#243 【月刊トレーニング・ジャーナル記事転載①】ウォームアップについて

公開日: : 最終更新日:2015/08/07 コンディショニング・w-up・クールダウン


  

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昨年から12回にわたって、月刊トレーニング・ジャーナルという雑誌で「クロスオーバートーク」という連載をさせて頂きました。全日本女子バレーボールS&Cコーチの甲谷洋祐さんと私の2人で、毎回1つのテーマについてそれぞれの立場から考え方を書くという形式で、色々と書きました。その記事をこちらのブログに転載する許可を頂きましたので、ボチボチと載せていきたいと思います。私の執筆部分だけ転載するので、甲谷さんの執筆部分を読みたい方は月刊トレーニング・ジャーナルをご購入ください。

まずは連載第1回の「ウォーミングアップについて」です。

 

=====ここから記事=====

最高の状態で試合に臨むために

私はこれまで個人競技のアスリートの指導をする事が多かったので、今回は個人競技にフォーカスしてウォーミングアップに対する考えを紹介したいと思います。

まず、試合前と練習前ではウォーミングアップに対するアプローチは異なります。試合前のウォーミングアップの目的は「最高の状態で試合に臨む」という点に尽きます。様々なアスリート(海外のトップアスリートも含めて)の試合前のウォーミングアップを観察してきて、この目標を達成するために一番重要だと感じるのは「ウォーミングアップをルーチン化する」という事です。実績もあり強い選手はウォーミングアップで何をするのか決まっていて、それを黙々と実施しているものです。その様子には独特の雰囲気があり、「この選手は強そうだな」というのが伝わってきます。

一方、まだ経験の浅い若手の選手やそれほど実績を残せていない選手は、なんとなくウォーミングアップに取り組んでいる印象を持つ事が多いです。1つのドリルが終わったら少し止まって「次は何をやろうか」と考えながらやっており、落ち着かない様子で周りをキョロキョロと見ているというのがよくあるパターンです。

 

ルーチン化のメリット

試合前のウォーミングアップをルーチン化するメリットは主に4つあります。1つ目は、毎回同じ内容のウォーミングアップを実施すると、その日のコンディションを把握しやすくなる点です。例えば、特定の関節がいつもより硬いと感じたら、その部位のモビリティドリルをいつもより多めに実施する事ができます。毎回異なるウォーミングアップをしていては、そのようなコンディションの変化に気づくのは難しいでしょう。2つ目のメリットは、ウォーミングアップを改善しやすくなる点です。ルーチン化と言っても全く同じ内容のものを少しも変えずにやり続ける事を推奨しているわけではありません。ルーチンを試合前にやってみて何か問題が見つかれば(例:時間がかかり過ぎた、強度・量が過剰で疲れてしまった)、次回に向けてルーチンの内容を見直して必要な変更を加えれば良いのです。もしウォーミングアップがルーチン化されておらず、毎回ランダムな内容を実施していたら、そもそも改善する事は不可能です。3つ目のメリットは、他の事に集中できる点です。試合前にアスリートがやらないといけない作業は肉体的なウォーミングアップだけではありません。試合の戦略や技術的な課題、対戦相手の特徴等をおさらいしたり、適切なタイミングで適切な量の水分・栄養を補給したり、道具を使う競技であれば道具の準備や整備をしたり、と多岐にわたります。ウォーミングアップをルーチン化しておけば何をやろうか考える必要がなくなり、そのぶんの時間と脳のエネルギーを他の作業に使う事ができます。そして4つ目のメリットは、極度の緊張を伴うような重要な試合前に特に当てはまる事です。世界選手権等の大きな大会において、極度の緊張から頭の中が真っ白になり、ウォーミングアップで何をやっていいのか全くわからない状態におちいってしまったアスリートを見た事があります。そのような場合にルーチンが決まっていれば、「あそこの部位のモビリティドリルをやり忘れた」というようにウォーミングアップがおろそかになる事もなく、またいつも通りのルーチンをこなしているうちに、多少の落ち着きを取り戻す事も期待できます。以上のような理由から、試合前のウォーミングアップについて一度紙にすべて書き出して、その内容や量、順番についてルーチン化してみる事をオススメします。そして、そのルーチンを毎回少しずつ改善する事で、自分にとってのベストなウォーミングアップを作り上げていってもらいたいと思います。

 

練習前で行うこと

一方、練習前のウォーミングアップの目的は「最高の状態で練習に臨む」という点は試合間のウォーミングアップと共通ですが、そこに多少トレーニング的な要素を加えても良いと思います。例えば、前十字靭帯損傷リスクの高い女子アスリートのウォーミングアップ中に、適切な方向転換動作を学習するためのアジリティドリルを実施するとか。あるいは、お尻の筋肉がうまく使えず腰に負担がかかっているアスリートに対して、練習前のウォーミングアップ中に臀筋群に対するアクチベーションドリルやヒップヒンジ動作パターンの練習ドリル等を取り入れるとか。

一般的に、競技練習前のウォーミングアップは高頻度で実施されるため、上に挙げた例のように何度も繰り返し実施する事が有効と考えられるエクササイズやドリルを取り入れるには最適な機会です。ただし、練習前のウォーミングアップの主目的はあくまでもその後の練習に備える事なので、トレーニング的なエクササイズやドリルをやりすぎて疲労してしまったり時間がかかりすぎてしまったりしては本末転倒です。本当に必要な優先準備の高いものを2~3個程度に絞って練習前のウォーミングアップに取り入れるのが良いでしょう。

 

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【編集後記】

ルーチン化に興味がある方は、下の本を読まれることをオススメします!

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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