#87 『Stress is additive』:持久系アスリートに対してレジスタンストレーニングを処方したり指導したりする時のフィロソフィー②


 

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前回の続きです。

 

 

第2条「Stress is additive」

なぜか英語です。気取ってるわけではなく、適切な日本語が思いつかなかっただけです。

どういう事かというと、身体にとってストレスはその種類に関係なく蓄積していくものですよというお話です。持久系競技の練習もレジスタンストレーニングも仕事のストレスも人間関係のストレスも、全部ストレスとして蓄積していくので、その総量を考慮に入れましょうって事です。

このコンセプトが特に重要なのは、持久系アスリートに初めてレジスタンストレーニングを導入する時です。

例えば、ある持久系アスリートが持久系競技の練習を週10時間実施していたとします。このアスリートが初めてレジスタンストレーニングを導入しようとした時に、それまでの持久系競技の練習量は変えずに、単純にレジスタンストレーニング(週3時間とします)を加えると、総トレーニング時間が10+3=13時間となり、一気に30%の増加となります。

トレーニング総量(この場合はトレーニング総時間)が30%アップすると、その急激な増加量に身体がついて行けずに、トレーニングで狙った適応を引き出す事ができなかったり、極度の疲労状態になり競技練習の質や量が低下して、その結果コンディションやパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性が考えられます。最悪の場合は一時的なオーバーワーク状態(意図しないオーバーリーチング?)に陥る事も考えられます。

もし、レジスタンストレーニングを導入する事によってそのようなパフォーマンスの低下が見られたとすると、アスリートやコーチはその原因がレジスタンストレーニングにあると考えて、レジスタンストレーニングをやめてしまう可能性があります。これは我々S&Cコーチにとっても、アスリート自身にとっても不幸な結末です。実際にはレジスタンストレーニングそのものに問題があったわけではなく、レジスタンストレーニングをどのように導入するか、そのやり方が原因なのに・・・。

そこで、こうした不幸な展開を予防するためには、最初にレジスタンストレーニングを導入する際には持久系競技の練習量を減らしてもらうのがベストです。

例えば競技練習を週10時間から週8時間に減らしてもらって、その減った時間分をレジスタンストレーニングで置き換えるという事。そうする事によってトレーニング総量はあまり変えずにレジスタンストレーニングを導入する事ができます。

そして、その後、レジスタンストレーニングに選手が慣れてきたら徐々に競技練習の時間を増やしていって、またもとの10時間に持っていく。要するに一気にストレスを増やすのではなくて、選手の適応に合わせて徐々に負荷を増やしていくというやり方。これがベストです。

ただし、これを実施するには最初に練習量を減らすという事をアスリートやコーチを説得して了解してもらう必要があります。そこはS&Cコーチのコミュニケーション能力(説明力?説得力?)の見せ所でしょう。

実際に、一時的に持久系競技の練習量を減らしてその分をレジスタンストレーニングに置き換えても、持久系パフォーマンスの低下は見られず、場合によってはパフォーマンスの向上も見られるという研究結果がフィンランドをはじめとして北欧の国で報告されています。そういった科学的データを利用して説明するのもありですし、一気に総ストレス量が増えるとオーバーワーク状態に陥ってパフォーマンスが低下する可能性がありますよという説明をするのもありでしょう。説明をする時はいろいろなオプションを用意しておいて、どれに相手が反応するかを見極めながら説得をするのが良いと思います。

 

 

まとめ

という事で、今日は第2条を説明しました。今日はこれからNSCAジャパン総会に出発するので、ここまで。続きは次回!!

 

 

参考文献

  • Bastiaans JJ, van Diemen AB, Veneberg T, and Jeukendrup AE. The effects of replacing a portion of endurance training by explosive strength training on performance in trained cyclists. Eur J Appl Physiol. 2001;86(1):79-84.
  • Paavolainen L, Hakkinen K, Hamalainen I, Nummela A, and Rusko H. Explosive-strength training improves 5-km running time by improving running economy and muscle power. J Appl Physiol. 1999;86(5):1527-33.
  • Paavolainen L, Hakkinen K, and Rusko H. Effects of explosive type strength training on physical performance characteristics in cross-country skiers. Eur J Appl Physiol Occup Physiol. 1991;62(4):251-5.

 

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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