以前のブログで、スクワットにおける各筋群の動員についての論文を紹介しました。
» 参考:【論文レビュー】スクワットではハムストリングより大殿筋と大腿四頭筋(大腿直筋以外)を優先的に使ったほうが、高重量を持ち上げられる
この論文から言えることを簡潔にまとめると「スクワットにおいて、できるだけ重い重量を持ちあげるには、大臀筋の活動を最大限にしつつ、ハムストリングの活動は最小限に抑える必要がある」ということです。
この研究結果の解釈としてはコレで正しいし、パワーリフター等がルールの制限内でできるだけ重い重量を持ち上げようとするのであれば、非常に参考になるデータだと思います。
しかし、一般のアスリートが競技力向上や傷害予防等の目的でウエイトトレーニングの一環としてスクワットを取り入れるのであれば、少し注意が必要です。
目的と手段
「できるだけ重い重量を挙げるためのフォーム」が理想であるパワーリフターとは違って、一般のアスリートにとって理想のフォームは「健康的に効率よく筋力を鍛えられるフォーム」だと私は考えます。
一般のアスリートにとってウエイトトレーニングは「手段」であって目的ではありません。
一方で、パワーリフターにとっては、できるだけ重い重量を挙げることが「目的」です。
その違いをまず明確に理解しておく必要があります。
たとえば、フォームを少し変えることによって挙上重量がUPするとしても、そのフォーム変更によってケガや痛みのリスクが高まるのであれば「健康的に」という原則に反するので、そのフォーム変更は却下です。
また、同じエクササイズを実施する時にAというフォームのほうがBというフォームよりも重い重量を挙げられるとしても、後者のフォームのほうが筋力を鍛えるという効果が大きいのであれば、迷いなく後者を選びます。
より重い重量をアスリートに挙げさせたいという指導者のエゴなんてクソ食らえです。
そもそも、そんなの目的ではないんですから(パワーリフターとウエイトリフター以外)。
そんなエゴを持っていると、より重い重量を挙げるためだけに可動域を狭くしたり、不必要な反動を使ったりしかねません。
それだと危険だしトレーニング効果も下がってしまうので(参考記事)、あくまでも「健康的に効率よく筋力を鍛える」ことが可能かどうかを基準に物事を判断すればいいんです。
※べつに挙上重量向上の追求を否定しているわけではありません
手段としてのスクワットのフォーム
以上の考え方を前提として持ったうえで、あくまでも手段としてスクワットを実施するアスリートを指導するS&Cコーチとしての立場から、以前に紹介した論文の内容を再考してみます(ここから先を読み進める前に、以前のブログ記事をまずは読んでおいてください。そうじゃないとちゃんと理解できないと思います)。
①大臀筋の活動を最大限にしつつ、ハムストリングの活動は最小限に抑えるべき?
まず、スクワットにおける股関節伸展戦略として大臀筋をハムストリングより重視するという点は、個人的にはその通りだと思います。
スクワットはそもそもハムストリングに最大限のトレーニング負荷をかけるのに向いていないし、それはRDL等でやればいいことなので、スクワットでは大臀筋を優先したいところです。
一方で、ハムストリングの活動を最小限に抑えるべきという点については賛成できません。
スクワットで鍛えるターゲットとしてはあくまでも大臀筋が優先ではありますが、同時にハムストリングも鍛えられるのであれば、あえて活動を最小限に抑えずにハムストリングも動員したほうがいいです。
それに、ハムストリングをしっかり動員したほうが膝関節への負担(ACLとか)も減らせて、より健康的に筋力強化を図れるかもしれないので。
この考え方は「ハムストリングの活動を最小限にしたほうが重い重量を挙げられる」という研究結果とは異なりますが、そもそもより重い重量を挙げるのが目的ではないので、そこは問題ではありません。
②じゃあどういうフォームが良いの?
大臀筋を最大限に動員しつつハムストリングもしっかり動員するようなスクワットのフォームは、要するにお尻を後方に突き出すようなフォームになるはずです。
そうすることでバーベル(あるいはバーベル+リフターのシステム重心)と股関節のモーメントアームが長くなるので、股関節伸展筋群への負荷が増し、大臀筋を最大限に動員するようになるはずですし、それだけでは足りないのでハムストリングも動員されるでしょう。
また、そのようなフォームのさらなる利点は、膝関節とバーベルのモーメントアームが短くなり膝関節にかかる負担(shear loadなど)が減るので、さらに健康的にトレーニングができることです。
ここで、ある程度のバイオメカニクスとウエイトトレーニングの知識がある方は、膝関節とバーベルのモーメントアームが短くなると確かに膝への負担は減るかもしれないけど、膝関節伸展への負荷も小さくなるから、大腿四頭筋に対するトレーニング刺激も小さくなってしまうのではないか?と思われたかもしれません。
でも、安心して下さい。
このフォームではハムストリングも動員されるようになるので(股関節伸展トルクの必要性が増すから)、二関節筋であるハムストリングのもう1つの働きである膝関節屈曲のトルクも増し、それに対抗するために大腿四頭筋がより大きな膝関節伸展トルクを発生することが必要となり、結果として大腿四頭筋へのトレーニング刺激は減らないはずです。
つまり、このフォームは膝関節への負担を減らしつつも大腿四頭筋へのトレーニング刺激は減らさず、さらに同時に大臀筋へのトレーニング刺激は最大限にしつつ、ハムストリングもしっかりと動員して鍛えてくれるという、一石二鳥(いや四鳥くらい?)のスグレモノなのです。
もちろん、研究結果にもとづいて考えると、このようなフォームを採用することで、挙上できる重量は減るはずです。
でもトレーニング効果は減るどころか増えるはずだし、膝関節への負担も少ないし、必要以上に重いバーベルを扱わなくても良いので、より健康的にトレーニングをできるはずです。
だったら文句なしにそっちを選ぶべきではないでしょうか?
まとめ
以前のブログ記事で紹介した研究結果にもとづいて適切なスクワットフォームを考えると、それは「より重い重量を挙げる」という目的にとっては理想のフォームになるはずです。
パワーリフターにとってはそれでいいでしょう。
しかし、それ以外のアスリートが「健康的に効率よく筋力を鍛える」ための手段としてスクワットを実施する場合は、この研究結果をそのまま受け入れる必要はありません。
っていうか、そのまま受け入れるのは危険です。
前のブログ記事を書いてから、「もしかしたら間違った解釈をして、その情報を活用してしまう人もいるかもしれないな〜」とず~っと気になっていたので、今回のブログ記事を書いてみました。
今回のスクワットの件に限らず、目的に応じてどの手段が適切かは異なる、という点を肝に銘じて、S&Cコーチとしてのさまざまな判断・決断をして頂ければと思います。
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
【編集後記】
昨夜は夜更かしをしてラグビーW杯の日本vs.南アフリカ戦をテレビ観戦しました。
申し訳ないですが、まさか勝つと思っていなかったので、最初はネットサーフィンをやりながら見ていたのですが、絶え間なく低いタックルを突き刺し続ける日本チームの気迫に次第に引き込まれ、後半はかなりのめり込んで観戦していました。
最後の勝利のトライのシーンでは夜中にもかかわらず思わず叫んでしまいました。
久しぶりに感動しました!
やっぱ団体競技の国際試合は興奮しますね。
自分もリオ五輪で感動できるように、明日から気合を入れ直して目の前のアスリートの指導にあたりたいと思います。