#769 スクワットで胴体とスネの角度を平行にすべきか問題

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Pexels leon martinez 1552249

 

先日、Twitterで以下のようなツイートをしました:

 

この主張は昔からたびたび耳にしてきたものです。

直接「なんで?」と尋ねたこともありますが、納得のできる答えが返ってきたためしがありません。

今回のこのツイートに対しても、返信やら引用リツイートやらしていただきましたが、私が納得できるような説明は1つもありませんでした。

 

 

スクワットで胴体とスネの角度を平行にすべきか問題

今回のツイートに対するご意見を大雑把にわけると以下のようなカテゴリーに分類できそうです:

  • ①競技動作でも胴体とスネの角度が平行になるから
  • ②膝が前に出すぎず、上体が倒れすぎないようにバランスをとると、だいたい平行になるから
  • ③「平行にしましょう」と声がけするとフォーム改善される場合があるから

せっかくなので、これらの説明では私が納得できない理由を解説してみます。

ちなみに、ここでは、アスリートの競技力向上のための手段としてスクワットを用いることを前提にお話を進めます。

 

 

①競技動作でも胴体とスネの角度が平行になるから

これは論外です。

ウエイトトレーニングの動きを競技の動きに近づけようとするのは「特異性の原則」の誤った解釈にもとづいた行為であり、そのような考え方は絶対に避けるべきです。

この点については、本ブログで何度も説明をしていますので、「特異性」とか「特異的」で検索して関連記事を探してみてください。

また、本を1冊まるまる使って、ウエイトトレーニングの動きを競技の動きに近づけることがいかに間違っているか説明しているので、そちらもお読みください。

 

また、こちらの私のツイートでは、「競技動作でも胴体とスネの角度が平行になるから、スクワットでも平行にすべし」という説明がいかになんの説明にもなっていないかを、140文字以内で我ながら見事に指摘しています。

相手の方には伝わらなかったようでしたが、わかる人が読めば「勝負あり!」というツイートのはずです。

 

 

②膝が前に出すぎず、上体が倒れすぎないようにバランスをとると、だいたい平行になるから

この類のご意見も多かったように感じます。

とりあえず平行くらいにしておけば、極端なエラー(例:膝が前に出すぎる、上体が倒れすぎる)を防いで、それなりにバランスの良いフォームでスクワットできる、みたいな感じですかね。

そして、まずは平行を基準にしておいて、必要に応じてそこから調整をする、みたいなご意見もありました。

 

これは、上記①ほどダメな説明ではないかもしれません。

しかし、このような考え方には、競技力向上を目指すアスリートにあえてスクワットをやってもらう上での「フィロソフィー」を感じません。

もっと言うと、「極端なエラーを避けてそこそこバランス良いフォームでスクワットをやる」ことが目的になってしまっているような印象があるのです。

 

アスリートがスクワットをやるのは、それ自体が目的なのではなくて、あくまでも体力を向上させるための「手段」です。

「目的」は体力向上、そして、それを競技力向上に繋げることです。

 

であるならば、競技力向上に繋げるためにはどのような体力を向上させたいのかをまずは決定し、それを達成するためにはどのようなフォームでスクワットを実施するのが適切なのかを追求する必要があります。

そういう順番で考えた場合に、あえて胴体とスネの角度を平行にしてスクワットをすることで得られる体力向上効果があるとは、私には思えません。

また、冒頭のツイートに対するご意見を見ていても、あえて胴体とスネの角度を平行にしてスクワットをすることで得られる体力向上効果についての納得できる説明は皆無でした。

 

したがって、「平行くらいがだいたいバランス良いから」と考えてしまうのは、手段と目的が逆転している「手段の目的化」という危険な状態に陥っている証拠です。

そもそもなぜアスリートにスクワットをやってもらうのか、という根本的な部分から考え直すことが大切です。

これについても、私の新刊を読んでいただくと、理解が進むはずです。

 

 

③「平行にしましょう」と声がけするとフォーム改善される場合があるから

こういうご意見もありました。

これについては、私は完全否定するつもりはありません。

②でも説明したように、競技力向上に繋げるためにはどのような体力を向上させたいのかをまずは決定し、それを達成するためにはどのようなフォームでスクワットを実施するのが適切なのかを追求することが重要です。

そのうえで、「平行にしましょう」と声がけすることで、動きのエラーが改善されて、狙ったフォームに近づけることができるのであれば、目的は達成できるわけなので、それはそれでアリでしょう。

 

「こういうフォームでスクワットをやれば、狙った体力向上を達成できる」という確固たる目指すべき動きがあって、そこに近づけることができるのであれば、声がけの内容なんてなんでも良いです。

極端な話、「背中を丸めてください」という声がけをして、フォームが改善されるのであれば、それでも良いのです。

声がけというのは、アスリートの意識に働きかけるものであり、その意識というのは動作をするうえでの「インプット」の部分にあたります。

そのインプットの結果として出てくる実際の動き(=アウトプット)が、狙ったものであるならば、なんの問題もありません。

もちろん、「背中を丸めてください」と声がけをした結果、本当に背中が丸まっちゃったらダメですけど。

 

したがって、声がけはある意味なんでも良いのです。

どういう声がけに反応するかは個人差があるので、いろいろなパターンを用意しておいて、目の前のアスリートがどれに反応するかを探ればいいわけです。

 

とはいえ、スクワットにおいて「平行にしましょう」という声がけが、動作改善のために効果的なのか、という問題は残ります。

私は個人的に「平行にしましょう」という声がけをしたことはありませんし、これからもすることはないと思います。

他の声がけの仕方で、目的を達成するのに適切な動きを引き出すことが十分できるし、そっちのほうが効率がいいし、多くのアスリートに通用するからです。

 

すでに説明したように、声がけというのはアスリートの意識(=インプット)に働きかけるものだと私は考えています。

で、「胴体とスネの角度を平行にしましょう」と言われて、それを意識できるか?といえば、かなり難しいと思います。

少なくとも、私がスクワットをするときに、胴体とスネの角度を平行にしようと意識したら、わけがわからず、逆に動作が崩れてしまう自信があります。

 

 

まとめ

冒頭で紹介したツイートはそこそこ話題になったようですが、結局、私が納得できるだけの説明はでてきませんでした。

まあ、Twitterをやっていない方や私をフォローしていない方のなかで、しっかりとした説明をできる方がいる可能性もあるので、今回のツイートに対する反応の中に納得できる説明が見当たらなかったからといって、それがすべてだなんて考えは毛頭ありません。

しかし、少なくとも、私が持っている知識や経験の範囲内で考える限りでは、正当な理由はまったく思いつきません。

また、誰が見ても明らかに納得できるような説明がすでに存在するのであれば、今の情報社会、すでに出回っている可能性が高いので、それが出てこないということは、やはり、論理的な説明はないのだろうと想像できます。

 

もし、説明もできないのに「胴体とスネの角度を平行にしてスクワットをしましょう!」と指導してしまっているのであれば、それは無責任です。

そもそもなんでスクワットをやってもらうのか、そして、なぜそのフォームでスクワットを実施すると狙った目的を達成できるのかを、トコトン追求して考えるのが、専門家の責任ってもんだろうと私は考えます。

なぜそこまで徹底して「WHY」を考える必要があるのかは、私の新刊を読んでもらえば少しは理解できるはずです。

 

なんだか、この「スクワットで胴体とスネの角度を平行にすべきか問題」を利用して私の新刊を宣伝する記事みたいになっちゃったように見えるかもしれません。

しかし、そもそもなぜ私が「競技力向上のためのウエイトトレーニングの考え方」というテーマで本を書いたのかと言うと、そこが理解できないのが原因で、誤ったトレーニングを指導したりやってしまったりしている人が多いことを危惧したからです。

「スクワットで胴体とスネの角度を平行にすべきか問題」はその一例であり、そもそもの考え方を理解できていれば、起こるはずもない問題です。

ぜひ、根本的な考え方を学んだうえで、自分の頭を使って考える習慣を身につけてください。

「あの有名トレーナーがそう言っていたらから」なんてのは思考停止以外のなにものでもありません。

 

 

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【編集後記】

この2月からトレーニング指導をさせていただいている正智深谷高校男子バスケ部がウインターカップの埼玉県予選で優勝し、ウインターカップ本番の出場権を獲得しました。

3年生は引退が12月まで伸びました。

今の3年生はコロナによる休校期間が長く、あまり長い期間トレーニングができていなかったので、あと3ヶ月ほど、指導を継続する機会ができて嬉しいです。

期間は短いので、できることは限られますが、少しでも体力を向上させて、よりよいコンディションで最後の大会に臨んでもらえるように、お手伝いをしていきたいと思います。