先日、ウエイトトレーニングにおける「トレーニング強度」をテーマにしたセミナーを開催しました。
私自身、セミナーに向けて自分の知識や考え方をブラッシュアップする良い機会になりました。
頭の中も整理できて、今後のトレーニング指導の質向上に確実に繋がるものと確信しています。
「トレーニング強度」をテーマに考えるうえで、そもそも「トレーニング強度」って何だろう?というところから考え始めました。
一般的には、ウエイトトレーニングにおける「トレーニング強度」と聞くと、「%1RM」を思い浮かべる方が多いのではないかと思います。
正直に言うと、私も今回のセミナーの準備をするまでは、ウエイトトレーニングにおける「トレーニング強度」と聞いたら、まっさきに「%1RM」を思い浮かべていました。
しかし、セミナーに向けての準備を始めてすぐに、自分の考え方の浅さに気づきました。
「トレーニング強度っていうのは、%1RMだけで決まるもんじゃないな」と。
実際には、ウエイトトレーニングの強度は3つの要素から成り立つものである、という考え方があります。
私はその考え方を以下の書籍を読んで学びました:
個人的には、その考え方がしっくりきたので、そのコンセプトをお借りして、セミナーに向けての準備を進めることにしました。
Xでもそのことについて投稿していました。
「トレーニング強度」をテーマにしたセミナーを準備中ですが、読まないといけない論文が多すぎて挫折しそうです。
「トレーニング強度」が以下の3要素から成るものと考えて準備しているから、そのぶんカバーすべき範囲が広くなっちゃうんだろうな…
・Load
・Exertion
・Intent違い、わかります?
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
トレーニング強度を構成する3要素
上記のX投稿でも紹介していますが、ウエイトトレーニングにおけるトレーニング強度を構成する3要素は以下のとおりです;
- ①Load
- ②Exertion
- ③Intent
それぞれの要素が、具体的に何を指しているのかを簡単にご紹介します。
①Load
いわゆる「挙上重量」のことです。
一般的に、ウエイトトレーニングの「トレーニング強度」と言われて、多くの方が思い浮かべるであろうものに相当します。
絶対値で「100kg」みたいに表現する場合もあれば、相対値で「90%1RM」とか「5RM」みたいに表現する場合もあります。
通常は、後者の相対値のほうが重要です。
なぜなら、相対値を使えば、(理論上は)個人の能力に合わせてトレーニング強度を設定することができる(個別化することができる)からです。
とはいえ、絶対値がまったく意味ないわけでもありません。
たとえば、1RMが100kgと200kgの二人のアスリートが、90%1RMの重量でトレーニングする場合、前者は90kgを、後者は180kgを挙げることになります。
相対的な挙上重量は同じはずですが、絶対的な重量は後者のほうが重いので、おそらく後者のほうが疲労蓄積が大きくなります。
したがって、絶対的な挙上重量が重いアスリートのほうが、疲労のマネジメントの重要性が高くなるでしょう。
また、相対値でも「%1RM」と「RM」では、微妙に異なります。
その両者を繋ぐコンセプトとして「1RM Table」または「RM換算表」というものがありますが、これには個人差やエクササイズによる違いが影響するので、思ったよりも複雑です。
» 参考:1RM Tableが必ずしも全てのエクササイズに当てはまるわけではない理由
②Exertion
これはあまり耳慣れない英単語かもしれませんが、ここでは「限界まで追い込むかどうか」「もし限界まで追い込まないのであれば、いつセットを終了するか」のことを指します。
「限界まで追い込むべきか否か」というのはたびたび議論になるところですが、これを「トレーニング強度」の要素の一部として捉えましょう、ということです。
たとえば、先程紹介した「Load」としては「8RM」と設定したとしても、これを限界まで追い込んで8レップやるのか、限界まで追い込まず4レップだけやってセットを終了するのかで、身体に与えられる刺激は大きく変わるはずで、長期的な適応にも違いがでるはずです。
「いや、単純に前者のほうがレップ数が2倍なんだから、それはトレーニング強度ではなくトレーニング量の問題なんじゃないか?」と思われるかもしれません。
確かにごもっともな指摘なのですが、じゃあ、たとえば8RMで1セット×8レップやる場合と、同じ8RMで2セット×4レップやる場合とで比較したらどうでしょう?
Loadは8RMで同じで、総レップ数(トレーニング量)も8レップで同じですが、追い込むか追い込まないか(Exertion)が異なります。
この2つのやり方で、長期的な適応に差がないようであれば、Loadとトレーニング量が同じであれば、Exertionが異なっていてもトレーニング効果は変わらない、ということになります。
一方、長期的な適応に差がでるようであれば、「限界まで追い込むか追い込まないか」というExertionが重要な要因である、ということになります。
後者の可能性を完全に否定できないのであれば、Loadだけでトレーニング強度を考えるのではなく、Exertionも含めてトレーニング強度を設定するのが重要なのではないか?ということです。
具体的にExertionを設定するには、RIR(repetitions in reserve)やRPE(rate of perceived exertion)等の主観的な指標を使ったり、VLC(velocity loss cutoff)みたいな客観的な指標を使うことができます。
ちなみに、日本では限界まで追い込むことを「オールアウト」と呼ぶことがありますが、英語圏では「all out」という言い方はあまり聞きません。
おそらく和製英語みたいなものだろうと考えられます。
英語圏だと限界のことは「failure」と呼ぶことが多いです。少なくとも研究の世界では。
» 参考:速筋線維を動員して鍛えるにはオールアウト(training to failure)しないとダメ?
③Intent
これは、主にコンセントリック局面で、バーベル等をどのくらいの速度やテンポで挙げようとするのかの意識・努力度のことです。
たとえば、同じ8RMというLoadを使っていても、それを爆発的に素速く挙げようとするのか、できるだけゆっくりコントロールして挙げようとするのとでは、身体に与えられる刺激は大きく変わるはずで、長期的な適応にも違いがでるはずです。
そこまで含めてトレーニング強度を決定しましょう、ということです。
1RMに近い高重量を挙げるときは、ある程度全力に近いIntentで挙げないと潰れてしまうので、選択肢の幅は狭いです。
一方、低重量を扱う場合は、できるだけ素速く全力のIntentで挙げることもできれば、スーパースローのIntentでゆっくり挙げることもできるので、Intentの選択肢の幅は広く、結果として身体に加えることのできる刺激もIntent次第で大きく変わる可能性が高まるはずです。
そこまで含めてトレーニング強度の設定を考えないと、適切なプログラムデザインはできないのではないか、という話です。
まとめ
ウエイトトレーニングの「トレーニング強度」を設定する時には、%1RMだけでなく、「Load」「Exertion」「Intent」の3要素を含めて包括的に考える必要がある、というコンセプトを紹介しました。
私は、今回、セミナーに向けての準備をするなかで、「トレーニング強度」への理解が深まり、解像度も高まったと感じています。
ぜひ皆さんも、この考え方を取り入れてみてください!
それぞれをどう設定すると、トレーニング効果が最大になるのか、については、セミナーで詳しく解説しています。
興味のある方は、今後、同テーマでのセミナーを開催するときに、ぜひご参加をご検討ください。
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
【編集後記】
パリ五輪開幕まで1ヶ月を切りましたね!
私はスポーツ全般が好きなので、今からドキドキ・ワクワクです。
東京五輪のときは、iPadとテレビとPCをフル活用して、同時に開催されている競技を追いかけていました。
今回は時差があるので、どうなるものか・・・。
仕事に悪影響が出すぎない程度に、夜ふかしをしたいと思います!