私は「腕立て伏せ」をアスリートのウエイトトレーニングプログラムに組み込むことが多いです。
その理由を簡単に説明すると:
- 肩甲骨を動かす・安定させる筋肉を動員しながら、上半身の押す筋力を鍛えることができる
- 胴体部分を安定させる筋肉を動員しながら、上半身の押す筋力を鍛えることができる
といった腕立て伏せの特徴が、アスリートの体力向上という観点から適していることが挙げられます。
ただし、自重で腕立て伏せを1回もできないアスリートもいます。とくに女性アスリートの多くに当てはまります。
※もちろん、できる女性アスリートもいますが、割合は少ないです。
「河森は腕立て伏せをすごい推しているけど、自重で1回もできないアスリートは一体どうしたらいいんだ?」と思われる方もいるでしょう。
そこで今回は、筋力がなくて自重で腕立て伏せを1回もできないアスリートが、最初の1回をできるようになるためにできる工夫についてご紹介します。
自重で腕立て伏せを1回できるようになるための戦略
自重で腕立て伏せを1回もできない場合、「自重での腕立て伏せの負荷」が「その人の筋力レベル」よりも高すぎるのが原因です。
※十分な筋力は備わっているのに、身体の動かし方がわからないだけという場合もありますが、そういったケースはレアなので横においておきます。
筋力が足りないのであれば、腕立て伏せを無理してやり続けてもできるようにはなりません。
参考 腕立て伏せ ~できないものはできない~GS Performanceブログ
であるならば、腕立て伏せに必要な筋力をつけるために
- 戦略その①:腕立て伏せ以外のエクササイズで、腕立て伏せに必要な筋肉を鍛える
- 戦略その②:負荷を減らして腕立て伏せを実施する
という2つの戦略のどちらかをとる必要があります。
前者は、たとえば腕立て伏せの代わりにベンチプレスで上半身の押す筋力を鍛えるという方法です。
後者の場合、「負荷を減らす」といっても、自分の身体をちょん切って体重を減らすわけにもいかないので、腕立て伏せの動きに何かしらの工夫を加えることで、負荷を減らすことになります。
どちらも「自重で腕立て伏せを1回できるようになる」ための戦略としてはアリです。
しかし、そもそもなぜアスリートが腕立て伏せをやるのかを思い出してください。
最初に述べたように:
- 肩甲骨を動かす・安定させる筋肉を動員しながら、上半身の押す筋力を鍛えることができる
- 胴体部分を安定させる筋肉を動員しながら、上半身の押す筋力を鍛えることができる
という腕立て伏せの特徴が、アスリートの体力向上という観点から適しているという理由があったはずです。
であるならば、そうした腕立て伏せと同じメリットを享受しながら筋力を向上し、腕立て伏せを自重で1回できるようになることを目指す戦略②のほうが好ましいとも考えられます。
アスリートにとって、腕立て伏せをやることは手段であって目的ではないのですから。
負荷を減らして腕立て伏せを実施するための工夫
上記「戦略②」を採用する場合に、負荷を減らして腕立て伏せを実施するための具体的な工夫を3つ紹介します。
- 工夫その①:ななめ腕立て伏せ
- 工夫その②:エキセントリック腕立て伏せ
- 工夫その③:膝つき腕立て伏せ
工夫その①:ななめ腕立て伏せ
地面より高い場所に両手を置いて、横から見た時に身体が傾いている状態で腕立て伏せをするのが「ななめ腕立て伏せ」です。
「インクラインプッシュアップ」と呼ばれることもあります。
通常の腕立て伏せよりもラクなので、自重で腕立て伏せを1回もできないアスリートでも、ななめ腕立て伏せであれば何回かできるはずです。
なぜ、通常の腕立て伏せよりもラクなのかというと、上半身で支えて起こさないといけない自重の割合が下がるからです。
つまり、上半身にかかる負荷が小さいのです。
身体がななめに傾けば傾くほど(=両手を置く位置が高くなればなるほど)ラクになります。
したがって、両手を置く高さをうまく調節すれば、個人の筋力レベルに合わせて、適切なトレーニング刺激を身体に与えることができます。
ななめ腕立て伏せで身体を傾ける方法としては
- ベンチのうえに手を置く
- 階段の段差を使う
- パワーラックにセットしたバーを握る ※動画はこちらの方法
等があります。
この中で一番オススメなのが、「パワーラックにセットしたバーを握る」という方法です。
なぜなら、パワーラックを使うと、バーをセットする高さを細かく調整することができるからです。
つまり、身体にかける負荷を細かく変化させられるということです。
「漸進性過負荷の原則」の観点からも、これは重要な特徴です。
たとえば、パワーラックで「5」と書かれている高さにバーをセットした時に、ななめ腕立て伏せを6回しかできなかったとします。
その後、継続してななめ腕立て伏せを実施していけば、だんだん筋力もついてきて、こなせる回数も増えていくはずです。
最初は6回しかできていなかったのが、10回できるようになったら、バーをセットする高さを「5→4」という形で少しだけ低くします。
そうすると身体の傾きが小さくなるので、上半身にかかる負荷が少し増えます。
その状態で、また6回実施するところから開始して、徐々にこなせる回数を10回に伸ばしていき、今度はバーの高さを「4→3」と下げる・・・。
このプロセスを繰り返すことで、徐々に筋力もついていき、最終的には床の上で、自重で腕立て伏せができるようになるはずです。
工夫その②:エキセントリック腕立て伏せ
筋力が足りず、腕立て伏せで自分の身体を持ち上げることができない人でも、ゆっくりとコントロールしながら自分の身体を下ろすことはできます。
なぜなら、人間は下ろすときの筋力のほうが強いからです。
この下ろす局面を「エキセントリック」と呼びます。
エキセントリック局面だけをコントロールしながら実施し、胸が床についたら、膝をついたラクな状態で(ある意味ズルをして)開始姿勢に戻って、再び次のエキセントリックを実施する。
こうすることで、十分なトレーニング刺激を身体に与えることができ、腕立て伏せに必要な部位の筋力を高めることができます。
しかし、エキセントリック腕立て伏せを導入するときには注意が必要です。
なぜなら、筋肉痛になりやすいからです。
とくに、導入し始めの時は、その可能性が高いです。
導入し始めの時は、レップ数やセット数を減らしておいて、身体が慣れてきたら徐々に増やしていく等の工夫が必要です。
» 参考:「ロシアンリーン」とか「ノルディックハムストリング」とか呼ばれているエキセントリックを強調したエクササイズを導入する時に、筋肉痛をできるだけ抑えるためにできる工夫
工夫その③:膝つき腕立て伏せ
膝を床につくことで、膝から下の部分をちょん切って体重を減らしたのと同じことになるので、上半身にかかる負荷が軽くなります。
足を伸ばして通常の腕立て伏せを実施するのが困難なアスリートでも、膝をつくことで何回かはこなせるようになるでしょう。
※極端に筋力が低い場合、膝をついてもできない可能性はあります。
小学校の体育の授業で腕立て伏せをやらされた時に、女子はこの膝つきバージョンをやっていた記憶があります。
おそらく、筋力が足りず通常の腕立て伏せができない時に使える工夫としては、この「膝をつく」というのがもっとも一般的で、多くの方が思いつくやり方だと思います。
ひとつのやり方としてはOKなんですけど、私の中での優先順位は低いです。
なぜなら、胴体部分を安定させる筋肉への負荷も極端に減ってしまい、そこの部位へのトレーニング効果が低いからです。
もう少し詳しく説明します。
自重での腕立て伏せができない原因の「筋力不足」は、上半身の押す筋力が足りないケースだけでなく、胴体部分を安定させる筋力が足りないケースもあります。
そちらのタイプのアスリートが、膝つき腕立て伏せをガシガシとやって上半身の押す筋力を向上させても、通常の腕立て伏せに戻ったら、やはり胴体部分が安定せずにフォームが改善されない、ということは容易に想像がつきます。
したがって、適切なフォームでの腕立て伏せを自重で1回できるようになるために、そして、腕立て伏せをやるメリットの1つである「胴体部分を安定させる筋肉を動員しながら、上半身の押す筋力を鍛える」ことを享受するためには、他の工夫を優先したほうがよいというのが私の意見です。
もちろん、絶対にやるな!と言っているわかではなく、オプションの1つとして持っておくことは大切です。
まとめ
腕立て伏せは、上半身の押す筋力を鍛えるエクササイズとしては非常に有効です。
しかし、筋力がなくて自重で1回もできないアスリートもいます。
そのような場合に、あきらめてしまうのではなく、今回紹介したような工夫を用いて負荷を下げて取り組んでもらえれば、腕立て伏せならではのトレーニング効果を得ながら、筋力を強化することができるはずです。
個人的には、工夫①の「ななめ腕立て伏せ」をパワーラックにセットしたバーを握って実施するのがオススメです。
筋力の向上に合わせて徐々に負荷も増やしていけるので。
ただ、他の工夫が絶対にダメというわけではありません。
それぞれのやり方の特徴を把握した上で、状況に応じてうまく取り入れていただければ。
自重での腕立て伏せの最初の1回を目指して、ぜひトライしてみてください。
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【編集後記】
今日と明日はNSCAジャパンのカンファレンスが東京で開催されています。
私も参加したかったのですが、妻の出産予定日がせまっているので、やめておきました。
参加される方は、ぜひ楽しんでください!