#674 【論文レビュー】筋トレによるダメージや筋肉痛が残っている状態で練習すると技術習得が阻害される!?

 

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こんにちは、河森です。

アスリートの競技力向上のためのトレーニング指導をしているS&Cコーチです。

 

本ブログで、筋トレ(=ウエイトトレーニング)に伴う筋肉痛やダメージの影響について、いくつか記事を書いてきました。

基本的な考え方としては:

  • ①ウエイトトレーニングをすると筋肉痛やダメージが起こることはある(完全に避けるのは無理なので、ある程度はしょうがない)
  • ②でも、できるだけ抑えるようにする工夫は必要

というものです。

 

なぜ、ウエイトトレーニングによる筋肉のダメージや筋肉痛をできるだけ抑えたいかというと、筋肉にダメージ、とくに筋肉痛が残っている状態では、競技における動きに悪影響を及ぼしかねないからです。

これはみなさんも経験されていて、感覚的にわかっていただけるのではないでしょうか?

たとえば、筋肉痛がある状態で試合に臨んだら、よいパフォーマンスを発揮できないかもしれません。

また、筋肉痛がある状態で練習をしても、新しい技術を身に付けたり、すでに持っている技術をさらに磨いたりすることができないかもしれません。

 

だから、アスリートがウエイトトレーニングを実施する場合は、できるだけ筋肉痛を残さないような工夫をすることが必要になるのです。

筋肉痛を抑えるためにできる具体的な工夫については、過去記事をご覧ください。

» 参考:シーズン中にできるだけ筋肉痛を抑えながらウエイトトレーニングを継続するための5つの工夫

 

 

筋肉痛は技術習得に悪影響を及ぼすのか?

すでに説明したように、ウエイトトレーニングによる筋肉のダメージ、とくに筋肉痛は、技術習得に悪影響を及ぼすだろうとの考えから、私がウエイトトレーニングのプログラムを作る時には、筋肉痛をできるだけ抑えるような工夫を施しています。

もちろん、それでも完全にゼロに抑えることは難しいですが、なにも工夫をしない場合と比べると、筋肉痛の程度はだいぶ抑えることができているはずです。

 

しかし、この「筋肉痛が技術習得に悪影響を及ぼす」というのは、あくまでも私の感覚にもとづいた「仮説」でしかなく、それを裏付けるような科学的根拠は、私の知る限りこれまでありませんでした。

「いや、そんなの当たり前じゃないの」みたいなところがあるので、科学者が真剣に調べようと思わなかったのかもしれません。

ところが、つい最近、筋肉のダメージが技術習得に及ぼす影響を調べた論文が発表されたので、レビューをしてみます。

 

 

論文の内容

 

Leite et al. (2019) Does exercise-induced muscle damage impair subsequent motor skill learning? Hum Mov Sci. 67(102504):1-10.

 

研究プロトコル

少なくとも過去6ヶ月間トレーニングをやっていない健康な男女を2つのグループ(トレーニング群とコントロール群)に分けて、ダーツを床の的に向かって下手投げのような形で放り投げる動きを練習してもらった。

ダーツを床の的に向かって下手投げのような形で放り投げる動きは、すべての被験者にとって始めて実施するものだった。

両グループとも、4日連続でダーツを投げる練習を実施したが(1日あたり150投)、トレーニング群のみ、筋肉へのダメージや筋肉痛を引き起こすため、初回練習の前日に、回外した(手に平を上に向けた)状態でのダンベルフロントレイズを10セット×10レップ実施した。

コントロール群も初回練習の前日に研究室を訪れたが、トレーニングはやらずに20分間座っていただけだった。

 

技術習得の度合いを調べるテストを、トレーニング実施前(pretest)、4日目の練習直後(immediate posttest)、4日目の最終練習から3日後(delayed posttest)の3回実施した。

テストにおいてはダーツを床の的に向かって10回投げてもらい、正確性(どれだけ的の中心近くにダーツを投げられるか)とバラツキ(10回投げたスコアの標準偏差)を評価した。

 

 

結果

トレーニング群は、その後の練習期間中において筋肉痛や筋ダメージ(アイソメトリック最大筋力の低下)等が見られたが、コントロール群には見られなかった。

つまり、トレーニング群は筋肉のダメージや筋肉痛がある状態で練習を実施し、コントロール群はそれらが無い状態で練習を実施したことになる。

 

技術習得の度合いに関して、正確性においてコントロール群では向上が見られたが、トレーニング群では変化が見られなかった。

バラツキにおいては、コントロール群は向上が見られたが、トレーニング群では低下が見られた。

どちらの指標に関しても、グループ間の差はとくにdelayed posttestで顕著であり、immediate posttestでは有意な差は見られなかった。

 

 

考察

ウエイトトレーニングをやって筋肉のダメージや筋肉痛が残っている状態で練習をすると、技術の習得が阻害される(筋肉のダメージや筋肉痛がない状態と比べて)ということが科学的にも確かめられたという報告です。

なんとなく感覚的に「そんなの当たり前でしょ」と思っていたことに、科学的な裏付けが加わったと捉えることができるデータです。

当たり前と思われることに疑問を抱き、本当に正しいのかを1つ1つ確かめるのが研究の役割でもあります。

今回の研究は、鼻血がでるほど興奮するような世紀の大発見というわけではありませんが、その点でしっかりと研究の役割を果たしていると思います。

 

ただし、この研究だけだと、筋肉のダメージや筋肉痛じたいが技術の習得を阻害する原因とまでは断定できません。

あくまでも、筋肉のダメージや筋肉痛を引き起こすような量の多いウエイトトレーニングをやった後に練習をすると、技術の習得が阻害されてしまうというだけのことです。

ウエイトトレーニングをすることで引き起こされる、筋肉のダメージや筋肉痛以外の「何か」が、練習効果を阻害している可能性は否定できません。

・・・というのは、研究者として厳密にこの論文を解釈するときのお話です。

現場で働くS&Cコーチの立場としては「まあ、筋肉のダメージとか筋肉痛が原因だろうな〜。だから、そういうのは抑えるように工夫したほうがいいだろうな〜、やっぱり。」と解釈して問題ないと思います。

 

また、興味深いのは、delayed posttestにおいてはグループ間で差が見られたけど、immediate posttestにおいては差がなかったという点です。

immediate posttestでは、練習4日目に150投の練習をした直後にテストをやっていますが、delayed posttestでは練習終了後に3日間の間が空いて、その後いきなりテストを実施しています。

このデータの解釈は難しいのですが、一つの見方としては、筋肉のダメージや筋肉痛が残っている状態では、練習した後しばらく間があくと身体の動かし方を忘れてしまいがちである、つまり、新しく覚えた技術が定着しづらいと捉えることもできるでしょう。

 

 

Limitations

この研究では、4日間の練習の効果しか追いかけていません。

何週間・何ヶ月間・何年間といった、より長いスパンで練習を継続した場合に同じような傾向が見られるかどうかは不明です。

 

また、この研究の最も大きなlimitationは「外的妥当性」です。

たとえば、トレーニング群の被験者は過去6ヶ月間ウエイトトレーニングをやっていない状態で、10セットx10レップというキツいトレーニングをやったので、かなり深刻な筋肉痛やダメージがあったと思われます。

しかし、日常的にウエイトトレーニングをやっているアスリートの場合は、そこまでひどい筋肉痛やダメージが起こる状況はあまりないので、本研究の結果がそのままアスリートに当てはまるかは疑問です。

さらに、本研究ではまったく新しい動きを練習して習得するというシチュエーションでしたが、アスリートの練習の多くは、まったく新しい動きを習得するというよりも、すでに習得している技術をさらに磨いていくタイプのものが多いと考えられ、そのようなシチュエーションに本研究の結果がそのまま当てはまるかどうはは不明です。

 

 

まとめ

ウエイトトレーニングをして筋肉のダメージや筋肉痛が残っていると、練習に悪影響を与えて、技術習得が阻害されてしまうリスクがある。

これは、まともなS&Cコーチなら自然と考えているはずのことです。

しかしながら、本当にそうなのかはこれまで科学的に検証されていませんでした。

ま、科学的根拠がなかったとしても、普通に考えればそうしたリスクを避けるようなウエイトトレーニングプログラムを作るはずなんですけど。

しかし、今回紹介した論文のような科学的な裏付けがあると、より自信を持ってトレーニング指導を行うことができます。

まだ1つの研究だけなので、このテーマでどんどん研究が進むことを期待したいです。

 

 

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【編集後記】

論文をiPad Proで読むようになってしばらくたちましたが、もうまったく違和感なく普通に読めるようになりました。