vVO2maxを基準に高強度インターバルトレーニング(HIIT)における運動強度を設定する
高強度インターバルトレーニング(HIIT)における運動強度を設定するときに、vVO2maxを基準にすることがあります。
最大酸素摂取量(VO2max)に相当するランニング速度のこと。もっと厳密に言うと、VO2maxを引き出す最低限のランニング速度のこと。
たとえば、「vVO2maxの110%のスピードで15秒間走る」という形で、HIITにおける運動強度を設定することができます。
このような形でvVO2maxを基準に運動強度を設定することのメリットは、「アスリート間の能力差を考慮に入れて、個別に運動強度を設定できる」という点にあります。
» 参考:高強度インターバルトレーニング(HIIT)の運動強度を規定する方法|個人の能力差を考慮に入れる
vVO2maxを厳密に測定するためには、研究室で使うような装置が必要になります。
しかし、多くのアスリートにとっては、そんな測定をするのは現実的ではないでしょう。
そこで、実際のスポーツ現場では、フィールドで実施できるテストを用いて、vVO2maxを推定することが一般的です。
» 参考:高強度インターバルトレーニング(HIIT)の運動強度設定に使うため、最大酸素摂取量にあたる走速度(=vVO2maxまたはMAS)をフィールドで簡易に推定する方法
vVO2maxを基準にHIITの運動強度を設定することの問題点
理屈の上では
- フィールドテストを実施してvVO2maxを推定する
- 各自のvVO2maxの値を基準にしてHIITの運動強度を個別に設定する
というやり方をすれば、すべてのアスリートが相対的に同じ運動強度でHIITを行うことになるはずです。
これは、すべてのアスリートに対して「15秒で80m走れ!」と言うよりも、はるかに洗練された運動強度の個別化の方法だと考えられます。
しかし、vVO2maxを基準に個別にHIITの運動強度を設定しても、実際のところは、トレーニングに対する反応に個人差があるという報告があります。
たとえば、「vVO2maxの110%のスピードで15秒走る→15秒休む」というHIITを10分間継続したときの、異なる3名のアスリートの「心拍数の反応」のデータが以下の図で示されています(1)。
vVO2maxを基準に運動強度を個別に設定したはずなのに、こんなに個人差が出てしまうと、「なんでだろう?」と疑問が湧くはずです。
とくに3名のうち1名は、10分間運動を継続することさえできないくらいですから。
このデータが示しているのは「心拍数の(急性の)反応」という1つの指標にすぎませんが、ここまで個人差があると、長期的なトレーニング効果にも個人差が出てくるのではないかと推測できます。
せっかく個人差をなくすために、vVO2maxを基準にHIITの運動強度を個別に設定したのに、トレーニング効果に個人差が出るなんて笑えませんよね。
Anaerobic Speed Reserveというコンセプト
vVO2maxを基準に個別に運動強度を設定したはずなのに、実際には個人差が出てしまう。
その原因を説明する有力な候補の1つが「Anaerobic Speed Reserve」というコンセプトです。※原因は必ずしも1つに限定されるものではありません。
前々回のブログで、vVO2maxはMSS(最大スプリントスピード)と比べると高強度ではないというお話をしました。
» 参考:高強度インターバルトレーニング(HIIT)はそれほど高強度ではない!?
VO2maxに相当するランニング速度(vVO2max)と全力スプリントをした時のランニング速度(MSS)には差があるということです。
この差のことを「Anaerobic Speed Reserve」と呼びます。
vVO2maxとMSSのランニング速度の差(下図参照)
vVO2maxがまったく同じアスリートが2人いたとしても、MSSが異なれば、Anaerobic Speed Reserveもまた異なります(下図のイメージ)。
とくにHIITの運動強度をvVO2maxよりも高く設定する場合(例:vVO2maxの110%)、vVO2maxが同じだったとしても、Anaerobic Speed Reserveが高いアスリートのほうがある意味「余裕がある」ことになります。
この「余裕」の有無が、vVO2maxを基準にしてHIITの運動強度を設定したのにもかかわらず、「心拍数の反応」等に個人差が生じてしまう原因の1つであると考えられます。
こういったコンセプトを理解できれば、vVO2maxだけを基準にHIITの運動強度を個別に設定することが、いかに不完全なやり方であるかがわかるはずです。
本当にアスリート間の能力差を考慮に入れて、HIITの運動強度を個別に設定したいのであれば、vVO2maxだけでなくMSS、ひいてはAnaerobic Speed Reserveの個人差まで考慮に入れる必要があるということです。
まとめ
アスリート個々の能力差を考慮に入れてHIITの運動強度を設定するためにvVO2maxを基準にすると、完全な個別化が図れず、個人差が出てしまいます。
このイマイチ納得できかねる現象が起こる原因の1つとして「Anaerobic Speed Reserve」というコンセプトを紹介しました。
vVO2maxに加えてAnaerobic Speed Reserveまで考慮に入れてHIITの運動強度を設定できると、だいぶ個別化を図ることができるようになるはずです。
じゃあ、具体的にどうやったらいいのでしょうか?
1つのやり方としては、「ASRの〇〇%」という形でHIITの運動強度を決定する、という方法があります。
もう1つは、vVO2maxの代わりに、「30-15 Intermittent Fitness Test」で導き出されるVIFTを基準にHIITの運動強度を決定する、という方法があります。
私自身は後者の方法を実践しており、個人的にはそちらをオススメしています(とくにHIIT中に方向転換が含まれる場合)。
動画 非持久系競技のためのHIIT
参考文献
(1) Buchheit, M. (2010). The 30–15 intermittent fitness test: 10 year review. Myorobie J, 1(9), 278.
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【編集後記】
今は池井戸潤さんの「鉄の骨」を読んでいます。これまた面白い。池井戸さんは天才ですな・・・。