#186 【論文レビュー】そり牽引トレーニング(weighted sled towing)中の地面反力

 

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少し間があきましたが、今日は私が大学院博士課程でやった研究のうち、2つ目の実験について紹介します。

 

論文の内容

Kawamori et al. (2014) Effects of weighted sled towing on ground reaction force during the acceleration phase of sprint running. J Sports Sci 32(12):1139-45

 

研究プロトコル

以下の3つの条件下での5-mスプリント走における地面反力の発揮パターンを比較した:

  • ①ノーマル走(負荷なし)
  • ②体重の10%のそり牽引走
  • ③体重の30%のそり牽引走

フォースプレートを用いて、スタート後2歩目の地面反力を計測し、分析した。

 

結果

体重の30%のそりを牽引した場合、ノーマル走と比べて力積の水平成分(net horizontal impulse)と力積の正の水平成分(propulsive impulse)が有意に大きかった。これは、単純に水平方向により大きな力を発揮したからというわけではなく(力発揮のピーク値、平均値は有意な差が見られなかったので)、地面に対して力を発揮する時間(接地時間、contact time)が長くなったのと、地面に対して力を発揮する方向がより水平に近づいた(mean ratio of forces applied onto the ground)のが原因と考えられる。

一方、体重の10%のそりを牽引した場合、ノーマル走とはほとんど違いはなかった。

また、体重の10、30%のそりを牽引した時にどの程度スピードが遅くなるかは個人差が大きかった。

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考察① 

一般的に、そりを牽引しながらスプリントをすると、水平方向の力発揮が増大すると考えらえられています。つまり、そり牽引走はスプリント中の水平方向の力発揮という部分に対して特異的な過負荷をかけることになり、このトレーニングを長期的に続けると負荷なし走において水平方向に力を発揮する能力が向上するだろうという仮説です。今回の研究はその仮説の前半部分を検証したものです。つまり、「負荷なしのスプリントと比べて、そり牽引走では水平方向の力発揮が増えるのか?」というのがresearch questionだったわけです。

結果として、水平方向の”力積”という点では、仮説の通り、体重の30%の重さのそりを牽引した場合は、負荷なしのスプリントと比べて大きな力積を発揮していることがわかりました。しかし、力発揮のピーク値や平均値を見てみると、統計学的に有意な差は認められませんでした。

じゃあ、なんでそりを牽引したら力積が増えたのかというと、恐らく接地時間が増えたのがメインの理由だと考えられます。力のピーク値や平均値が増えなくても、接地時間が伸びれば単純に力積は大きくなるからです。

しかしこれだと、そり牽引走を用いてある一定期間(数ヶ月)トレーニングしても、負荷なしでスプリントした時に水平方向の力積発揮が増えてその結果としてパフォーマンスが向上するかどうかは疑問です。負荷なしのスプリントにおいては接地時間が(そり牽引走と比べて)短いため、その短い時間内でより大きな力積を発揮するためには力のピーク値や平均値を増やす必要がありますが、今回の研究結果から考えると、そり牽引走を用いてトレーニングしてもそのような能力(力のピーク値や平均値)を向上させるようなトレーニング刺激を与えるとは考え難いからです。 

 

考察②

その一方で、そり牽引走においては、力を地面に対して発揮する方向がより水平に近づくことがわかりました(mean ratio of forces applied onto the groundデータに基づき)。つまり、そりを牽引してスプリントをする時は、力のベクトルをより寝かせた形になっているのです。

そのようなトレーニングをある一定期間続けたら、負荷なしのスプリントにおいても力のベクトルを寝かせるように変わるかもしれません。そして、私が博士課程でやった1つ目の研究では、力積を発揮する方向をより水平に傾けることがスプリント加速にとっては重要であると示唆されているので(この記事)、そのような変化がそり牽引走によって引き起こされるのであれば、そり牽引走トレーニングがスプリント加速能力を向上させる可能性があると論理的に推測できます。

しかし、今回の実験結果から、それを証明することはできません。こちらの記事でも説明した通り、「地面反力の力積をより水平方向に傾ける能力を鍛えれば、スプリント加速能力も向上する」というのは相関関係に基づいた仮説に過ぎず、因果関係についてはわからないというのが1点。また、そり牽引走時に力のベクトルがより水平に傾いているからといって、そり牽引走で一定期間トレーニングをしたら負荷なしのスプリントにおいても力のベクトルがより水平に傾くようになるかどうかについても仮説にすぎず、実際にそのような適応が起こるかどうかはわからないということもあります。

結局、今回の実験もある意味「仮説を生み出す研究」であったと考えられますが、当たりをつけるということで考えると、だいぶ焦点が狭まってきた感じがあります。 

 

考察③

ここで1つ注目したいのは、体重の10%という比較的軽めの重量を用いてそり牽引走を実施した場合、負荷なしのノーマル走と比較して地面反力の発揮パターンには大きな違いが見られなかったという点です。

一般的に、そり牽引走を使うコーチ達のコミュニティの間では「10%ルール」なるものが存在します。これは、そり牽引走においては体重の10%、あるいは走速度が10%遅くなる程度の比較的軽めの重量を用いるべきであるという考え方です。それ以上に重いそりを用いてトレーニングをすると、スプリントの動きが崩れてしまい、スプリント技術に悪影響を及ぼす可能性があるからというのが理由です。しかし、これはコーチ達の経験をもとに言われている主観的な意見にすぎず、科学的に検証されて証明された客観的事実ではありません。

確かに、そり牽引走のキネマティクス研究は過去にいくつか実施されていて、10%ルールに則って軽い重量を使用した場合、キネマティクス的な違いはほとんどない(スプリント技術はそれほど崩れない)という実験結果が報告されています。今回の実験でも、軽い重量を用いたそり牽引走と負荷なし走を比べたら、キネティクス的にも差がほとんどないことがあきらかになりました。したがって、10%ルールに則っていれば、コーチ達が恐れている「スプリントの動きが崩れる」ということは避けられそうです。

しかし、何らかのトレーニング効果を期待して「そりを引っ張る」という外的な負荷をかけたのに、その結果としてキネマティクス的にもキネティクス的にもほとんど変化が起きないのであれば、そもそもそのようなトレーニングが過負荷を与えるとは考えづらく、過負荷を与えないトレーニングをやってもトレーニング適応が起こる可能性は極めて小さいと言えます(=漸進性過負荷の原則を適用できない)。負荷なしの普通のスプリントとそり牽引走トレーニングの動きが大きく違わないのであれば、そもそもそりを引っ張って走る必要性は低く、だったら普通にスプリント練習をやってればいいじゃないかという話になります。

 

考察④

さらにもう1つ。この研究のメインのテーマではありませんでしたが、体重の◯◯%という形でそり牽引走における重量を設定する方法の妥当性についても調べました。

今回は、体重の10%と30%でそり牽引走を実施しましたが、負荷なしのノーマル走と比べた走速度の低下率に関して、個人差が大きいことがわかりました。つまり、体重の10%または30%の重さのそりを引っ張って走ると走速度が極端に落ちてしまう人がいる一方で、それほど大きく速度が落ちない人もいたということです。

この個人差にはどのような要因が影響しているのかは、さっぱりわかりません。個人間の筋力差かもしれないし、スプリントスタイルの差(例:ピッチ型 vs. ストライド型)かもしれません。それはわかりませんし、それを調べるのはこの研究のテーマではないので、これ以上深くつっこみません。

とにかく言えることは、そり牽引走トレーニングにおける負荷を設定する時に、体重の◯◯%という形で決めるのは適切ではないということです。ある人にとっては軽すぎるかもしれないし、他の人にとっては重すぎるかもしれないからです。

 

 

まとめ

以上が2つ目の実験結果のまとめです。残念ながら、この段階でもまだ、因果関係については確実なことは何も言えません。やはり、因果関係を直接的に調べるためにはトレーニング実験(介在研究)が必要です。ということで、私の博士研究の3つ目の研究では、トレーニング実験を実施しました。そちらについてはまた次回、詳しく紹介したいと思います。

 

 

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【編集後記】

先日、腰痛のため人生初のMRIを体験してきました。感想としては、「めちゃくちゃガコンガコン音するな〜」「眠い、眠すぎる・・・」「こんなに時間かかるのか〜」「以外にお金かかるのね・・・」といったところです。ま、MRIを測定するアスリートの気持ちがわかるようになったという意味では、良い経験になりました。