#277 【アスリート向け】筋肉痛はトレーニング効果と比例しない

公開日: : 最終更新日:2017/01/19 S&Cコーチとしての思考, アスリート向け


 

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筋トレには筋肉痛がつきものです。筋トレをやったら必ず筋肉痛になると言っているわけではありません。筋トレを継続して実施していれば、毎回ではなくても定期的に筋肉痛を経験するものだ、という意味です。

たとえば、しばらくぶりに筋トレを実施すると、えげつない筋肉痛が翌日または翌々日に襲ってきます(遅れてくる筋肉痛は正式には「遅発性筋肉痛」と言います)。「筋肉痛がひどくてお尻が割れそうだ〜」「いや、お尻はもともと割れてるから!」という漫才のような会話は、日本中で日々やりとりされていることでしょう。

人によっては(特にM的気質のある人)、筋肉痛を感じることによって筋トレをやった満足感を得る人もいるでしょう。私も筋肉痛そのものは決して嫌いではありません(私のSM嗜好は別にして)。

趣味で運動としての筋トレをやっていて、痛みを感じることで幸せを感じるのであれば、それはそれでいいと思います。M度の高い人にとっては、よりキツい筋肉痛をもたらしてくれる筋トレがbetterということになるのかもしれません。

一方、筋肥大や筋力向上等の目的のためにトレーニングを手段としてやっているアスリートの場合、筋肉痛の有無または大小によって、そのトレーニングの良し悪し(=効果)を判断しても良いのでしょうか?

初めて特定のトレーニングやらエクササイズやらを経験して、その翌日または翌々日に今までにない筋肉痛が襲ってくると、「お、このトレーニングは良さそうだ」という判断をするアスリートは少なくありません。しかし、それは間違いです。筋肉痛の有無または大小によってトレーニング効果を判断するべきではありません

今回はその理由を説明します。

 

 

筋肉痛をトレーニング効果の指標として使うべきではない理由

①痛みがあると練習における動きの質に悪影響を及ぼす

仮に、筋肉痛によってトレーニング効果を正確に予測することができたとします。そうすると、より高いトレーニング効果を得るために、より筋肉痛になりやすいトレーニングやエクササイズを優先してやろうという考えに走る人も出てくるでしょう。

しかし、痛みがある状態では技術練習における動きのパターンに悪影響が出て、motor learning(動きの習得)という繊細なプロセスにマイナスに作用するリスクがあります。つまり、痛みの出る動きを無意識に避けようと脳が判断して、本来であれば最適・効率的なはずの動きとは異なる動きを選択してしまう可能性があるのです。

そのような最適ではない動きでの練習を繰り返すことで、技術の低下につながったり、技術向上の足を引っ張ることになりかねません。

あくまでも筋トレは補強であって、メインは技術練習です。技術練習の質を高めるために補強として筋トレを実施すると言っても過言ではありません。

それなのに、よりヒドイ筋肉痛を引き起こすトレーニングを追い求めてしまい、その結果として練習の質を落としてしまうというのは本末転倒です。

それなら、たとえ「筋肉痛が大きい=トレーニング効果も大きい」だったとしても(あくまでも仮定であり、実際そうであるわけではありません)、そのトレーニングをあえて選ばずに、トレーニング効果はベストではなくそこそこであっても、できるだけ筋肉痛にならないトレーニングを選択するほうが賢明です。

 

②痛みがあるとその後のトレーニングの質に悪影響を及ぼす

痛みがあると動きのパターンに悪影響があると述べましたが、それは技術練習だけでなくトレーニングにおいても起こりえます。つまり、筋肉痛がある状態では、その後のトレーニングにおける動きが最適なものではなくなる可能性があり、そうすると本来なら持ちあげることのできる重量を持ちあげられなくなってトレーニング効果が低下したり、最適でない動きで重量を持ちあげることによってケガや痛みのリスクが高まる可能性があるのです。

また、痛みがあることで大きな力を発揮するのを怖がってしまい(意識的にあるいは無意識的に)、トレーニングで本来なら持ちあげることのできる重量を持ちあげられない可能性もあります。特に、痛みに対する耐性が弱かったり痛みに対する恐怖心の強い人の場合は、そのようなマイナスの作用が強まる可能性があります。

トレーニングによる適応は1回のセッションによって引き起こされるものでなく、継続的にトレーニングをすることによる蓄積が重要になります。

したがって、たとえ「筋肉痛が大きい=トレーニング効果も大きい」だったとしても(あくまでも仮定であり、実際そうであるわけではありません)、痛みによってその後のトレーニングの質が低下してしまうのであれば、長期的に見るとそのトレーニングの効果が下がってしまうことになるのです。

 

③筋ダメージは筋肥大効果を少しは予測できるかもしれないけど、筋ダメージと筋肉痛は別物

筋肥大に貢献する要因(トレーニング刺激)として①mechanical tension、②muscle damage、③metabolic stressの3つが一般的に提唱されています。したがって、筋ダメージそのものはトレーニング効果とまったく関係がないわけではなさそうですし、筋ダメージの有無や大小によってトレーニング効果を予測するという考え方もまったく根拠がないわけではありません(もちろん、他の要因も関係してきますが)。

しかし、筋ダメージと筋肉痛は別物です。2つの間には比例関係がないことは研究によっても確認されています。

たとえば、トレーニング後の筋肉痛の発生・消失の時間変化と、筋ダメージのさまざまな指標(例:クレアチンキナーゼ、アイソメトリック筋力)の時間変化はかなり異なります。したがって、たとえ筋ダメージの有無や大小がトレーニング効果の指標として使えるものであったとしても、だからと言って筋肉痛もそうだというわけではないのです。

また、そもそも人間の身体にはトレーニングを繰り返すことによって筋ダメージや筋肉痛に対する耐性が増すというメカニズムがあるので(repeated bout effect)、トレーニングを継続すると筋ダメージや筋肉痛はなくなるけど、筋力向上や筋肥大といったトレーニング効果は継続して得ることができるのです。となると、そもそも筋ダメージが筋肥大や筋力向上に絶対に必要な要因であるかどうかも怪しいところです。

さらに分かりやすい例を挙げると、たとえば初めてマラソンを走ったら筋肉痛になると思いますが、じゃあマラソンのような有酸素運動が筋肥大や筋力向上に効果があるかというと、そんなことはありません。そう考えると、筋肉痛とトレーニング効果の関係性が非常に低いことが感覚的にもわかると思います。

 

④能力のないS&Cコーチやパーソナルトレーナーを見抜けなくなる

一般的に筋肉痛を起こしやすいトレーニングは2つあります。「エキセントリックトレーニング」と「身体が慣れていない新しいトレーニング」です。

もしあなたが新たに契約するS&Cコーチやパーソナルトレーナーを探していて、お試しセッションを体験したとします。そして、そのS&Cコーチやパーソナルトレーナーの能力の良し悪しを筋肉痛がでるかどうかで判断しようとすると、多くの場合「あ、この人のトレーニングいいかも」と感じることになると思います。なぜなら、そういう時に体験するのはたいていこれまでやったことのない新しいトレーニングだからです。身体が慣れていないので、筋肉痛になる可能性は大です。さらに、その体験したトレーニングにエキセントリックな要素が含まれていたら、筋肉痛になる可能性がさらに高まります。

でも、すでに説明した通り、筋肉痛はトレーニング効果と比例しません。それを知らずに、筋肉痛をトレーニング効果の指標として使ってしまうと、S&Cコーチやパーソナルトレーナーの能力を正確に見ぬくことができず、効果もないのにただただキツいトレーニングをやらせる指導者に引っかかってしまうリスクが高まります。気を付けましょう。

 

⑤アスリートがトレーニングを嫌いになるかもしれない

M的気質の強い人は筋肉痛を好むかもしれませんが、世の中には痛みが嫌いな人もいます。そういう人が筋肉痛を経験すると、そのトレーニングを敬遠する可能性があります。

トレーニングは継続して実施するのが何よりも重要なので、痛みを嫌がってトレーニングをやめてしまったり嫌いになって積極的に取り組まなくなると、トレーニング効果は期待できません。

したがって、そういう人はそもそも筋肉痛をトレーニング効果の指標として使おうとは思わないはずですし、そういうアスリートを指導する側は、逆に筋肉痛をできるだけ起こさないトレーニングを選択してあげることによって、長期的にトレーニング効果をあげることができるでしょう。

 

 

まとめ

最初に述べたように、趣味として筋トレをしているのであれば、筋肉痛を追い求めても良いでしょう。個人の自由です。

しかし、アスリートが手段として筋トレを使っているのであれば、筋肉痛の有無や大小をトレーニング効果の指標として用いるのは大変危険です。やめたほうがいいでしょう。

 

 

参考文献

  • Nosaka et al. (2003)  Muscle damage in resistance training: Is muscle damage necessary for strength gain and muscle hypertrophy? Int J Sports Health Sci 1(1):1-8.
  • Shoenfeld & Contreras (2013) Is Postexercise Muscle Soreness a Valid Indicator of Muscular Adaptations? Strength Cond J 35(5):16-21.

 

 

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【編集後記】

腰の調子が少し回復してきました。といっても、寝返りをしても痛くなくなった程度ですが・・・。来週末に実技セミナーに参加予定なので、それまでに少しは動けるようにならないと・・・。

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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