#50 【測定シリーズ】リニアポジショントランスデューサー(LPT)を使用してレジスタンストレーニング中のパワーを測定する?


 

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ジャンプスクワットやベンチプレス等のエクササイズを実施中に、リニアポジショントランスデューサー(LPT)をバーベルに取り付けて発揮パワーを測定するというのは、最近のトレンドです。研究でもよく使われますし、トレーニングの現場でも即時フィードバックとして用いられる事が増えてきました。

最近は、比較的低価格で現場でも使いやすい製品が色々と出てきて、バイオメカニクスに詳しくないコーチでも製品のボタンを押せば簡単に「◯◯W(ワット)」というデータを得ることができるようになりました。

 

 

パワーの種類

しかし、この場合に「◯◯W」という形で表示されるパワーが「バーベルに対して発揮されたパワー」なのか「バーベル+リフターのシステムに対して発揮されたパワー」なのか、その違いを認識しているコーチは少ないと思います。

LPTを用いて前者のパワーを測定する場合、リフターの体重(body mass)が発揮パワーの計算に含まれず、あくまでもバーベルに対して発揮されたパワーのみに焦点が置かれます。逆に、後者のパワーの場合、リフターの体重(body mass)が発揮パワーの計算に含まれ、一般的に前者の場合よりもパワーの値は大きくなります。

じゃあ、どちらのパワーを測定するのが良いのでしょうか?それは場合によります。

たとえば、ベンチプレスのように、リフター自身の身体(あるいは重心)はそれほど動かないような上半身エクササイズでは、外部の物体、つまりバーベルに対して加えるパワーの測定が適切でしょう。

一方で、ジャンプスクワットのようにバーベルのみでなくリフター自身の身体(あるいは重心)も大きく移動するようなエクササイズにおいては、バーベル+リフターのシステムに対して発揮されたパワーを測定したほうが、意味のあるデータを得られると思います。

 

 

LPTによるパワー測定のLimitation

①水平方向のバーベルの変位の影響

さて、上記の2種類のパワー測定を実施する際に、考慮しておく必要のあるLimitationつまり制限要因がいくつかあります。

まず1つ目は、LPTの測定原理が関わってくる問題です(ここでは地面に対して垂直方向のパワー発揮を測定する場合に限定してお話をします)。

LPTはそのケーブルが引き出される距離(変位)を測定する装置であり、一般的にはどの角度に引っ張りだされたかは測定されません。

したがって、スミスマシンでベンチプレスを実施する時のようにバーベルが地面に対してまっすぐ垂直に動く場合は、「LPTが測定した変位」=「バーベルの垂直方向の変位」という事になり問題はないのですが、フリーウエイトでベンチプレス等を実施する場合はバーベルが水平方向にも動くため、「LPTが測定した変位」≠「バーベルの垂直方向の変位」という事になり、パワーの計算にも誤差が生じます。バーベルの水平方向の動きが大きいほど、この誤差も大きいと考えてよいと思います。

したがって、水平方向の動きが大きいエクササイズ(例えばランジ)におけるパワー発揮をLPTで測定するのはだいぶムリがあります。

最近では、LPTのケーブルが引っぱり出される角度も同時に測定して、そこからバーベルの垂直方向のみのkinematicsを計算してくれるLPT製品も出ています(Gymaware)。しかし、ほとんどのLPT製品ではこのような機能はないので、S&Cコーチとしては:

  • できるだけ水平方向の動きが少ないエクササイズに限定してLPTを使用する
  • 多少の誤差があることを認識した上で、測定されたパワー値を評価するようにする

といった注意が必要になるかと思います。

 

②サンプル数の影響

LPTによって測定される変数の正確性には、サンプル数が影響します。ここで言うサンプル数とは1秒間に何回変位(位置)のデータを読み取っているかという事で、ヘルツ(Hz)という単位で表されます。たとえば、100 Hzは1秒間に100回データを計測しているという事になります。

このサンプル数が低いと、ピークの値(山または谷の頂点)を見逃す可能性が大きくなるという問題があります。例えばジャンプスクワット中のジャンプ高(つまり位置の最高点)を求めたい場合、例えばサンプル数が25 Hzのように小さい設定だと、実際のジャンプ高よりも小さな値を得る可能性が大きいでしょう。

また、サンプル数が不足している場合、パワーを計算する時の誤差が大きくなるという問題もあります。

LPTは直接的にパワーを測定するわけではありません。まずは、変位(位置)のデータを測定し、それを時間微分(正確に言うと微分ではなくて差分)する事で速度のデータを求めます。さらに、速度をもう一回時間微分する事で加速度のデータを求めます。そして、その加速度のデータと重力加速度、物体(バーベルまたはバーベル+リフターのシステム)の質量等の値を用いて計算をすることで、物体に加えられた力のデータを求めます。そして最終的に、求められた速度のデータと力のデータを掛け合わせる事でパワーのデータを求めます。

このように、LPTでパワーを計算するには2回微分をする必要があるわけですが、実際には微分ではなく差分という方法を用います。この差分の正確性はサンプル数の影響を受け、サンプル数が高いほど誤差が少なく、サンプル数が低いほど誤差が大きくなります。

使用しているLPTのサンプル数が低いと以上のような問題が生じるため、S&Cコーチとしては目的に応じて十分なサンプル数で計測するようなLPTを選択して使用する必要があります。具体的にどの程度のサンプル数が必要なのかは、測定したい動作の速さにもよるのでなんとも言えませんが、一般的には最低でも200 Hz以上、理想を言えば500-1000 Hz程度が望ましいと考えられます。

 

③LPTを用いて「バーベル+リフターのシステムに対して発揮されたパワー」を測定できる?

最初にパワーの種類が2つあると説明しました。前者の「バーベルに対して発揮されたパワー」をLPTを用いて測定・計算する場合は、原理的には問題ありません。

しかし、後者の「バーベル+リフターのシステムに対して発揮されたパワー」をLPTを用いて測定・計算する場合は、原理的に問題があります。なぜなら、バーベルの動き(キネマティクス)とバーベル+リフターのシステムの重心の動き(キネマティクス)が同一であるという仮定を前提にしているからです。つまり、LPTのケーブルをバーベルに取り付けてバーベルのキネマティクスを測定する事で、バーベル+リフターのシステムの重心のキネマティクスを間接的に推定しているという事です。

残念ながら、多くの研究でこの仮定・推定が正しくない事が示されており、実際のパワーよりも大きな値が計測される傾向があります。

たとえば、ハングパワークリーンのように、明らかにバーベルとシステム重心が別々な動きをする場合はLPTにより計測されたパワー値は不正確という事になりますが、スクワットのようにバーベルとシステム重心が比較的似たような動きをすると思われるようなエクササイズでも、LPTで測定されるパワー値は実際の値とは大きく異なるという事が分かっています。

したがって、LPTを用いて「バーベル+リフターのシステムに対して発揮されたパワー」を測定する事は基本的にオススメしません。

ただし、LPTを用いて測定された「バーベル+リフターのシステムに対して発揮されたパワー」と実際のパワー値の間には比較的高い相関関係がある事がわかっているので、LPTによって測定されたパワー値は不正確だと認識した上で、選手間の筋パワーの大小を大雑把に比較する目的で使用するのはアリかもしれません。ただし、長期に渡る筋パワーの変化をLPTで正確にモニターできるかどうかはわかりません。

 

 

まとめ

LPTを用いて測定をすると◯◯Wという値を得ることができますが、この値はどのような種類のパワーを表しているのか、この値は正確なのか、どれほどの誤差が含まれているのか、どのような原理で計算された値なのか、等々について認識した上で評価しないと、パワーを測定している気分になっているだけという事になりかねません。

また、今回は詳しく書きませんでしたが、パワー測定値の信頼性・再現性というものについても理解しておかないと、トレーニング等によってパワーが実際に向上したのか、あるいは疲労等によって低下したのかを正確に判断する事ができません。

テクノロジーの進歩は素晴らしく、現場でS&Cコーチが簡単に色々なデータを測定できるような製品がたくさん出回っています。それ自体は良いことだと思いますが、「ボタンを押したらなんか数字が出てきた」程度の認識でそれらのテクノロジーを利用するのは危険だと思います。LPTを用いたパワー測定について、もう少し詳しく勉強したい方は下記の参考文献を読んでみて下さい。

 

 

参考文献

Harris NK, Cronin J, Taylor KL, Jidovtseff B, and Sheppard J. Understanding position transducer technology for strength and conditioning practitioners. Strength Cond J. 2010;32(4):66-79.

Hori N, Newton RU, Nosaka K, and McGuigan MR. Comparison of different methods of determining power output in weightlifting exercises. Strength Cond J. 2006;28(2):34-40.

Reiser II RF, Rocheford EC, and Armstrong CJ. Building a better understanding of basic mechanical principles through analysis of the vertical jump. Strength Cond J. 2006;28(4):70-80.

 

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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