#61 【測定シリーズ】光電管を使用したスプリントタイム測定その2

公開日: : 最終更新日:2016/02/14 測定・スクリーン・テクノロジー


 

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前回のブログでスプリントタイム測定に使用される光電管について、3つのタイプを紹介してそれぞれの原理と問題点等をお話しました。今回は光電管を使用したスプリントタイム測定でもう1つ注意したいポイントであるスタートの仕方について記事を書きたいと思います。

 

 

光電管でのスプリントタイム測定の問題点その2:スタートの仕方

光電管を用いてスプリントタイムを測定する際、タイム測定が開始されるのは一番最初の光電管ゲートを切った時です。

この一番最初の光電管ゲートを切る前の段階で、身体を一度後ろに傾けたりのけぞったりして勢いをつけてから前方に走り始めると、一番最初の光電管ゲートを切る時点である程度の速度を持っていることになり、測定されるタイムに影響を与えてしまいます(タイムが速くなる)。

また、この動きがアスリートによって違うとアスリート間のスプリントタイムの比較が困難になったり、同じアスリートでも毎回動きが一定でないと誤差が大きくなり長期的なスプリント能力の変化をモニターする事が難しくなってしまいます。

一番最初の光電管ゲートを切る前の動きの影響を最小限に抑えるための1つの方法として、できるだけこの光電管ギリギリの場所からスプリントを開始するという方法があります。例えば、一番最初の光電管ゲートのライン上に前足を置いてそこからスプリントを開始するとか。

しかし、あまりにも光電管ゲートに近づきすぎると、スタート準備姿勢でちょっと前傾するだけで光電管ゲートを切ってしまったりする事があります。まだ走り始めてないのに「ピー」という音だけが虚しく響き渡ったりします・・・。

なので、一般的には一番最初の光電管ゲートから30cmから50cmほど後ろのラインからスプリントを開始する事が多いように思います。そしてこの方法では、一番最初の光電管ゲートを切る前の段階の動きを完全に抑えることは難しいです。

次にスタート前の動きを抑える方法として、両足を平行にそろえた姿勢からスプリントを開始するという方法があります。「パラレルスタート」と呼ばれるこの方法では、基底面(base of support)が特に前後方向に狭いので、重心を前後方向に大きく動かして勢いをつけるような動作が難しく、結果として一番最初の光電管ゲートを切る時点での速度を最小限に抑えることが可能です。しかも、アスリート間あるいは同一アスリート内の繰り返し測定を比較した時に、variationを少なくする事も可能(理論上は・・・)となります。

ただし、このパラレルスタートという動作自体がアスリートにあまり馴染みのない動きなので不自然な感じがして、スムーズにパラレルスタートができるようになるにはある程度の練習が必要になるかもしれません。そして、練習が必要という事は練習する事によってスプリントタイムが速くなる可能性があるという事になります。つまり、スプリント能力には変化がないのにパラレルスタートが上達するだけでスプリントタイムが速くなるという事になり、スプリント能力の変化をモニターするという目的においてはあまり好ましくありません。

 

スタート方法の違い:パラレル vs. スプリット vs. フォルススタート

ちなみに、スプリントタイム測定の開始姿勢はパラレルスタート以外に「スプリットスタート」と「フォルススタート」と呼ばれる方法があります。スプリットスタートは脚を前後に開いた状態から走り始める一般的な方法です。一方、フォルススタートはパラレススタートと同じ姿勢から開始して、それから片脚を一歩後ろに戻してフォルススタートの体勢になってからスタートする方法です。

過去の研究[1][2]によると、パラレルスタートを用いて測定されたスプリントタイムは他の2つの方法を用いて測定されたスプリントタイムよりも遅くなる傾向があるようです。また、測定の信頼性という点でも上記の理論的な考えに反して、パラレルスタートがスプリットスタートよりも信頼性が高いかと言うと、必ずしもそのようなデータは得られていないというのが現状です。上で述べたように、スタート前の身体の前後方向の動きを制限するという意味ではパラレルスタートは利点があるはずですが、動き自体が馴染みがないという欠点によりvariationが多くなってしまい、結果として狙ったような信頼性の高さが伴わないという事も考えられます。

そう考えると、必ずしもパラレルスタートを用いる必要がなく、スプリットスタートを用いた上で「前後方向に身体を動かして勢いをつけてスタートしないように」という指示をアスリートに与えるだけでも十分なのかもしれません。

 

 

まとめ

じゃあ結局どういうスタートの仕方が良いのかという話になりますが、今のところこのやり方が一番という業界スタンダードはないように思います。競技種目やポジションの特性によっても何がベストなのかは異なるでしょうし、測定の目的によっても変わってくるでしょう。

今回と前回のブログで紹介した内容や、以下に紹介する文献の内容等を読んだ上で、各自がそれぞれの状況においてベストと考えられる方法を編み出すのが良いと思います。

そして一度ベストと考える測定プロトコルを決めたら、その方法を細かく規定して毎回同じ方法で測定することが重要です。少しでも異なる方法で測定したスプリントタイムをアスリート間あるいはアスリート内で比較することはオススメしません。

例えば、シングルビーム光電管で測定したスプリントタイムとダブルビーム光電管で測定したスプリントタイムを比較するのはナンセンスです。また、一番最初の光電管ゲートの30cm後方からパラレルスタートで走った場合のスプリントタイムと50cm後方からスプリットスタート(脚を前後に開いた開始姿勢)で走った場合のスプリントタイムを比較することもできません。

 

 

参考文献 

[1] Cronin JB, Green JP, Levin GT, Brughelli ME, and Frost DM. Effect of starting stance on initial sprint performance. J Strength Cond Res. 2007;21(3):990-2.

[2] Duthie GM, Pyne DB, Ross AA, Livingstone SG, and Hooper SL. The reliability of ten-meter sprint time using different starting techniques. J Strength Cond Res. 2006;20(2):246-51.

[3] Frost DM, Cronin JB, and Levin G. Stepping backward can improve sprint performance over short distances. J Strength Cond Res. 2008;22(3):918-22.

 

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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