競技動作そのものに外的な負荷をかける。
たとえば、ボクサーがダンベルを持ってパンチ動作をやったり、バドミントン選手やフェンシング選手がバーベルを担いでランジ動作(一歩前に踏み込む動作)をやったり。
これがアリなのか、ナシなのか、という議論を改めてしてみます。
競技動作に外的な負荷をかけるのはアリかナシか?
個人的には、目的や状況によってアリの場合とナシの場合があると考えています。
競技動作そのものに外的な負荷をかける目的や状況として、以下の2つのケースにわけて、それぞれアリなのか、ナシなのか、検討してみます。
- ケース①:体力向上のための「トレーニング」として
- ケース②:競技動作を改善するための「練習」の一環として
ケース①:体力向上のための「トレーニング」として
体力向上のための「トレーニング」として、競技動作に外的な負荷をかけることには、私は反対です。
ずばり「ナシ」です!
理由はこれまでに本ブログで何度も書いてきました。
右側にあるサイドバーの「カテゴリー」欄から、「競技特異性」をクリックしていただくと、関連する記事一覧を見ることができます。
また、競技動作に外的な負荷をかけるトレーニングがいかにダメなのか、本をまるまる1冊書いて説明しています。
ケース②:競技動作を改善するための「練習」の一環として
体力向上のためのトレーニングとして、競技動作に外的な負荷をかけるのは「ナシ」というのはこれまでも一貫して訴えてきました。
そこで、今回は、新たな視点として、競技動作を改善するための「練習」の一環としてならどうなのか?について詳しく見ていきます。
まず、結論から言ってしまうと「アリ」です。
たとえば、適切な方向に力を発揮することを教えるために、その方向に外的な負荷をかけてあげる場合。
これは、適切な動き・力の発揮の仕方を覚えてもらうための手段の一つとして、使うのはおおいにアリだと思います。
スプリント動作の練習の一環として、壁を使ったウォールドリル等をやったりしますが、この時に、指導者がアスリートの両肩に手を置いて斜め下(後ろ)方向に負荷をかけてあげることで、適切な方向への力発揮を意識しやすくなったりすることがあります。
つまり、外的な負荷をかけることで、適切な動きを意識しやすくなることはあるのです。
だから、競技動作を改善するための練習の一環として、外的な負荷をかけるのであれば、私が反対する理由はありません。
ただし、注意が必要です。
なんでもかんでも、外的な負荷をかければ、競技動作の改善に繋がるわけではないからです。
競技動作に外的な負荷をかけてその動きの改善に繋げるためには、指導者に必要とされる前提条件が3つあります。
- 適切な動作(=ゴール)を理解している
- 目の前のアスリートの現状を理解している
- 現状をゴールに繋げるのに適切な負荷のかけ方(方向、大きさ)を理解している
これらの前提条件をクリアした指導者が、練習の一環として競技動作に外的な負荷をかけるのであれば問題ありません。
しかし、これらを理解していない状態で外的な負荷をかけても、動作の改善に繋がらないどころか、悪化させてしまうリスクもあるので注意が必要でしょう。
スレッド走トレーニングはアリかナシか?
以上の議論を簡単にまとめると、競技動作に外的な負荷をかけることは
- 体力向上のためのトレーニングとして、であれば「ナシ」
- 競技動作を改善するための練習の一環として、であれば「アリ」 ※ただし条件付き
ということになります。
競技動作に外的な負荷をかけることについて、私が深く考えるようになったキッカケは、私が大学院博士課程でやった研究です。
具体的には、「スレッド走トレーニング」と呼ばれるような、スプリント動作に「重りを乗せたそり(スレッド)を引っ張る」という外的な負荷をかけたトレーニングについて調べました。
もともとは、スプリント動作そのものに負荷をかけるから、スプリント動作に特異的な筋力やパワーが向上して、結果としてスプリント能力向上に繋がるだろうという仮説がありました。
しかし、約3年をかけて研究をした結果、今ではそのような考え方を改めています。
そして、「スレッド走トレーニング」に対する認識は、「スプリント動作に特異的なトレーニング」から「スプリント動作を改善するための練習の一環として外的な負荷を利用したもの」に変わりました。
体力向上のためのトレーニングとして、競技動作に外的な負荷をかけることには反対の立場です。
その一方で、「スレッド走トレーニング」はスプリント能力向上に効果があると考えています。
一見、矛盾しているようにも思えますが、「スレッド走トレーニング」を体力向上のための「トレーニング」ではなく、スプリント動作や技術を改善するための「練習」の一環として捉えることで、私のなかでは整合性が保たれています。
まとめ
結論は、タイトルそのままで、「競技動作に外的な負荷をかけるのは、練習の一環としてやるならアリだけど、体力向上のためのトレーニングとしてはナシ」となります。
ただし、前者の場合でも、もろもろを理解したうえでやらないと逆効果になるリスクがあるので気をつけましょう。
私のようなS&Cコーチの立場としては、競技動作を改善するための練習に介入することはないので(そこは競技コーチの領域)、競技動作に外的な負荷をかけることは基本的にありません。
唯一あるとしたら、走る・止まる・方向転換する等の基本的な動きを指導するムーブメントレーニングで使うくらいです。
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【編集後記】
娘の沐浴で腰がやられています。。。