#779 【論文レビュー】筋肥大トレーニングの前に筋力を高めるトレーニングをやっておいたほうが、筋肥大効果が高まる!?

 

Pexels andrea piacquadio 3775566

 

久しぶりに論文レビューをします。

SNS上で話題になっていた論文ですが、深く読み込んでみると、そこまで興奮できるような結論は導けないかな〜という感触があります。

 

 

論文の内容

Carvalho et al. (in press)  Is stronger better? Influence of a strength phase followed by a hypertrophy phase on muscular adaptations in resistance-trained men. Res Sports Med.

 

研究プロトコル

バックスクワットで体重の1.5倍以上を挙げられるトレーニング経験者26名が被験者として研究に参加した。

被験者は以下の2つのグループに分けられ、それぞれ異なるプロトコルでトレーニングを実施した。

  • HT:筋肥大を狙ったプログラム(4セット×8-12RM、1分レスト)を8週間
  • STHT:最大筋力向上を狙ったプログラム(4セット×1-3RM、3分レスト)を3週間実施した後、HTと同じ内容を5週間

どちらのグループも、エクササイズとしてはスクワットとレッグプレスを実施し、トレーニング頻度は週2回だった。

そして、トータル8週間のトレーニング期間の前後に、筋厚(外側広筋)と1RM(バックスクワット、レッグプレス)が測定された。

 

結果

主だった内容だけ抜粋します。

  • 外側広筋の筋厚の増加量は、STHTのほうがHTよりも有意に大きかった
  • バックスクワットとレッグプレスの1RMの増加量は、どちらもSTHTのほうがHTよりも有意に大きかった
  • 4週目から8週目までの間におけるトレーニングでの挙上重量は、STHTのほうがHTよりも大きい傾向があった(統計学的に有意ではない)
  • 8週間全体のvolume load(=挙上重量×セット数×レップ数)は、STHTのほうがHTより少なかった

トレーニング前後の変化を%表示したものが以下の図になります。

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考察

最大筋力向上効果(1RM)については、STHTのほうがHTより大きかったというのは、「まあ、そうなるでしょうね」という結果です。

STHTは最初の3週間に最大筋力向上を狙ったプログラムをやっていたわけなので。

したがって、この点についてはそれ以上深堀りしません。

 

で、この研究結果の肝は、筋肥大の指標としてこの研究で計測された外側広筋の筋厚についても、STHTのほうがHTよりも増加量が大きかった、という点です。

これは観察された事実です。

しかし、この事実をどう解釈するかは、立場や見方によって変わるかもしれません。

 

論文の著者は、「STHTは最初の3週間の最大筋力期において筋力が向上したおかげで、その後の5週間の筋肥大期でより重い重量を挙げることができたので、筋肥大効果がアップした」という論調で考察をしています。

つまり、最初に筋力アップを図ってから筋肥大を目指したトレーニングに移行したほうが、ずーっと筋肥大を目指したトレーニングを継続するよりも筋肥大効果は高い、という解釈です。

だから、「筋肥大を目指すのであれば、最初に最大筋力向上を図るトレーニングを数週間やっておいてから、筋肥大トレーニングに移行したほうがいいぜ!」的な結論を書いています。

 

私としては、論文の著者が主張していることが正しい可能性はあるけど、この研究デザインだけだとそこまで言い切れないよな〜、という感覚があります。

 

まず、volume loadというトレーニング量の1つの指標については、STHT < HTということで、「より少ないvolume loadでより大きなトレーニング効果を得られるなんてSTHTのほうが効率いいよね」という解釈もできるかもしれませんが、逆に、HTのvolume loadが多すぎて疲労等のマイナスの影響があって、トレーニング効果はSTHTのほうが高くなった、という可能性もあります。

つまり、STHTの優位性の理由として、「volume loadがHTより少なかったから」ということがありえるのです。

だから、たとえばHTのセット数を1セット減らして実施したら、STHTと同じかそれ以上のトレーニング効果があったかもしれないのです(逆にもっと効果が下がる恐れもあります)。

そこは、volume loadを揃えて比べないとなんとも言えない部分なので、今回取り上げた研究1つだけでズバッと結論づけるのは難しいでしょう。

 

また、STHTの優位性の理由として、「最初に最大筋力を高めてその後の筋肥大期でより重い重量を挙げられたから」ではなく、単純にSTHTには「バリエーション」がプログラムに組み込まれていて、HTには「バリエーション」がなかったから、ということがあるかもしれません。

トレーニング初心者であれば、バリエーションの必要性は低いのですが、トレーニング経験者の場合は、プラトーを防ぐために定期的にバリエーションを取り入れることが必要です。

HTは同じプログラムを8週間続けたわけなので、単純に身体がその刺激に慣れてしまって、トレーニング効果が頭打ちになっただけかもしれません。

たとえば、STHTとは逆に、最初に筋肥大を狙ったプログラムをやって、その後に最大筋力向上を狙うプログラムに切り替えるような「HTST」とでも呼べるようなやり方と比べても、STHTのほうがトレーニング効果が高いのであれば、「筋肥大トレーニングの前に最大筋力向上トレーニングをやっておく」ことこそが重要なんだ、と言えるのかもしれませんが。

そのようなやり方であれば、volume loadにも大きな差は出ない可能性が高いですし。

 

 

まとめ

今回取り上げた研究の結果をもってして、「最大筋力トレーニングを最初にやってから、筋肥大トレーニングに移行したほうが、筋肥大効果が高い」と言い切ってしまうのは危険です。

それだと、論文の読み方が浅すぎます。

その可能性がないことはないのですが、この研究デザインをもってそれは言い切れない、というのが私の結論です。

論文の著者の主張でさえも鵜呑みにせず、自分で論文を読んで研究デザイン等を検証し、自分なりの解釈を導く能力を鍛えておくことが、やはり大切です。

 

とはいえ、だからといってこの研究がまったく無意味なのかといえば決してそんなことはなくて、そのような可能性を示唆したという点で、重要な論文だと思います。

この論文を読んだ他の研究者がインスパイアされて、「じゃあ、volume loadを揃えて比べてみよう」とか「STHTとHTSTを比べて、順番の重要性を調べてみよう」みたいな感じで、ドンドン研究が進んでいくと、現場でも自信をもって使えるようなエビデンスとして確立されていくはずです。

そのような研究が活発になることを、現場で働くS&Cコーチとしては期待したいところです。

» 動画 論文の読み方

 

 

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【編集後記】

スポルテックが開催されているようですね。個人的には、新型コロナウイルス感染が広がっている現状では、あの密集した会場にいく勇気がありません・・・。