#123 トレーニングは競技のためだけにすれば良いか?


 

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最近担当をするようになったアスリートの胸椎モビリティ(可動性)が不足していたので、モビリティドリルとストレッチを教えて「これらをできるだけ頻繁にやって(前者はウォームアップ、後者はクールダウン)、胸椎の可動性を向上させて行こう」と話しました。

胸椎モビリティが不足していると肩の可動域(特にオーバーヘッド動作)が制限されたり、代わりに腰椎が必要以上に動いて(=補償動作)痛みに繋がったりという可能性があります。なので、S&Cコーチの立場としては、胸椎モビリティの改善を図るというアプローチは当たり前のことだと考えていました。

しかし、このアスリートから「でも自分の競技では基本の構えが前かがみで、胸をしっかり張る事はほとんどないから(胸椎モビリティは)必要ないんじゃないですか?」という疑問をぶつけられました。確かに、彼の競技では胸を張った構えを取ることはあまりなく、胸椎モビリティの不足が直接的に競技に悪影響を及ぼす事はないように思われました。

そんな新鮮な切り口からの意見をぶつけられて、私も一瞬考えてしまいました。でも結局、胸椎モビリティの向上を図る事は必要だという結論に達して、それをそのアスリートにも伝えて納得してもらいました。じゃあ、なぜこのアスリートには胸椎モビリティ改善が必要であるという判断にいたったのでしょうか?

 

 

胸椎モビリティ改善が必要と考えた理由

①頻度は低いけど胸椎モビリティを必要とする動作が起こる

確かにこのアスリートの言う通り、この競技の基本姿勢は「前かがみ」です。しかし頻度は低くても、上肢を頭上に持ちあげるオーバーヘッド動作(胸椎伸展の可動域が要求される)や片腕を体幹の後方に引く動作(胸椎回旋の可動域が要求される)が競技中に起こります。

これらの動作が適切に実施できるかどうかが試合の勝敗を分ける事も十分考えられますし、そのような動作を練習中や試合中に繰り返す時にモビリティが不足していると身体の他の部位に負担がかかり痛みに繋がる可能性も排除できません。

 

②競技以外のトレーニングで必要

たとえ競技の練習中や試合中には高いレベルの胸椎モビリティが必要ではなかったとしても「じゃあ、競技特異性の観点から考えて、胸椎モビリティの向上は必要ないな」という結論には達しません。なぜなら、このアスリートは体力向上のために競技以外にも色々なトレーニング(持久系、ウエイト)を実施しているからです。

たとえば、胸椎モビリティが不足して胸をしっかり張れないとスクワットやデッドリフトを適切なフォームで実施できません。同様に、プレス等のオーバーヘッド動作を実施する時も胸椎モビリティが不足していると肩のインピンジメントが起こったり、胸椎の代わりに腰椎を伸展させて腰を痛めたりする可能性があります。つまり、胸椎モビリティの不足により適切なフォームでウエイトトレーニングを実施できないと安全面で問題があるし、使用重量が制限されていまうのでトレーニング効果も半減してしまいます。

ある特定の関節のモビリティやスタビリティ、あるいはある特定の動作がそのアスリートにとって必要かどうかは、競技中の動作だけ考えて決定してはいけません。それは視野が狭い考え方です。競技以外にも色々なトレーニングを実施しているのであれば、それらの活動を安全に実施して最大限の効果を得るために「トレーニングのためのトレーニング」という観点も持つ必要があります。

 

まとめ

最初に紹介したアスリートの発言を聞いた時に、「確かに競技にはそれほど必要ないから胸椎モビリティ向上は図らなくてもいいかな」と咄嗟に答えそうになりました。しかし、「なんかそれは違う」という直感が働いたので、30秒ほど「う〜ん」とうねりながら考えて、やはり上記のような結論に達しました。

「競技の動きだけをトレーニングすれば良い、それが特異的なトレーニングだ」というのは視野の狭い危険な考え方だと思います。アスリートは競技以外にもさまざまなトレーニングをやっているのだから、そういったトレーニングにおける動作も考慮に入れる必要があります。

そう考えると、どの競技のアスリートも最低限ヒトとして基本的な動作パターンは正しくできるようにしておく事が重要で、そうなると我々S&Cコーチがアスリートに対して提供するトレーニングというものは競技の種類に関わらず基本的な部分は結構共通している部分が多くなるのかな〜と思います。それは別に競技の特徴を考えずに型に当てはめているわけではなく、そのアスリートにとって何がベストなのかを考えた結果として共通部分が多くなっているという事です。

もちろん、傷害予防を考えたエクササイズ等に関しては競技の特性を考えて取り入れる必要があるし、基本的なトレーニングをこなして土台ができあがっているアスリートに対しては、その競技に特化したエクササイズ等を取り入れても良いと思います。みなさんが私と同じ立場だったらどう考えますか?

 

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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