#588 【論文レビュー】野球選手に走り込みは必要か?大学野球選手が長距離タイプの持久力トレーニングをやると、下半身のパワー発揮能力にマイナスの影響が出た

 

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昨日、札幌で開催されたプロ野球S&C研究会勉強会において、講師をつとめました。

「野球における体力トレーニングの再考」というタイトルで、主に2つのトピックに絞って私なりの考え方をお伝えしました:

  • 特異的エクササイズの誤解
  • 走り込みは必要か?

後者の「走り込み」についてお話をしたときに、野球選手が「走り込み」をすることのデメリットを示すデータの1つとして紹介した論文があります。

今日はその論文をブログでも取り上げて、内容を紹介します。

 

  

論文の内容

Rhea et al. (2008) Noncompatibility of power and endurance training among college baseball players. J Strength Cond Res. 22(1):230-4.

 

研究プロトコル

男子大学生野球選手を18週間のシーズン中に2つのグループに分けた。

両グループともまったく同じ内容のプライオメトリックトレーニングとレジスタンストレーニングを週2~3回実施した。

唯一グループ間で異なっていたのは、代謝トレーニングの内容だった。

  • Sprintグループ(8名):15~60mの全力スプリントを10~60秒のレストを挟みながら実施。週に3回で10~30本。
  • Enduranceグループ(8名):中~高強度有酸素エクササイズ(ジョギングまたはサイクリング)を週に3~4回、1日あたり20〜60分実施(平均45分)。

上記のような代謝トレーニングの違いが、下半身パワー発揮能力に及ぼす影響を調べるために、反動ありの垂直跳び(カウンタームーブメントジャンプ、CMJ)中のパワーを、シーズンの始めと終わりに測定した。

 

 

結果 

シーズン前後のCMJパワーの変化量において、グループ間で統計学的に有意な差が見られた(Sprint > Endurance)。

  • Sprintグループ(8名):CMJパワーが平均で約15%増加し、8名すべての被験者においてCMJパワーの増加が見られた(低下した被験者はゼロだった)。
  • Enduranceグループ(8名):CMJパワーが平均で約2%低下し、8名中5名においてCMJパワーの低下が見られた。

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考察

2つのグループにおいて、18週間の大学野球シーズン中に実施した練習やトレーニングの内容で異なるのは、「代謝トレーニング」の部分だけです。

したがって、シーズン中のCMJパワー値の変化量において見られたグループ間の差は、代謝トレーニングの内容の違いによってもたらされた可能性が高いと考えられます。

つまり、Enduranceグループが実施したような長距離タイプの持久力トレーニングはCMJパワーにマイナスの影響を与えてしまうということです。

※ちなみに、厳密にいうと、ここでの「マイナスの影響」というのは、Sprintグループが実施したスプリントトレーニングがCMJパワーに与える影響と比較した場合の「相対的な」影響ということです。

 

持久力トレーニングとレジスタンストレーニングの両方を実施すると、レジスタンストレーニングのみを実施する場合と比較して、レジスタンストレーニングの効果(筋力向上、筋パワー向上、筋肥大etc)が阻害されるという現象(Interference Effectと呼ばれます)は、これまで多くの研究によって報告されてきました。

#58 【論文レビュー】持久力トレーニングとレジスタンストレーニングを両方実施するとレジスタンストレーニングの効果が薄れる

 

今回紹介した研究は、Interference Effectが野球選手においても観察されたということで、野球関係者にとっては関連性の強いデータです。

野球会では「走り込み」と言われる長距離・長時間を走り続けるようなトレーニングが昔から実施されているようですが、走り込みのデメリットとして下半身パワー発揮能力にマイナスの影響を及ぼしうるということは、頭の片隅に入れておいたほうがよいかもしれません。

※厳密にいうと、Enduranceグループは”走り”込みだけでなくサイクリングも実施していますが、それが「過度な走り込みは下半身パワー発揮能力にマイナスである」という解釈の仕方に大きな影響を及ぼすとは考えづらいです。

 

 

まとめ

今回ご紹介した論文においては、各グループの代謝トレーニングが持久力に及ぼす影響は報告されていません。

CMJパワーという下半身パワー発揮能力の指標のみしか調査されていないのです。

したがって、下半身パワー発揮能力という観点でいうと、長距離タイプの持久力トレーニングを実施することは「デメリット」ですが、もしかしたら持久力はSprintグループよりもEnduranceグループのほうが向上していたかもしれません(あくまでも可能性です)。

したがって、このような科学的知見が得られたからといって、すぐに「野球選手は走り込みをやめるべきだ!」と結論付けるのは正しい反応の仕方ではありません。

走り込みを実施することによるメリット(例:持久力の向上)とデメリット(例:下半身パワーの低下)を天秤にかけたうえで、適切な判断する必要があります。

 

そのうえで、客観的にみて、野球選手にとっては下半身パワー発揮能力のほうが持久力よりも大切だと思うので、私だったら野球選手にいわゆる「走り込み」と呼ばれる長距離タイプの持久力トレーニングをやらせることはないでしょう。

走らせるとしても、本数を少なめに制限したスプリントだけにとどめるはずです。

 

今回ご紹介した論文を読んで、野球選手に走り込みは必要か?というテーマについて考え直すキッカケにしていただければ。

 

 

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【編集後記】

札幌への移動中、飛行機内で初めてWi-Fiを使いました。どこにいてもネットに繋がるのは便利になっていいのですが、ネットに依存しすぎるのもちょっと怖いな〜とも思いました。