にもそのまま当てはまるかどうかはわかりません。
まとめ
冒頭で説明したように、かつて提唱されていた「筋肥大のためにはセット間レストは短くしろ!」というのはあまり根拠がありません。
今回紹介した研究を含め、長いレストと短いレストを比べると、前者のほうが筋肥大効果が大きいと報告している研究のほうが圧倒的に多いです。
したがって、個人的には、あえてセット間レストを短くするメリットはあまりないと考えます。
で、セット間レストを長くしたほうが筋肥大効果が大きくなることの理由の1つが、より多くのレップ数をこなせることである、というのが確認されたのが今回紹介した研究ということです。
別の言い方をすると、強度も総レップ数も同じなのであれば、セット間レストは長くても短くても筋肥大効果は変わらないということでもあります。
セット間レストを長くしたほうが筋肥大効果が大きくなることの理由として考えられるもう1つの可能性として「より重い重量を挙げられる」という点については、今後の研究が期待されます。
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【編集後記】
IRON MAN 8月号の村上選手の特集記事が面白かった。