最近は、インターンとして、School of Movementの朝倉さんがとあるスポーツチームにムーブメントトレーニングを教えるのを補佐しながら、勉強をし直しています。
ちょうど昨日のテーマは「ラテラル」で、横方向の動きについてのセッションでした。
朝倉さんが指導をされる様子を観ながら、横方向の動きにおける「股関節外転」の役割について色々と考えている時に、以前に読んだサイドステップに関する研究論文のことを思い出し、読み直してみました。
せっかくなので、その論文についてレビューをしてみます。ちなみに、First Author(第一著者)は、前職のJISSで同僚だった稲葉さんです。
論文の内容
研究プロトコル
健康な男性被験者に、横方向のサイドステップを実施してもらった。
右脚で床を押して、左脚で着地するという形だった。
その時のpush-off leg(つまり右脚)の各関節の動きや、床反力を計測した。
サイドステップの距離は、身長の20、30、40、50、60、70、80、90、100%と、9パターン変えながら実施してもらった。
被験者は、できるだけ動作時間を短くするよう指示をされた。
結果
サイドステップの距離が増えるにつれて、股関節伸展・膝関節伸展・足関節底屈のトルクや仕事量が増えたが、股関節外転のトルクや仕事量は増えなかった。
※他にもいろいろな変数が報告されていますが、「股関節外転」の役割に議論をフォーカスしたいので、省略します。
考察
横方向の動き(この論文の場合はサイドステップ)を素早く実施するには、「股関節外転」が重要だと考えている人が多いのではないでしょうか?
そして、横方向の動きのパフォーマンスを高めるために、股関節外転の役割のある中殿筋をガシガシ鍛えたり、サイドランジやヒップアブダクションマシン等で股関節外転の動作そのものをガシガシ鍛えたり、という方も多いかもしれません。
しかし、今回紹介した論文の結果によると、股関節に限定して考えると、サイドステップの距離を伸ばした時に「外転」の仕事やトルクは増えずに、「伸展」の仕事やトルクが増えたということでした。
つまり、より遠くにorより素早くサイドステップをしようとした時に、股関節外転の出力を高めることでそれを達成するのではなく、股関節伸展の出力を高めることでそれを達成するという戦略が取られていたということです。
そのような結果をもとにして考えると、横方向の動きをパワフルに実施するためには、股関節伸展の出力を向上することが有効であると推測されます。
つまり、矢状面メインで鉛直方向の動きであるスクワットやデッドリフト、ランジ等のベーシックなウエイトトレーニングを実施して股関節伸展の出力を高めることができれば、前額面での動きである横方向へのサイドステップのパフォーマンス向上に繋がる可能性があるということです。
#279 前額面のパフォーマンスUPのために、まずは矢状面メインのエクササイズで筋力を上げてみる、という考え方
私はたびたび、ウエイトトレーニングの動きを実際のスポーツ動作に近づける必要はないと主張していますが、横方向への動きにおいても、これが当てはまるようです。
つまり、一見すると横方向への動きでは前額面において股関節を外転することが重要そうに見えますが、それとは異なる矢状面メインでの動きを用いて股関節伸展を鍛えることが、横方向への動きのパフォーマンスUPに貢献しうるということです。
ここで、付け加えておきたいのは、べつに股関節外転の出力がゼロだったわけではないという点です。
「サイドステップの距離の増大とともに増えなかった」だけであって、股関節外転のトルクは発生しているのです。
つまり、股関節外転にもしっかりとした役割があるということです。
具体的に言うと、股関節外転の役割は、動作初期に身体重心を進行方向に加速することで
- ①身体を進行方向に傾ける
- ②身体重心とpush-off legの接地位置の水平距離を長くする
- ③床反力の角度をより水平に寝かせる
ことであると考えられます。
そのような状態が整って始めて、股関節伸展・膝関節伸展・足関節底屈の出力が横方向の加速に繋がるのです。
まとめ
股関節にフォーカスして考えると、素早くパワフルに横方向へ動くには、外転よりも伸展の出力を増やすことが重要である可能性があるということです(因果関係を調べているわけではないので、あくまでも可能性のお話です)。
ということは、ウエイトトレーニングにおいては、横方向の動きを模倣したサイドランジ等をガシガシやるよりも、スクワット・デッドリフト・ランジ等のベーシックなエクササイズをしっかりとやっておくことが優先順位は高くなるはずです。
後者は矢状面メインの鉛直方向のエクササイズですが、それが横方向の(前額面の)動きのパフォーマンス向上に繋がりうるということが、バイオメカニクス的にも支持されたと言えます。
「ぱっと見が似ているから」という浅はかな理由で、ウエイトトレーニングのエクササイズを選択するのは非常に危険なのです。
また、今回紹介した研究では「サイドステップ」という動作が取り上げられましたが、実際に横方向の加速や方向転換を素早く実施したい場合は、push-off leg(外側の脚)だけでなく内側の脚をうまく使う必要があります。
むしろ、内側の脚を使ったほうが、より大きな出力を発揮することができます。
そして、内側の脚の出力ポテンシャルを活かすためには、外側の脚で軽くプッシュして身体を傾けるのが重要になってくるんだよな・・・なんてマニアックなことをムーブメントスキルを学ぶと考えることができるようになります。
興味のある方は、まずはSchool of Movementの「Movement Fundamentals」という10回コースを受講されることをオススメします。
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【編集後記】
サッカーのイニエスタ選手がJリーグにやってきましたね!
素晴らしいですね。
日本のサッカー選手も良い部分をどんどん学んでもらいたいです。
もしイニエスタ選手がガシガシとウエイトトレーニングでもやってたりしたら、日本のサッカー選手もやるようになるかしら。。。