「Diagnosis and Treatment of Movement Impairment Syndromes(運動機能障害症候群のマネジメント)」の著者であり理学療法士のShirley Sahrmann氏からは色々な示唆を得ることができます。
その中の1つが「any time a muscle is injured, look for a weak synergist(筋肉のケガを見つけたら、筋力が弱い協働筋を探せ)」というコンセプトです。
協働筋の筋力不足が他の筋肉のケガに繋がる?
1つの動作を引き起こすのに、通常は複数の筋群が関与しており、それらを「synergists(協働筋)」と呼びます。
協働筋の1つがケガをした場合、単純にその筋肉自体の問題(例:筋力不足、柔軟性不足)である場合もありますが、他の原因として、協働筋の中に筋力の弱い他の筋肉が存在していることも考えられます。
たとえば、ある動きを引こ起こす筋肉(=協働筋)が2つあるとします(仮にA、Bとします)。
もしAの筋力が弱いと、そのぶんを補おうとして、Bにかかる負担が増えてしまいます。
そのような状況が改善されずに長期間続くと、Bにかかるストレスが蓄積していき、結果としてBが肉離れ等のケガをしてしまうリスクが高まるというわけです。
単純に考えると、Bがケガをしたのであれば、そのリハビリと再発防止のためにBの筋力や柔軟性を向上させようという計画を立てるはずです。
しかし、そもそもBがケガをした根本的な原因は協働筋であるAの筋力不足にあるので、そこの部分にアプローチしないと問題解決にはつながらず、結果としてBのケガを繰り返してしまうかもしれません。
したがって、的外れなアプローチに見えるかもしれませんが、Bがケガをした時に、Aの筋力強化を図るのはリハビリとしても再発防止としても有効な手段になりうるのです。
ケツを鍛えてハムストリング肉離れ予防
このようなアプローチは、ケガをしてからのリハビリや再発防止だけでなく、未然にケガを防ぐための傷害予防トレーニングにも当てはめることができます。
たとえば、頻繁にケガが発生する部位であるハムストリング。
股関節と膝関節を介する二関節筋であるという特徴もあり、伸ばされて肉離れしやすい筋肉です。
スポーツニュースを見ていても、Jリーグで今シーズンかなり頻発している印象があります。
プロ野球の大谷選手も痛めましたね。
ハムストリングの肉離れを予防するために、ロシアンリーンまたはノルディックハムストリングと呼ばれるエクササイズが提唱されて普及もされつつあり、ハムストリング自体を強化するという予防法は結構一般的にも広くやられるようになっているのではないかと思います(FIFAが作成した11+というウォームアッププログラムにも含まれているし)。
その割には、ハムストリングの肉離れが減っている印象はありません。
じゃあどうすれば良いのでしょう?
そこでShirley Sahrmann氏の「any time a muscle is injured, look for a weak synergist(筋肉のケガを見つけたら、筋力が弱い協働筋を探せ)」を思い出してみましょう。
ハムストリングの働きの1つは股関節の伸展ですが、この動作の協働筋として大殿筋があります。いわゆる「ケツ」です。
私の経験上、ケツが弱い、または使えないアスリートは非常に多いです。
むしろ、意図的に鍛えようとしないかぎり、なかなか鍛えることが難しい筋肉でもあります。
ケツが弱くて股関節伸展動作に十分貢献することができないと、協働筋であるハムストリングに負担がかかります。
そして、そんなストレスが蓄積していくと、ある瞬間にブチッと切れてしまうリスクが高まるのです。
したがって、Shirley Sahrmann氏の提唱するコンセプトを活用して、ハムストリングを直接鍛えるだけでなく、その協働筋であるケツも強化することで、間接的にハムストリング肉離れの予防に繋がると考えられます。
» 参考:【アスリート向け】ハムストリングの肉離れを予防するためには、ハムストリングを直接鍛えるだけではなく「ケツ(特に大臀筋)」も鍛えるべし!
まとめ
特定の筋肉をケガした時のリハビリ・再発予防、そして、そもそもの傷害予防をするために、その筋肉だけでなく、協働筋の中で弱くなりやすい他の筋肉も強化しましょうというアイデアを紹介しました。
ハムストリングとケツだけでなく、他の部位にも当てはまるコンセプトだと思うので、活用してみてください。
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【編集後記】
8/20の日本バスケットボール学会サマーレクチャーに行こうかどうか考え中。
交通アクセス的には行きやすい。