先日、「これはトレーニング指導にも当てはまるな〜」と共感したツイートがありました:
思った成果が出てない時に敢えて「変えない」事が出来るかが大切な時があります。
成果にはまだ繋がらないけど、組織に変化の兆しがあったり、市場のニーズを捉え始めたタイミングなんかがそれにあたります。
成果に繋がらず動揺する組織に「このままいくぞ」と宣言する事は、リーダーの重要な役割。
— 安藤広大/株式会社識学 代表取締役 福島ファイヤーボンズ オーナー (@ikuve)
今日のブログでは、結果が出ていないときに変えるか変えないか、というテーマを少し掘り下げて、私なりの考え方を紹介します。
結果が出ていないときにトレーニングの内容を変えるか変えないか
競技スポーツの場合、「結果」というものが勝ち負け等の数字で出やすい、という特徴があります。
そして、指導対象のアスリートやチームの結果が出ていないときには、「今やっているトレーニングに問題があるのではないか?」と不安になって、トレーニングの内容をガラッと変えたい衝動に駆られる、というのはS&Cコーチあるあるでしょう。
私も、若くて経験が少なかった頃は、しょっちゅうそんな衝動に駆られていました。
実際にトレーニング内容を変えたこともあれば、変えなかったこともあります。
しかし、いろいろな経験をして、知識も蓄え、考え方も洗練されてきた今は、「変えない」という選択を取ることがほとんどです。
厳密に言うと、トレーニングの内容をマイナーチェンジしたり調整したりすることは、結果が出ていても出ていなくても常にやっています。
そういう「常にやっている変更」とは別に、結果が出ていない状況において、今やっているトレーニングに問題があると判断をして、トレーニング内容をガラッと変えることがなくなった、ということです。
なぜなら、たとえ結果が出ていなかったとしても、今やっているトレーニングを継続するほうが効果的である・メリットが大きい、と信じているからです。
逆に言うと、結果が出ないからといって、トレーニング内容をコロコロ変えているようでは、逆に結果に繋がらない・デメリットが大きい、と考えるからです。
結果が出ていない時にトレーニング内容を「変えない」決断をできるかどうか
結果が出ていないときに、トレーニング内容を「変えない」という決断をするのは勇気がいります。
なぜなら、競技スポーツというのは結果で評価されるものだからです。
結果が出ていない時に、私のようなトレーニング指導の専門家が「今やっているトレーニングの方向性は間違っていないので、継続するのが大切です!」と主張しても、「結果が出ていないのに、何を根拠にそんなこと言ってるんだ、コノヤロー!」と思われてしまうかもしれません。
アスリートやコーチからの「結果が出ていないんだから、トレーニングの内容を見直せよ、コノヤロー!」という目に見えないプレッシャーは、これまでに数え切れないほど経験してきました。
正直言って、結果が出ていないときは、そのようなプレッシャーに屈して、トレーニング内容を変えてしまうほうが精神的にはラクです。
変えちゃったほうが、アスリートやコーチ側にとっても納得感があるでしょうし。
でも、そもそも指導しているトレーニングの内容にしっかりとした根拠があって、自信を持って提供しているのであれば、それを継続したほうがアスリートやチームの利益に繋がるはずですよね?
だったら、たとえ結果が出ていなくても、アスリートやコーチからのプレッシャーに晒されていたとしても、変えちゃダメでしょう!と私は思うわけです。
アスリートやチームの「勝ち」に貢献するのが専門家の役割なわけですから、プレッシャーに晒されるのが嫌だから、という個人的な理由で、「勝ち」から遠ざかるような行動を選んではいけません。
結果が出ていない時にトレーニング内容を「変えない」決断をできるかどうか。
これはS&Cコーチとしての能力をわける大きな指標になると、個人的には思います。
「変えない」決断をできるようになるために必要なこと
今でこそ、結果が出ていない時にトレーニング内容を「変えない」決断をできるようになってきた私ですが、若い頃はその勇気を持てないこともありました。
一体、何が変わったのでしょうか?
別の言い方をすると、結果が出ていない時にトレーニング内容を「変えない」決断ができるようになるためには、どうすればいいのでしょうか?
私は以下の3つが必要だと考えています:
- ①「結果≠トレーニングの良し悪し」ということを理解する
- ②「トレーニングの効果が結果に繋がるまでには時間がかかる」ということを理解する
- ③「これがベストのトレーニングだ!」と自信をもって提供できるように、能力を磨く
①「結果≠トレーニングの良し悪し」ということを理解する
競技スポーツというのは結果で評価されるものだ、というお話はすでにしました。
その一方で、トレーニングの良し悪しと結果は必ずしもイコールではない、というのも真実です。
結果が出ているトレーニングが良いとは限らないし、結果が出ていないトレーニングが悪いとは限らないのです。
一見、矛盾するようなこの2つの事実をしっかりと理解して納得しておくことが重要です。
・スポーツは結果で評価されるもの
・結果を出した練習やトレーニングが良いとは限らない一見、矛盾しているこの2つの考えを、どちらもそのまま受け入れることができるようになった時に「大人の階段登ったな〜」と思えた。
私も若い頃はイマイチ納得できなかったです。
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
「結果≠トレーニングの良し悪し」と言った場合、さらに細かく分けると、2つの意味合いがあります。
1つは、競技成績という結果に貢献する要因は、「体力」以外にもある、ということです。
つまり、体力がすべてではない、ということです。
適切なトレーニングをやっていて、体力が向上し、コンディション調整も順調に進んでいたとしても、技術面・戦術面・心理面etcの他の要因に問題があって結果が出ないことはあります。
逆に、不適切なトレーニングをやっていて、体力が低下してしまい、コンディション調整もうまくいっていない状況でも、他の要因のおかげで結果が出ることもあります。
また、極端な話、体力面・技術面・戦術面・心理面etcのすべてにおいて正しいことをやっていたとしても、現時点では相手の実力が上回っていた、というただそれだけの理由で負けてしまう(=結果が出ない)ことだってあります(もちろん、その逆もあります)。
それが競技スポーツです。
したがって、トレーニングが影響を与えることのできる「体力」というのは、あくまでも競技成績(=結果)に貢献する数ある要因のなかの1つにすぎない、という俯瞰的な視点が大切です。
「結果=トレーニングの良し悪し」と短絡的に考えてしまうと、結果が出ないたびにトレーニング内容をコロコロと変えてしまうことになりかねません。
場合によっては、せっかく正しい方向性でトレーニングを進めていたのにそれを変えてしまうことになり、余計に結果が出なくなってしまうリスクもあるでしょう。
「結果≠トレーニングの良し悪し」と言った場合のもう1つの意味合いは、トレーニング効果と競技成績(=結果)との間に因果関係があるかどうかは、個人のアスリートや1つのチームを見るだけでは判定できない、ということです。
因果関係というのは、文字通り原因と結果の関係のことです。
やっているトレーニングが原因となり、競技成績の低下という結果になっているのであれば、因果関係があるということになります。
もし、そのような因果関係があるのであれば、トレーニングの内容を変えたほうがいいでしょう。
しかし、個人のアスリートや1つのチームの結果をもとに因果関係の有無を判定することはできません。
なぜなら、事実と反事実を比較することが不可能だからです。
このあたりの話を詳しくすると、めちゃくちゃ長くなるので、私のブログの過去記事を読んでみてください。
また、そこでも紹介した「「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法」という本もオススメなので、ぜひ読んでみてください。
#798 4ヶ月前と比べて体力測定結果が10%低下したら、その4ヶ月間のトレーニングが良くなかったってこと?
②「トレーニングの効果が結果に繋がるまでには時間がかかる」ということを理解する
トレーニングによる体力向上は時間がかかります。
また、体力向上が「トレーニング効果の転移」というプロセスを経て、実際の競技の動きの向上に繋がるまでにも時間がかかります。
そして、競技の動きが向上しても、それが競技成績の向上という「結果」に繋がるまでにも時間がかかります。
私は個人的な経験から、このプロセスには年単位の時間がかかる、と感じています。
それは過去のブログ記事でも紹介したとおりです。
#327 トレーニング効果が競技成績向上に結びつく実感を得るには年単位の時間がかかる
その一方で、競技成績という「結果」は、もっと短いスパンで変化するものです。
たとえばプロスポーツ等においては、ある月には連敗続きで順位が下がってしまっていたけど、翌月には連勝続きで順位がドンドン上がっていく、なんてことはありえます。
同じ内容のトレーニングを継続してやっていたとしても、です。
それにもかかわらず、結果が出ていないときにコロコロとトレーニング内容を変えてしまうと、そのトレーニングの効果が結果に繋がる前にやめてしまうことを繰り返すことになります。
これでは、たとえ適切なトレーニングをやっていたとしても、結果に繋がるわけがありません。
適切なトレーニングであったとしても、結果に繋がるまでには年単位の時間がかかるわけですから。
したがって、短期的な結果に左右されずに、腰を据えて年単位でトレーニングを継続する、という覚悟が必要です。
この覚悟をもっていれば、結果が出ていない時にトレーニング内容を「変えない」決断ができるようになるはずです。
ちなみに、年単位でトレーニングを継続するのが必要で、コロコロと変えてしまうのは逆効果である、というのはそのとおりなのですが、必ずしもまったく同じ内容のプログラムを続けるべき、と言っているわけではありません。
そこは注意をしてください。
そもそも適切なトレーニングというものには「バリエーション」という要素が含まれているものです。
ずーっと同じトレーニング刺激を受けていると、身体が慣れてしまい、体力向上効果が鈍ってしまうので、新鮮な刺激を与えるために、定期的にトレーニングの内容を変えることは重要です。
これは「バリエーションの原則」とも呼ばれているコンセプトです。
そのようなバリエーションを排除しろ、と言っているわけではありません。
トレーニング効果を出し続けることを目的として、その手段としてトレーニングの内容にバリエーションを加えるのはOKです(っていうか、むしろ必要なことです)。
一方、結果が出ないことを理由にして、トレーニングの根本的な方向性をコロコロと変えてしまうのはNGです。
その違いは理解していただければ。
バリエーションの原則については、拙著でも解説しているので、興味のある方はご一読ください。
③「これがベストのトレーニングだ!」と自信をもって提供できるように、能力を磨く
ここまでご紹介した①と②を理解していれば、結果が出ていない時にトレーニング内容を「変えない」決断ができるようになるはずです。
しかし、実際に今やっているトレーニングがダメで、それが原因で結果が出ないことも可能性としてはゼロではありません。
そんな可能性を完全に無視して、結果が出ていない時に「トレーニング内容は変えないほうがいいです」と頑なに主張するのも、ちょっとどうなの?って思いますよね。
とはいえ、①と②で説明したように、結果だけを見て、実際に今やっているトレーニングがダメな場合を判定することは困難です。
じゃあ、どうすればいいんだよ?って話ですよね。
私の主張としては、結果で判断することは諦めて、「提供するトレーニングがダメで結果が出ない」という可能性をできるだけ排除するための最大限の努力をしましょう!ということになります。
もっと具体的にいうと、専門家としての能力を磨くために、本を読み、論文を読み、セミナーに参加し、思考を深め、経験を積み、「これがベストのトレーニングだ!」と自信をもって提供できるようになりましょう!ということです。
抽象的な言い方をすると、アウトプット(=結果)で評価をするのが難しいのであれば、インプット(=トレーニングの内容)を磨いておきましょう、ということです。
専門家としての能力を磨く努力をしたうえで、目の前のアスリート・チーム・状況・目的にとってベストなトレーニングをトコトン考え抜いて提供する。
そのうえで、結果が出ていない時に「変えない」決断をできるように①と②をしっかりと理解しておく。
これが専門家としてやるべきことであり、逆に言うと、専門家ができることの限界でもあります。
自分の能力を磨いたうえで「これがベストのトレーニングだ!」と自信をもって提供したものが、実はダメなやり方で、結果が出ないことの原因になっている可能性は完全には排除できません。
しかし、もし、最大限の努力をして提供した自分にとってベストのものがダメだったときに、トレーニングの内容を変えたとしても結果に繋がるとは考えづらいです。
自分がベストだと思うトレーニングの内容を変えてしまうと、それは理屈としてはベスト未満のものになってしまうからです。
そういうケースにおいて、結果を好転させるためには、トレーニング指導者を変えるしかありません。
その判断は、専門家の我々に対して報酬を支払っているアスリートやチームの担当者がすることなので、我々としてできることは 、専門家としての能力を磨いて、ベストのトレーニングを提供するための努力をし続けることだけ、ということになります。
まとめ
結構な長文になりました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
競技成績という結果が出ていない時にトレーニング内容を「変えない」決断をするのは勇気がいります。
しかし、アスリートやチームの利益を考えると、「変えない」ほうが良いケースがほとんどです。
ただし、その前提として、そもそも提供するトレーニングが効果的なものであり、結果にマイナスに作用していない、ということが挙げられます。
できるだけ効果的で結果に繋がるようなトレーニングを提供できるように、専門家としての能力を磨く努力を続けましょう。
また、本ブログ記事の趣旨は、トレーニングの内容を一切変えるな、ということではありません。
根本的なトレーニングの方向性は、結果が出ていなかったとしても、コロコロと変えないほうが良い、ということです。
それとはべつに、結果が出ている出ていないにかかわらず、トレーニングの内容をマイナーチェンジしたり調整したりするのは常にやるべきです。
また、トレーニング効果を高めるための意図した計画的なバリエーションは必要です。
そこを誤解されないようご注意ください。
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【編集後記】
ユニクロでカスタムオーダースーツを作ってみました。
仕事柄、ほとんどスーツを着る機会はないので、ユニクロで十分です。
っいうか、私の私服もほぼユニクロです。