ファンクショナルトレーニングやら競技特異的トレーニングやらの流行のピークが過ぎ、ふたたびベーシックなトレーニングの有効性が見直されつつある今日この頃。
個人的には、このような流れは歓迎したいものですが、一抹の不安を覚えているのもまた事実です。
具体的には
- 一部の人が提唱している「アスリートはとりあえずBig3(スクワット、ベンチプレス、デッドリフト)をやっておけばいい」という考え方があまりにも極端すぎて、人々が思考停止に陥ってしまうんではなかろうか?
- その結果として、アスリートの競技力向上に繋がらず、「やっぱりベーシックなトレーニングやっても意味ないじゃん」と思われてしまうのではなかろうか?
という不安です。
トレーニングの流行の移り変わり
トレーニング業界においては、いろいろなトレーニングが流行っては廃れていくというサイクルが繰り返されています。
それを「振り子」に例える人もいます。
ファンクショナルやら競技特異的といった方向に振れていた振り子が戻ってきて、今度は「アスリートはとりあえずBig3をやっておけばいい」という極端な方向に振れすぎてしまうことを私は懸念しています。
そもそも、競技アスリートの世界でファンクショナルやら競技特異的やらが流行った経緯として、その前にボディビルディングやパワーリフティングやウエイトリフティングといったバーベル競技のやり方をそのまま競技アスリートのトレーニングに当てはめたけど、競技力向上に繋がらなかったという背景があったと思うんです。
「一生懸命トレーニングしてスクワットの1RMは向上したけど、パフォーマンスUPに結びつかない!」という不満を持つアスリートやコーチが増えていたところに、ちょうど良い(?)タイミングでファンクショナルやら競技特異的やらという新しいものが入ってきて、さもそれらのトレーニングがパフォーマンスUPに直結するかのようにアピールするもんだから、不満を持っていたアスリートやコーチが飛びついたということです。
しかし、私から言わせれば、そんなことやったからといってパフォーマンスUPに直結するわけないんだから、時間がたてばそれらの有効性に疑問を持つアスリートやコーチが増えてきて、振り子がまた反対方向に振れるのは自然なことです。
残念ながら、せっかく振り子が戻ってきても「アスリートはとりあえずBig3をやっておけばいい」という考え方から進化をしていないのであれば、「Big3の挙上重量は増えたのにパフォーマンスUPに繋がらない」という同じ過ちを繰り返し、再び振り子は間違った方向に振り戻されてしまいます。
Big3をやっておけばいいという考え方が危険な理由
私は、Big3に含まれるエクササイズの有効性を否定しているわけではありません。
スクワット、ベンチプレス、デッドリフトは、アスリートの競技力向上を目的としたトレーニングのためには、非常に有効なエクササイズになりえます。
フリーウエイトで多関節エクササイズで大きな可動域で多くの筋群を動員して高重量を扱えるという特徴は素晴らしいです。
私が作るウエイトトレーニングのプログラムにも、それらのエクササイズをしょっちゅう取り入れています。
また、いわゆるファンクショナルとか競技特異的とかいうトレーニングをやるよりも、Big3だけやっていたほうがアスリートにとってははるかに効果が高いとも思います。
しかし、それは結果論です。
やはり、「アスリートはとりあえずBig3をやっておけばいい」という“考え方”には、どうしても賛成できません。
以前のブログでも説明しましたが、私はトレーニングにおいてWhyの部分がとても重要だと考えています。
Whyについてトコトン考えたうえで初めて、適切なHowやWhatが決まってくるのです。
Whyを「目的」、HowやWhatを「手段」と置き換えて考えてもいいでしょう。
» 参考: なぜ自主開催セミナーの1発目に「考え方」というテーマを選んだのか?【後編】
エクササイズ選択やエクササイズのやり方はHowとかWhatの部分です。
競技アスリートにとっては、Big3に含まれるエクササイズを実施することは、目的ではなく手段にすぎないのです。
したがって、目的さえ達成できるのであれば、スクワット・ベンチプレス・デッドリフトを必ずしもやらなくてもいいのです。
他のエクササイズで目的を達成できるのであれば。
また、目の前のアスリートにとって、目的を達成するための手段として、Big3のエクササイズが有効だと判断すれば、その場合はそれらを取り入れればいいのです。
あるいはBig3のうち1種目だけが目の前のアスリートに必要なら、それだけ取り入れればいいのです。
他の2つもセットだから必ずやらないといけないなんてことはありません。
つまり、 「アスリートはとりあえずBig3をやっておけばいい」という考え方は順番が間違っているのです。
まずはWhyの部分、そもそもトレーニングをする目的は何か?を考えるのが先なのです。
そこをすっ飛ばしてしまって「アスリートはとりあえずBig3をやっておけばいい」と主張するのは、ただ思考停止しているだけです。
そもそも、3つのエクササイズを「Big3」と一括りにグループ化する必要性はまったくありません。
1つ1つのエクササイズの特徴を把握しておいたうえで、目の前のアスリートの目的を達成するために役に立つのであれば使えばいいし、必要なければ使わないでいいのです。
スクワットもベンチプレスもデッドリフトも懸垂もオーバーヘッドプレスもクリーンもスナッチもジャンプ系エクササイズもすべて良い「手段」になりえますし、その一方で絶対に使わないといけないエクササイズなんて1つもないのです。
さらに言うと、「アスリートはとりあえずBig3をやっておけばいい」なんてマッチョな主張をしたところで、今までベーシックなトレーニングをしていなかったアスリートが納得して取り入れるとは思えないんです。
特に、アスリートがトレーニングをするのが当たり前という文化がイマイチ浸透していない日本のスポーツ界においては・・・。
まとめ
「アスリートはとりあえずBig3をやっておけばいい」なんて主張するのは思考が停止している証拠です。
それだと、振り子がまたファンクショナルとか競技特異的とかのほうに行っちゃいますよ。
それを防いでパフォーマンスUPに繋がるトレーニングをアスリートに提供したいのであれば、そもそもアスリートはなぜトレーニングをするのかというWhyの部分をトコトン考えて認識しておくことが大切です。
Whyを押さえたうえで、適切なHowやWhatを選択してアスリートにやってもらえれば、おのずとパフォーマンスUPに繋がるはずです。
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【編集後記】
住民税を払いました! 来年は住民税が増えるのか減るのか・・・。