9/2(日) 爆発的パワー向上の科学的基礎セミナー

#557 競技者としてバーベル競技をやっていた経験は、S&Cコーチとして弱みにもなりうる諸刃の剣

 

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競技者としてバーベル競技の経験がないけど、それでもいい

私は、自分自身が競技者として、ボディビルディング・ウエイトリフティング・パワーリフティング等のバーベル競技をやっていた経験がありません。

S&Cコーチになるべく勉強を始めた当初は、そうした経験がないのはマイナスなんじゃないか、と考えていました。

  • ボディビルディングの経験があれば、筋肥大させることが得意なはず
  • ウエイトリフティングの経験があれば、クリーンやスナッチ等のエクササイズを指導することが得意なはず
  • パワーリフティングの経験があれば、スクワット・ベンチプレス・デッドリフトを指導することが得意なはず

だから、それらの競技の経験を持っている周りのS&Cコーチに対して、引け目を感じているところがありました。

自分には得意とするところ(=武器)がないんじゃないか、という感じで。

 

しかし、さまざまな経験をした今となっては、そうしたバーベル競技をやっていなかったことが、むしろS&Cコーチとしての自分の強みに繋がっているのではないか、と考えるようになりました。

その「強み」とは、バイアスのない状態で、アスリートの体力を向上させるのに必要なエクササイズのやり方(=フォーム)を徹底して追求して指導することができるという点です。

 

 

バーベル競技のスクワット vs. S&Cのスクワット

たとえば、「スクワット」というエクササイズがあります。

これは、ボディビルダーもウエイトリフターもパワーリフターも実施しているエクササイズです。

しかし、スクワットのフォームは目的によって大きく異なります。

  • ボディビルダーは特定の筋肉の筋肥大という目的のために最適なフォームでスクワットをします。
  • ウエイトリフターはスナッチとクリーン&ジャークでより高重量を持ち上げるという目的に繋がるようなフォームでスクワットをします。
  • パワーリフターはスクワットが競技種目の1つなので、ルールの範囲内で、できるだけ重い重量を挙げられるようなフォームでスクワットをします。

したがって、一言で「スクワット」と言っても、そのフォーム(=手段)は目的によって大きく異なるのです。

つまり、ボディビルダーがウエイトリフターのスクワットを見て「あのフォームはダメだ」と言ったり、パワーリフターがウエイトリフターのスクワットを見て「フォームを変えれば、もっと高重量を挙げられるはずなのに」と言ったりするのはナンセンスなのです。そもそも、それぞれの目的は異なるのですから。

実際には、バーベル競技のアスリートが、他のバーベル競技のアスリートのフォームに口出しをしているところを見ることはほとんどありません。

お互いに、目的が違うからやり方(=手段)も異なるという点を理解しているからでしょう。

 

S&Cコーチとして、バーベル競技以外のアスリートにトレーニング指導をする時にも、スクワットを使います。

一般的に、アスリートにスクワットをやってもらう目的は、見た目をよくするためだけの筋肥大ではなく、ウエイトリフティング競技に繋げるためでもなく、できるだけ重い重量を持ち上げるためでもありません。

じゃあ何が目的かというと、より良いアスリートになるために必要な体力を向上させるためです。具体的には「ケツ(臀筋)の筋力の強化」です。

ケツの筋力が強くなれば、腰や膝への負担が減り、ケガをしづらい身体を作り上げることができます。

また、競技中の走る・跳ぶ・止まる・方向転換する等の動きにおいて、ケツの筋力を使えるようになると、パフォーマンス向上やケガのリスク低下にも繋がります。

私は、そのような目的のために最も適したフォーム(=手段)でアスリートにスクワットをやってもらっています。

具体的には、GS Performance式のスクワットです。

 

このスクワットのフォームは、一見、面倒くさい窮屈なフォームに見えます。しゃがんで立ち上がるという動作だけを考えると非効率的にも感じられるかもしれません。

でも、それでいいんです。

自然にORラクにしゃがんで立ち上がるのが目的ではないし、より高重量を持ち上げることが目的でもないからです。

ケツを鍛えたい。それを追求すると、このようなスクワットのフォームになるということです。

 

私はS&Cコーチなので、アスリートの体力向上という目的に合致したフォーム(=手段)を徹底的に追求して、そのやり方で指導するだけの覚悟ができています。

しかし、アスリートにやらせるS&Cトレーニングとしてのスクワットに関する議論をインターネット等で見ていると、元あるいは現役のバーベル競技の競技者の方が、自分たちのやり方が正しいというバイアスを完全に捨てきれないまま、S&Cにおけるスクワットに口出しをしているのを見かけることがあります。

「S&Cにおけるスクワットは目的が違うから別物であり、フォームは異なっていてもいい」と至極まっとうなことをおっしゃっている人でも、どうやらバイアスを捨てきるのは難しいようで、的はずれな議論をされていることが多いです。

 

 

バーベル競技をやっていたことから生まれるバイアス

S&Cコーチが競技者としてバーベル競技をやっていた経験があると、なかなか自分の競技におけるやり方(=フォーム)がベストなんだ!というバイアスを捨てることができず、S&Cのためのフォームを徹底することが難しいのではないかと感じています。

「バーベル競技とS&Cは別物である」ということは頭ではわかっていても、バイアスを完全に捨てきるのは相当難しいようです。

それなら、そもそも不必要なバイアスを持っていない状態で、S&Cとしての手段を徹底的に追求することができる私のようなバーベル競技未経験者のほうが、S&Cコーチとして成功しやすいのではないかと今では考えています。

もちろん、バーベル競技の経験者は優秀なS&Cコーチになれないと言っているわけではありません。

ただ、バーベル競技を経験したことにより身体に染み付いているバイアスを完全に捨て去り、S&Cを追求することは、かなりハードルが高い作業であると言っているのです。

そのようなバイアスを持ってしまっているという点で、バーベル競技の経験者は、優秀なS&Cコーチを目指す上でハンデをおっていると言っても過言ではないでしょう。

 

 

まとめ

私のように、バーベル競技を競技者としてやった経験のないS&CコーチまたはS&Cコーチ志望者の方は、それで引け目を感じる必要はまったくありません。むしろ、変なバイアスや主観が入らずに、S&Cという目的を達成するための手段を徹底して追求することができるという点で、有利な立場にいると考えていいでしょう。

バーベル競技経験者でS&Cコーチとして活動している、または志望されている方は、無意識のうちにバイアスを持ってしまっているぶん、S&Cコーチとしては不利な立場にあるという点を自覚してください。それを乗り越えるのは高いハードルですが、覚悟を決めて、常に「目的と手段」という点を意識しながら判断を下すように努力し続ければ、乗り越えられるはずです。

 

 

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【編集後記】 

テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」で紹介されていた「インベスターZ」という漫画にハマっています。投資などのお金の話が中心のストーリーで、とても勉強になります。