最近仕事が忙しいのとネタが尽きてきたということで更新が滞っていますが、このブログを読んでいますと直接おっしゃってくださる方もいるので、がんばってモチベーションを上げてコツコツと書いていこうと思います。
さて、心拍モニターを使って練習中の心拍数を計測する事はかなり一般的になっています。
練習強度のモニターや処方をしたり、同じ強度の運動に対する身体の反応をチェックしたりする上で、心拍数は有効な生理学的指標の1つとして、特に持久系種目のアスリートに活用されてきました。
最近では、サッカーやバスケのような球技種目やテニスやバドミントンのようなラケット種目等でも心拍モニターの使用が増えてきているような気がします(特に統計データがあるわけではないので、私の主観です)。
心拍数を用いて練習強度を処方したりモニターしたりする上での問題点
しかし、ここで注意する必要があります。
運動形式が「持続的(continuous)」な持久系種目においては、心拍数が練習強度をある程度正確に反映している可能性が高いですが、一方で強度が刻一刻と変化する「間欠的(intermittent)」な運動においては、心拍数が練習強度を正確に反映している可能性は低いです。
したがって、間欠的な運動であるインターバルトレーニングや最近球技種目で人気なミニゲーム(small sided game: サッカーの5 vs 5など)におけるトレーニング強度を心拍数を用いて処方したりモニターする事には限界があると思います。
その理由をいくつか挙げます;
- 最大酸素摂取量(VO2max)レベルを超えるスピードやパワーで実施される運動の強度を心拍数を用いて推測する事ができない→インターバルトレーニングやミニゲームではVO2maxレベルを超えた強度で運動をする時間帯が多いため、「心拍数と運動強度が比例している」という前提がそもそも成り立たたない(例えば120%VO2maxの強度でも140%VO2maxの強度でも心拍数はほぼ100%maxHRという事になるので実際の運動強度を反映していない)
- 運動開始直後、酸素摂取量等は比較的早く上昇するが、心拍数の上昇には遅れ(heart rate lag)が見られる→心拍数は運動開始直後の強度を正確に反映する事ができず、特に運動時間が短いインターバルトレーニング(例:<30秒)等においては、心拍数が上昇して実際の運動強度に追いつく前に運動そのものが終了することもある
- 運動終了後も心拍数はすぐに下がらない→例えばインターバルトレーニングのリカバリー中の初期には心拍数が高い状態がキープされるので、リカバリー中の運動強度を過大評価する可能性がある
以上のような理由から、インターバルトレーニングやミニゲーム等の間欠的運動において、運動強度を心拍数を用いて推測する事は難しいと思います(運動時間が比較的長めのインターバルトレーニングならアリかも?)。
更に言うと、持続的運動においては心拍モニターのウォッチを見て心拍数をチェックすることは容易ですが、例えばインターバル走で比較的高速度で走っている最中に心拍モニターのウォッチをチェックするのは難しいという実用面での問題もあります。
まとめ
いろいろなネット記事やら雑誌記事やらで「我々のチームでは練習中に心拍数をモニターして運動強度をチェックしてるぜ、ワイルドだろ〜」とか「心拍モニターを使っていないチームは遅れているぜ〜」的な読み物を目にする機会がありますが、今回のブログで挙げたような問題点を把握したうえで心拍数を活用している人がどれほどいるのか疑問です。
本ブログでは、過去にも色々な計測・測定方法に関する問題点について指摘してきました(例:GPS、光電管、リニアポジショントランスデューサー)。
計測・測定をしようとする姿勢そのものは理解できますし素晴らしいと思いますが、その結果出てきた数字やデータが何を意味しているのか・本当に計測したいものを反映しているのかといった点を理解していないと、その努力が無駄になるだけでなく、間違った判断を下す事にもつながってしまいます。
気を付けましょう。
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