S&Cコーチとして、アスリートやコーチの意見や要望を聞くのは重要です。それを無視して自分がやりたいこと・必要だと思うことを押し付けるのは良くないです。
かと言って、要望されたことを額面通り受け取って、その真意を深く理解しようとせず、そのまま実行するのも良くないです。専門家としては無責任だし、アスリートやコーチの望む結果を得られない可能性さえあります。
要望を額面通り受け取らないほうが良い場合もある
ちょっと例を挙げて説明します。コンタクトスポーツ(相手との身体の接触があるスポーツ、例えばラグビーとか)のアスリートやコーチから「身体を重くしたい」とリクエストされたと仮定します。これを額面通り受け取ると「体重を増やしたい」ということになるので、「じゃあトレーニングなんてしないでも、とりあえず暴飲暴食してればいいんじゃないですか?それでも体脂肪がついて重くなりますよ」とツッコんだら、「それだとスピードが落ちるから困る」と言われたとします。
この場合、アスリートやコーチの本当の要望は「スピードは落とさずに、身体を重くしたい」ということになります。単純に「身体を重くしたい」のと「スピードは落とさずに、身体を重くしたい」のでは大きな違いがありますし、その目標に対する最適なアプローチの仕方や手段が変わってきます。
もし、アスリートやコーチの「身体を重くしたい」というリクエストを額面通り受け止めて暴飲暴食をさせて体重を10kg増やしたとしても(主に体脂肪の増加で)、その結果としてスピードが著しく落ちてしまったら、アスリートやコーチからは喜ばれないでしょう。場合によっては文句を言われる可能性もあるでしょう。
「身体を重くしたい」という要望に応えたはずなのに、それじゃあ納得できないですよね。「言われた通りやって目標を達成したのに、なんで文句言われないといけないんだ〜」と叫びたくなることでしょう。でも世の中そんなもんです。
じゃあどうすればよいか?
ここでS&Cコーチとしてできることは、2つのうち1つだと思います。
1つは、アスリートやコーチのリクエストを額面通り受け取って、とりあえずその目標を達成すること。ただし、最初にリクエストをもらった段階でその内容を文章にした上で署名をもらっておくこと。上の例で言えば「身体を重くしたい」と一筆もらうということです。
そうすれば、たとえば暴飲暴食をさせて体重アップという目標を達成したのにスピードが落ちたという文句を言われたら、その文章を見せて「身体を重くしたいというあなたの要望にはしっかりと応えました。また、そもそもスピードを落としたくないという要望はもらっていませんでした」と反論することができます。
ただし、この方法では自分の立場は守られるかもしれませんが、その後も継続してトレーニング指導を希望されるかどうかは疑問です。
もう1つの方法は、最初にアスリートやコーチの要望を聞く時に、言われたことを額面通り受け止めずに、真の要望が何なのかを見極めるまでどんどんツッコんで話を聞くことです。個人的にはこちらの方法を選択することをオススメします。
実際のところ、アスリートやコーチの要望を聞くと最初は「?」と思うことが多いです。でも、何度もツッコんで深く話を聞くと「あー、そういうことか」と納得できます。
別に、アスリートやコーチは自分の本当に望んでいることがわかっていないわけではありません。実際はわかっているのです。わかっているけど、それをうまく言葉として表現できなかったり、少し勘違いしたりしているだけです。
それを聞き出したうえで、アスリート・コーチとS&Cコーチの双方がトレーニングの目標設定について納得したうえでコーチングを開始できるようなカウンセリング能力がS&Cコーチには求められているのだと思います。以上。
#125 ハムストリングが硬いと言ってストレッチしているアスリートは正しいのか?
まとめ
S&Cコーチは言われたことを言われた通りやっていれば良いってもんじゃないというお話をしてみました。
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【編集後記】
最近は、プロ野球選手が増量するため寝る前にチーズバーガーをたくさん食べているとかいう報道を目にします。プロ野球選手にとって、増量が目標なのでしょうか?それとも増量は手段であり、筋肥大による筋力・筋パワーアップが目的なのでしょうか?また、同様に、プロ野球投手がスプリングキャンプの目標を「しっかり投げ込むこと」と言っているのを聞くと、手段と目的を間違えてるな〜と思ってしまいます。