ウエイトトレーニングのプログラムは、だいたい4週間ごとに作成しています。
実際は4週間先のことまでしか考えていないわけではなく、試合や遠征等のスケジュールを考慮した上で、数ヶ月〜1シーズンを見据えた長期計画を立てています。
たとえば、「この時期は量の多めのトレーニングをやろう」「試合前のこの数週間は量を減らしてテーパリングをしよう」といった具合です。
それを「プログラム」という形で、エクササイズ・セット数・レップ数etcまで具体的に決定するのが、向こう4週間分くらいということです。
しかし、すべてが予定通り行くわけではありません。
場合によっては、予定していたプログラムをアスリートがこなせない日もあります。
その原因はさまざまですが、今回は「疲れていて用意してあるプログラムがこなせない場合」について、私が使っている対処法をご紹介します。
※1対1のパーソナル指導、もしくは少人数を相手にトレーニング指導をする場合に当てはまる方法です。
アスリートが疲れていて用意してあるウエイトトレーニングプログラムをこなせない場合の対処法
基本的には、目的があってプログラムを作成しているわけですので、できるかぎり変更をしないでそのままプログラムを実施してほしいところです。
その一方で、疲れが溜まっていると、「がんばってこなせ!」と言われてもできないことだってあります。
また、あまりにも疲れすぎている時に無理やりプログラムをこなしてもらっても、トレーニング効果があまり期待できない一方で、さらに疲れがたまって、練習中や試合中のケガに繋がる等のリスクがあります。
あるいは、最悪の場合、エクササイズのフォームが崩れて、トレーニング中にケガをしてしまうことも考えられます。
したがって、その日の体調を見極めながら、「できるだけプログラム通り実施してもらう」のと「疲れを考慮して変更を加える」との間で、最適な妥協点を探る必要があります。
アスリートが疲れていて用意してあるプログラムをこなせない場合、私は以下のような形でプログラムに変更を加えるようにしています:
- ①セット数を減らす
- ②エクササイズをカットする
- ③重量をゼロにして、自重のみでやる
- ④トレーニングを中止する
①セット数を減らす
私は、トレーニングセッションの最初にアスリートの体調を尋ねるようにしています。
そのときに「疲れている」と返答があったり、ウォームアップ中に身体が重そうな感じがしたときは、少し注意して最初のエクササイズの動きを観察するようにしています。
そして、「いつもと違うな」「やっぱり疲れているな」と感じたら、セット数を減らすことを考え始めます。
ウォームアップでは身体の調子がイマイチでも、トレーニングを始めてみると問題なくできる場合もあるので、とりあえず最初のエクササイズをやってもらうまでは、最終判断はしないようにしています。
そして、最初のエクササイズを2セット実施してもらって、「あ、これはやっぱり疲れが溜まっているな」と判断したら、その時点で、セット数を減らすという決断をします。
私はセット数を「3」に設定することが多いですが、基本的にはそれを「2」に減らします。
「1」まで減らすことはあまりないです。
そして、「今日はセット数を減らすから、そのぶん、がんばって集中してやろう!」とアスリートに伝えます。
②エクササイズをカットする
セット数を減らしてプログラムを実施してもらって、それで済むなら、それだけの変更に留めておきたいところです。
しかし、セット数を減らしても、それだけでは足りないくらい疲れが溜まっているな〜と感じる場合もあります。
そういうときは、次のステップとして「エクササイズをカットする」という選択をします。
私のプログラムにおいては、一番最後に、体幹部のエクササイズやプレハブもしくはコレクティブと言われるような補助エクササイズをまとめてサーキット形式でやってもらうことが多いですが、それをごっそりとカットします。
そういったエクササイズは重要ではありますが、優先度は低いため、疲れがたまっているときは、カットする対象となります。
③重量をゼロにして、自重のみでやる
「セット数を減らせば何とかこなせる」どころの疲労度ではなく、フォームが崩れてどうしようもないくらいまで疲れがたまっているケースもあります。
そういうときは、無理してトレーニングをしてもケガのリスクがあるので、思い切って重量をゼロにして、自重のみでエクササイズを実施してもらうことを考えます。
スクワットやRDLで普段は100KG以上のバーベルを持ち挙げているアスリートが、それらのエクササイズを自重で実施しても、トレーニング負荷としては弱すぎて、筋肥大や筋力向上効果は期待できません。
しかし、自重であっても、普段以上にフォームを意識してやってもらえば、それなりに意味があると私は考えています。
疲れがとれて、次回、しっかりと負荷をかけてトレーニングをできるようになったときに、より良いフォームで実施することに繋がるはずだからです。
科学的根拠はありませんが、私の経験上、そう感じています。
④トレーニングを中止する
自重でエクササイズを実施しようとしても、フォームが崩れてちゃんとできない場合。
それは相当疲れがたまっている証拠なので、その日のトレーニングは思い切って中止してしまいます。
そこまで疲れている状態で無理してトレーニングをしても、マイナスしかありません。
「早く帰って、栄養とって、ぐっすり寝ましょう」とアスリートには伝えます。
アスリートに対価をお支払いいただいてサービスを提供している場合、トレーニングを中止するなんてお金がもったいないと思われてしまうかもしれません。
しかし、お金がもったいないからといって、極度の疲労状態で無理してトレーニングをやってもらっても、アスリートの利益にはなりません。
だから、そこは勇気を持ってトレーニングを中止するという決断をすべきです。
そういう場合は、納得してもらうために、お客さまから料金をいただかない、という選択肢もビジネスとしてはあるかもしれません。
しかし、そのセッションのために自分の時間も使っているし、交通費も払っているし、場所代も払っているので、私はそういう選択肢はとりません。
そもそも、私が提供している価値は「1回90分または120分という時間で身体を動かしてもらう」ことではなく「トレーニングを通じて競技力向上に貢献すること」です。
過度に疲れが溜まっていて、トレーニングを中止したほうがアスリートの利益となり、そちらのほうが競技力向上に繋がるのであれば、専門家としてそういう判断をできるというのも、私が提供している価値の一部なのです。
まとめ
先日、前職場の国立スポーツ科学センターのトレーニング体育館からご依頼をいただき、勉強会の講師をつとめました。
そこで質疑応答の時間にいただいたご質問とそれに対する私の回答を膨らませて、今回のブログ記事にしてみました。
参考にしていただければ。
ちなみに、今回の例は疲労が溜まっているケースに限定されるので、ケガや痛みがあるケース等には当てはまりません。ご注意ください。
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【編集後記】
バスケW杯の組み合わせが決まり、日本はアメリカと同じグループになりました。
たぶんボコボコにされるだろうけど、そこから学んでさらに強くなるための良い経験にしてもらいたいですね。
アメリカのメンバーが気になるところですが、プレイオフで勝ち上がったチームの選手は疲労回復を優先させて出場しないかもしれませんね。