競技特異性については本ブログで色々書いてきました。
今日もそれに関連した議論をしたいと思います。
ランジ動作
ランジ動作、つまり立位姿勢から身体重心を前方に移動して片脚で着地し、その脚で地面を蹴って身体重心を後方に移動して開始姿勢に戻るという動きがあります。
このランジ動作は、テニスやバドミントンのようなラケット競技やフェンシングなど、いろいろなスポーツで重要な動きであり、そのパフォーマンスを向上させる事は非常に重要だと言えます。
その一方で、レジスタンストレーニングのエクササイズの1つに「フォワードランジ」というものがあります。
ダンベルを両手に持ったりバーベルを担いだりした状態でランジ動作を実施するエクササイズです。
適切なフォームで実施すれば、片脚での筋力や股関節周りのスタビリティ、体幹のスタビリティ等をトレーニングする事ができる非常に有用なエクササイズです(あくまでも適切なフォームで実施すればですが・・・)。
ランジ動作を鍛えるための3つの戦略
さて、それでは競技におけるランジ動作を向上させるためにはどういうトレーニングをしたら良いでしょう?
ここでは、3つのシナリオを考えてみます。
シナリオ①
フォワードランジを中心にトレーニングする。
競技動作に特異的な(似ている?)動きを用いているので、トレーニング効果がパフォーマンス向上に直結するに違いない。
シナリオ②
フォワードランジは一見、競技のランジ動作に似ている。
でも、よーく見ると競技において理想とされるランジ動作とエクササイズとしてのフォワードランジの適切なフォームは異なる。
例えば、後者では前脚の膝の角度がほぼ90°で下腿が床に対して垂直になるのが良いとされるが、前者においては膝の角度がもっと大きく開いていて下腿が床に対して斜めに着地する(ネガティブシンアングルとでも言いましょうか、減速するためには重要な事です)。
また、フォワードランジでは後脚の膝が床に着くぐらいまで重心を下げるのが良いとされるが、競技中のランジ動作では必要以上に重心を下げる必要はない(むしろ前後の切り返しのほうが重要)。
さらに言うと、フォワードランジにおいては、ダンベルやバーベルという外的負荷を加えるので、力発揮のパターン(方向やタイミング等)が競技のランジ動作とは違ってくる。
そう考えると、競技におけるランジ動作とエクササイズとしてのフォワードランジは似ているけど違う動作であると判断する事ができる。
ここで逆に考えると、両者は違う動作ではあるが微妙に似ているがゆえに、フォワードランジをガシガシやると競技におけるランジ動作に悪影響を与える可能性があるかもしれないと考える(motor controlやmotor learningという観点で)。
そこで、あえてフォワードランジはやらずに他の片脚エクササイズ(例:ステップアップ、リバースランジ、ブルガリアンスプリットスクワット)を採用してトレーニングをする。
それらのエクササイズはランジ動作に特異的なエクササイズではないかもしれないが、ランジ動作のパフォーマンスにおいて重要であると考えられる片脚での筋力・股関節周りのスタビリティ・体幹のスタビリティ等の体力要素を鍛える事はできるので、結果としてランジ動作のパフォーマンスアップに貢献するはずだ。
また、motor controlやmotor learningという観点から考えると、それらのエクササイズは実際のランジ動作とは異なる動きなので、脳が混乱して競技動作としてのランジ動作に悪影響を及ぼす可能性は少ないはず。
シナリオ③
(シナリオその②を受けて)フォワードランジが競技のランジ動作と違うというのであれば、フォワードランジを競技の動作に近づければ良い。
前脚の膝角度を90°にキープするのではなくて競技のランジ動作と同じくらいに開いて着地するようにして、重心もあえて下げずに前後方向の素早い切り返しを意識させるようにすればよい。
どれを選ぶ?
他にも選択肢はあるでしょうが、上記の3つのシナリオが一般的かな〜と思います。
私が個人的に選ぶのはシナリオ②です。
実際にフォワードランジをガシガシやる事で競技のランジ動作に悪影響があるかどうかはわかりません。
確かめようがありません。
あくまでも可能性が存在するという事です。
でも、ネガティブな可能性が存在していて、それを完全に否定できないのは事実です。
一方で、フォワードランジとランジ動作はまったく同じ動作ではないので、あえて競技特異的な(?)フォワードランジを実施する事でトレーニングの転移効果が他のエクササイズよりも高くなるというポジティブな面があるとも思えません。
もちろん、フォワードランジというエクササイズ自体は有用なエクササイズですし、適切に実施すれば片脚での筋力・股関節周りのスタビリティ・体幹のスタビリティ等の体力要素を鍛える事はできると思います。
ただ、それはステップアップ等の他のエクササイズで達成することも可能です。
フォワードランジを選択する事によるポジティブな面とネガティブな面を秤にかけて判断すると、シナリオ②のような結論に私は行き着きます。
さらには、私の経験上、競技でランジ動作をガシガシやっているアスリートにフォワードランジをやらせようとすると、正しいフォームで実施する事が困難です。
どうしても競技動作の癖が出てしまい、競技のランジ動作に近いフォワードランジのフォームになってしまう傾向があります。
なので、正しいフォームでフォワードランジができないのであれば、フォワードランジは実施しないほうがいいんじゃないかという考えに行き着きます。
そもそも、競技のランジ動作と近い(けど異なる)動きのフォワードランジを正しく実施できないというのは、逆に考えると、フォワードランジをトレーニングでガシガシ実施してしまうと競技のランジ動作に悪影響が出てしまう可能性を示唆しているとも言えます。
じゃあシナリオ③はどうなんだ?というと、私の個人的な意見としては、どれだけトレーニングエクササイズの動作を実際の競技の動きに似せようとしても、外的な負荷をかけた時点で動きは違うものになってしまうと思います。
見た目は似ていても、その動作を作り出すベースとなる力発揮は違うはずです。
実際に、見た目は全く同じ動きでも外的な負荷をかける事で力発揮が異なるというのは過去の研究でも示されています[1]。
なので、トレーニングの動作を色々と工夫して競技動作に似せようとする努力自体が、私としてはナンセンスだと思います。
※ちなみに、見た目が似ているかどうかというのはバイオメカニクスで言う所のキネマティクスのお話です。
一方で、力発揮というのはキネティクスのお話です。
競技特異性の議論をする時に、前者ばかり考えて後者を考えていないケースが非常に多いような気がします。残念です。
まとめ
競技におけるランジ動作のパフォーマンスをアップさせるために、あえて競技特異的な(?)エクササイズと一般的には考えられるフォワードランジを採用しないという選択。
逆説的な考え方に思われるかもしれませんが、私にとってはこれこそ競技特異的なトレーニング処方という事になります。
う~ん、決まった・・・。
参考文献
[1] Riemann et al. (2012) Biomechanical analysis of the anterior lunge during 4 external-load conditions. J Athl Train 47(4):372-8.
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