「フィットネスー疲労理論」というコンセプトがあります。
簡単に説明すると、トレーニングをするとフィットネス(≒体力)が向上する一方で疲労が蓄積し、前者はプラス効果、後者はマイナス効果があり、そのプラスマイナスの合計により、その時点で発揮可能な体力レベル(=preparedness)が決まる、という考え方です。
- フィットネス:プラスの効果
- 疲労:マイナスの効果
- Preparedness:プラスマイナスの合計
個人的には、S&Cコーチであれば必ず知っておくべき、そして使いこなせるようになっておくべき超重要なコンセプトだと思います。
極論を言うと、「フィットネスー疲労理論」を知らないS&Cコーチは専門家失格です。
そのくらい重要です。
フィットネスと疲労を数値化するのは難しい
私はこれまで「フィットネスー疲労理論」について、ブログや書籍、そしてセミナー等で発信してきました。
できるだけ多くのS&Cコーチに知ってもらいたい、という想いがあったからです。
私はこのコンセプトの発明者でもないですし、このコンセプトを日本に伝えたパイオニアというわけでもないですが、日本における「フィットネスー疲労理論」の認知度向上に少しは貢献しているはずです。
そのような活動をする中でよく質問されるのは、「ある時点におけるフィットネスと疲労(とpreparedness)をそれぞれ数値化することは可能ですか?」ということです。
たとえば、「今日の数値はフィットネスが+10、疲労が-3、preparednessが+7」みたいなイメージですね。
こんな感じで、各指標を数値化して定量的に評価することができれば、S&Cコーチにとってはめちゃくちゃ役に立つデータになります。
だから、「それが可能ならその具体的な方法を知りたい」と考えるお気持ちは非常によくわかります。
ただ、残念ながら、そのような質問をされたとき、私は「非常に難しいです。絶対に不可能というわけではないですが、実用的ではありません。現場レベルではほぼ無理だし、私も数値化して把握するようなことはしていません」とお答えするようにしています。
すると、質問者の多くはとてもガッカリした表情をされます。
口には出されませんが、「え!だったら「フィットネスー疲労理論」なんて学んでも意味ないんじゃないの?」と顔に書いてあります。
そのお気持ちもとてもよくわかりますが、決して落胆する必要はありません。
それでも「フィットネスー疲労理論」を理解しておくべき理由
たとえフィットネスと疲労(とpreparedness)をそれぞれ数値化することが難しいとわかっていても、それでも私が「フィットネスー疲労理論」について発信をし続けることには理由があります。
それは、「フィットネスー疲労理論」というコンセプトが説明している「イメージ」を理解しておくことに意義があるからです。
この「イメージ」を理解していると、どのタイミングでどの程度のトレーニングを実施すべきなのかを決めるときに、より明確な根拠をもとに正しい方向性を見出すことができるようになります。
たとえば、プロスポーツの長いシーズン中にコンディションが悪化している状況に陥ったとします。
皆さんだったら、どうしますか?
トレーニング負荷という観点で考えると、以下の3つの選択肢があります:
- ①トレーニング負荷は現状維持
- ②トレーニング負荷を減らす
- ③トレーニング負荷を増やす
どの選択肢を選べば、低下しているコンディションを好転させることができるでしょうか?
「フィットネスー疲労理論」のイメージを持っていると、コンディションが悪化している状況は「preparednessが低下している状況」と変換することができます。
そして、preparednessが低下している理由として、「フィットネスが低下している」と「疲労が蓄積している」という2つの可能性があることに気づくはずです。
さらに、練習やトレーニング、試合等の負荷を過去数週間にわたって振り返ることで、どちらのパターンでpreparednessが低下しているのか、その当たりをつけることも可能です。
原因さえわかれば、上記3つの選択肢の中でどれを採用すべきか、かなり自信をもって判断することができるようになります。
これは、フィットネスと疲労を数値化して定量的に把握することができなくても、「フィットネスー疲労理論」のイメージを理解していれば十分できることです。
逆に、「フィットネスー疲労理論」のイメージを持っていないと、コンディションが悪化しているときに、どうすればいいのかわからないはずです。
それでも「何かしらを変えなければ!」と、②か③の選択肢をとることになるでしょうが、そこに根拠はないのでギャンブルみたいなものです。
一時的にコンディションが好転することがあるかもしれませんが、それは偶然にすぎず、時間がたつとコンディションが低下してしまうかもしれません。
そもそも、ギャンブルだから再現性は高くありません。
また同じような状況に陥ったときに、過去にうまくいったのと同じ解決策を選択しても、今回はうまく行かないかもしれません。
以上の例で説明したように、「フィットネスー疲労理論」のイメージを持つことが重要なのです。
たとえフィットネスと疲労を数値化することができなくても、イメージを持つだけでも十分に恩恵をこうむることが可能です。
落胆することなく、「フィットネスー疲労理論」を積極的に学び、その理解を深めてください。
フィットネスと疲労を数値化するのは本当に不可能なのか?
ここまで、フィットネスと疲労を数値化するのは「難しい」とか「実用的ではない」という表現をあえて使ってきました。
必ずしも不可能ではないからです。
おそらく唯一可能性があるのが、「数学的モデル」を使ってフィットネスと疲労を数値化する方法です。
研究の世界では、実際に数学的モデルを用いて、フィットネスと疲労を定量化するような試みが昔から行われています。
興味のある方は、以前にツイッターでも紹介した日本語論文を読んでみてください。
「フィットネスー疲労理論」の理解を深めたい方には、こちらの論文を推奨します。
日本語だから読みやすいはず。
簡易的なトレーニング定量法の有用性:カヌースプリントナショナルチームのロンドンオリンピックに向けたトレーニングを対象として https://t.co/NGIjMQcyRD
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
研究の世界でやられているんだったら、スポーツの現場でもフィットネスと疲労を数値化することは可能なのではないか?
そう思われる方もいらっしゃるでしょう。
たしかに不可能ではないです。
しかし、めちゃくちゃ大変です。
すべての練習やトレーニング、試合等の負荷を記録する必要がありますし、定期的にpreparednessを測定することも必要になります。
陸上・自転車・競泳等の記録系競技の場合は、練習・トレーニング・試合等の負荷を定量化しやすく、preparednessも数値化しやすいので、数学的モデルとの相性はよいかもしれません。
一方、サッカーやバスケットボール等の球技系競技だったり、フェンシングや柔道等の対人系競技の場合は、なかなか難しいです。
たとえば、「ウエイトトレーニングと持久力トレーニングと競技練習の負荷をどうやって同じ指標で定量化して統合するの?」とか「バスケットボールにおけるpreparednessってどうやって測定するの?」といった問題にぶち当たります。
まあ、そこは無理やりできなくもないのですが、さまざまな仮定や前提が入り込むので、どこまで正確にフィットネスと疲労を数値化できるのかは、なんとも言えないところです。
個人的には、数学的モデルを使ってフィットネスと疲労を数値化するのにかかる時間や労力と、それによって得られるメリットを天秤にかけて考えると、現場レベルでやるだけの価値はないケースがほとんどである、と現時点では判断しています。
すでに説明したように、必ずしもフィットネスと疲労を数値化しなくても、「フィットネスー疲労理論」のイメージを持っておくだけでも十分なメリットは得られるわけですから。
それでも、どうしても数学的モデルを使ってフィットネスと疲労を数値化してみたい、という方には、龍谷大学の長谷川先生が無料で提供している関連資料をオススメしておきます。
過去のブログ記事ですでに紹介しているものです。
» 参考:「フィットネスー疲労理論」とBanisterらによる数学的モデル
まとめ
「フィットネスー疲労理論」について発信しているときに、よく聞かれる質問とそれに対する私の回答を紹介しました。
結論としては、フィットネスと疲労を数値化するのは難しいけど、「フィットネスー疲労理論」のイメージを持っておくだけでも大きな違いになる、ということです。
落胆することなく、積極的に「フィットネスー疲労理論」の学びを深めていただければと思います。
また、フィットネスと疲労を数値化するために唯一可能性のある方法として、「数学的モデル」を紹介しました。
メリット・デメリットやどれほど正確にフィットネスと疲労を数値化できるのか、といった点を総合的に考えると、現時点ではトライする価値はない、というのが私の個人的な判断です。
それでもどうしてもやりたい、という方は、紹介した資料等を参考にしてチャレンジしてみてください。
また、私は「数学的モデル」を現場で使ってはいないものの、その基本的なコンセプトを学ぶことには大きな意義があると考えています。
なかなか難しい数式が出てくるので、完全に理解するのは難しいですし、私自身も完全に理解できている自信はありません。
それでも、「数学的モデル」の中にでてくる係数や定数の意味を知っておくと、「フィットネスー疲労理論」のイメージを洗練することに繋がると感じています。
現場で使うことはなくても勉強にはなるはずなので、やはり紹介した資料を読むことをオススメします。
こちらの動画教材では、「数学的モデル」の簡単な説明もしていますので、学びを深めたい方はぜひご購入ください。
動画 フィットネスー疲労理論
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【編集後記】
現在は賃貸暮らしですが、冬は足元から冷えますね。エアコンで暖房をつけているのに・・・。
今年に完成する予定の自宅は、断熱・気密等をしっかりとした高性能住宅なので、来冬は暖かく過ごせるはずです。
早く引っ越したい・・・。