#432 【論文レビュー】「筋肥大期」的なセッションは、「最大筋力期」的なセッションと比べると、直後のパフォーマンス低下が大きく回復にも時間がかかる

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久しぶりに論文レビューをやります。

ウエイトトレーニングにおける「量 vs. 強度」について、理解を深めるのに役立つ論文を取り上げます。

 

  

論文の内容

Bartolomei (2017) Comparison of the recovery response from high-intensity and high-volume resistance exercise in trained men. Eur J Appl Physiol. 2017 Jul;117(7):1287-1298.

 

研究プロトコル

レジスタンストレーニング経験者に、下記2タイプのトレーニングセッションを実施してもらい、その前後にさまざまま測定を実施した:

  • High-volume(HV)プロトコル:スクワットを8セット×10レップ@70%1RM(セット間レスト1.25分) ※「筋肥大期」的セッション
  • High-intensity(HI)プロトコル:スクワットを8セット×3レップ@90%1RM(セット間レスト3分) ※「最大筋力期」的セッション

 

結果 

カウンタームーブメントジャンプ中のピークパワー値(CMJP)は、セッション直後はHVとHIの両プロトコルにおいて低下したが、低下率はHVのほうが大きかった。

また、HIの24時間後にはCMJPはセッション前のレベルまで回復したが、HVの後は48時間経ってもCMJPは低下したままだった。

右膝伸展の等速性ピークトルク値@60°/sは、HV直後に低下し、24時間後も低下したままだったが、HIの後は統計的有意な差は見られなかった。

右膝伸展の等尺性ピークトルク値は、HV直後に低下し、72時間後も低下したままだったが、HIの後は統計的有意な差は見られなかった。

筋肉痛は、HVの後のほうがHIの後よりも高い値を示し、それは72時間後まで続いた。

※血液や超音波の検査も行われていますが、省略します。

 

考察

簡単にまとめると、「筋肥大期」的なウエイトトレーニングを実施した後は、「最大筋力期」的なウエイトトレーニングを実施した後よりも、疲労やダメージによるパフォーマンス低下率が大きく、回復にも時間がかかるということになります。

 

多くのトレーニング関連研究においては、トレーニング効果(=適応)の大きさが研究のフォーカスになりがちです。

たとえば、筋肥大や筋力向上の目的のためには、どのタイプのウエイトトレーニングが効果が高いのかを調べるような研究が多いということです。

しかし、現場でアスリートを指導していてトレーニング内容を決める立場を経験して感じるのは、もちろんトレーニング効果は重要だけど、そのトレーニングをやることで引き起こされる疲労や筋肉痛といったマイナスの影響も考慮に入れる必要があるということです。

たとえばAというトレーニングはBというトレーニングより体力向上効果が10%ほど高いとしても、A実施後は数日間に渡り猛烈な疲労や筋肉痛により競技練習に悪影響が出る、ということであれば、Bを選択するほうが良いかもしれません。

アスリートはトレーニングだけやっているのではなく、あくまでも競技練習がメインなのですから。

 

今回紹介した研究は、トレーニング効果ではなく、トレーニングセッション直後のパフォーマンス低下やその回復にフォーカスを当てた研究になります。

このような情報を知っておくことは、適切なトレーニング内容を選択するうえで非常に役に立つはずです。

 

で、いわゆる「筋肥大期」的な量の多めのトレーニングを実施した後数日間は、疲労やダメージによるパフォーマンス低下や筋肉痛といったマイナスの影響が比較的大きいということです。

逆に、量は少なく強度の高い「最大筋力期」的なトレーニング後は、それらのマイナスの影響が少なく回復も早いということです。

だからと言って、じゃあ「筋肥大期」的なトレーニングは絶対に避けるべきで、常に「最大筋力期」的なトレーニングをやるべきだ、というわけではありません。

マイナスの影響があったとしても、「筋肥大期」的なトレーニングを実施して、ある程度の「量」をこなしておくことが必要な状況や時期というものはあるんです。

たとえば、根本的に体力を向上させたい場合は、ある程度の「量」が必要になります。

また、シーズン中などで「量」がなかなか確保できなくなってからも向上した体力をできるだけ維持したいのであれば、シーズンに入る前の段階である程度の「量」を確保しておくことが大切になります。

 

したがって、どのタイプのトレーニングが良い悪い、という単純な考え方はせずに、さまざまなトレーニングの特徴(トレーニング効果、直後のマイナスの影響)を把握したうえで、目の前のアスリート・チームのニーズや特徴、シーズン中の時期等を考慮に入れたうえで、適切なトレーニング内容を選択することが必要になるのです。

たとえば、オフシーズンの初期においては、疲労や筋肉痛というマイナスの影響が大きくなることを覚悟したうえで、量の多めの「筋肥大期」的なトレーニングを実施するのが必要なケースもあります。

あるいは、バスケやラグビーのようにシーズン中は毎週末に試合があるようなケースにおいては、量の多めのトレーニングは週の始めのほうに実施しておいて、週の中盤or後半では量の少ない高強度のセッションを実施することで、試合への疲労や筋肉痛によるマイナスの影響を抑える等が考えられます。

 

Limitation

HVとHIでトレーニング量は異なるし、強度も異なるし、セット間のレストも異なるので、HVとHIの間で見られた差が何によるものかを限定することはできない研究デザインになっています。

基礎研究の観点では「だから何よ?この研究デザインでは結局何も言えないじゃない」となるかもしれません。

しかし、それぞれのプロトコルは一般的に用いられる「筋肥大期」「最大筋力期」のセッションに典型的なものなので、現場のS&Cコーチの観点から言わせてもらうと、役に立つ・使えるデータとして捉えることができます。

 

また、8セットというのは多すぎるように見えますが、エクササイズがスクワットのみということを考慮すれば、それほど多すぎるわけではないかもしれません。

下半身のエクササイズを2種類4セットずつやるのとあまり変わらないので。

また、HVとHIの差を見るうえでは、セット数を増やしたほうが傾向が見つけやすくなるというメリットもあるかもしれません。

 

 

まとめ

トレーニングを計画するうえで、量と強度について理解しておくことは重要です。

トレーニング効果(=適応)というプラスの面だけでなく、疲労やダメージ・筋肉痛といったマイナスの面も含めて把握しておくことで、目の前の状況に応じて適したトレーニング内容を選択できるようになります。

今回紹介した研究は、そのあたりを理解するのに役立つデータだと思います。

簡単に言うと、体力を向上するために量の多いトレーニングを実施するのが必要な時期は必ずあるけど、それにはマイナス面も大きいので、それを認識したうえで、量の多いトレーニングを実施するのかしないのか、いつやるのか、どのようにやるのか、を決定する必要があるということです。

 

量の多いトレーニングをやると一時的にRFDが低下するというデータも過去に触れていますので、そちらも参考にしてみてください。

» 参考:論文レビュー】「筋肥大期」的な量の多いウエイトトレーニングを実施すると一時的にRFDが低下する

※よく見てみると、今回紹介した論文と上の論文は、著者がかぶっていますね。Dr. Hoffmanの研究室のプロジェクトのようです。

 

 

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【編集後記】

朝起きてすぐ、進撃の巨人の新刊をKindleで読みました。

そしてブログも更新。

そしてこれからアスリートのトレーニング指導です。

生産的な1日になりそうです!