#704 バイオメカニクスの知識がトレーニング指導中に頭の中でどう使われているのか

 

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バイオメカニクスのセミナーを開催している理由

昨日「S&Cバイオメカニクス入門セミナー」を実施しました。

バイオメカニクスは生理学と並んで、S&Cコーチが学んでおくべき基礎学問のツートップだと私は勝手に思っています。

実際、大学のスポーツ科学系の学部のカリキュラムでは、両学問は必須科目として入っているはずです。

 

私が学生のときは、バイオメカニクスの授業をとっていても、それが現場でのトレーニング指導にどう役立つのか、あまり関連性を見いだせていませんでした。

必須科目だし、どうやら重要な学問らしいから、とりあえず勉強しておくか、程度の認識でした。

しかし、実際にアスリートのトレーニング指導を始めてみると、バイオメカニクスの知識がとても役に立つことがわかりました。

むしろ、バイオメカニクスの知識がなければ、適切なトレーニング指導なんてできないんじゃないかと思うくらい、自分にとってはなくてはならないものになっています。

 

そんな自分の経験をお伝えするために、S&Cに関連して押さえておいたほうがよいバイオメカニクス関連トピックを厳選し、できるだけ具体的な事例と絡めてバイオメカニクスについて解説するセミナーを始めました。

一応「入門セミナー」と題しているので、過去にバイオメカニクスを専門的に勉強したことのない方を想定してセミナーの内容を作りあげました。

私のセミナーを受講していただき、トレーニング指導で実際に役立つ学問としてバイオメカニクスを学び始めるキッカケとしていただければという気持ちです。

また、参加者の中には、すでに大学の授業等で一通りバイオメカニクスを学ばれた方もいらっしゃいます。

そのような方であっても、学問として学んだバイオメカニクスの知識を現場でどう活用するのか、という部分でヒントを持ち帰っていただけるような内容になっていると自負しています。

 

 

バイオメカニクスの知識がトレーニング指導中に頭の中でどう使われているのか

そんな「S&Cバイオメカニクス入門セミナー」を実施したなかで、考えさせられる質問をいただきました。

セミナーでお話したようなバイオメカニクスの知識が、実際にトレーニング指導をしているときに頭の中を駆け巡っているのか、という趣旨のご質問でした。

つまり、アスリートがたとえばスクワットをしているのを指導している最中に、トルクがどうとかモーメントアームがどうとかいったことを常に考えているのか?ということです。

自分ではあまり思いつかない切り口のご質問だったので、「自分がトレーニング指導をしているとき、頭の中で何を考えているかな〜?」とちょっと振り返って考えてみました。

 

で、考えてみると、スクワットを指導している時に「トルク」とか「モーメントアーム」とかいったバイオメカニクス的な言葉は頭の中には浮かんでいないことに気づきました。

「お、膝が前方に移動したから、膝関節のモーメントアームが長くなったな」という風には考えていないのです。

つまり、セミナーでお伝えしたようなバイオメカニクスの知識がトレーニング指導をしている最中に私の頭の中を駆け巡っているわけではないということです。

 

じゃあ、バイオメカニクスの知識はトレーニング指導中に使われていないのか、役に立たないのか、というと決してそういうわけではありません。

おそらく、頭の中に具体的に「トルク」とか「モーメントアーム」とかいった言葉は浮かんでいなくとも、その概念は無意識のうちに頭の中で処理されているはずなのです。

で、無意識に頭の中で処理されるためには、事前にバイオメカニクスについて勉強しておき、その考え方や知識を頭の中に叩き込んでおくことが前提となります。

 

また、ウエイトトレーニングの正しいフォーム等について、なぜそのフォームが正しいのかという「Why」の部分を時間をかけて徹底的に考えておく機会は別に作っています。

そして、そのように時間をかけて考えるときには、バイオメカニクスの知識を使って、モーメントアームがどうなっているとか、力のベクトルがどうなっているとか、意識的に考えるようにしています。

また、場合によっては、バイオメカニクス関連の論文を読んだりもして、どういうフォームがなぜ正しいのかを考えるようにしています。

» 参考:ランジ動作で、上体を前傾させるべきか直立に保つべきか?

 

そのように、あらかじめバイオメカニクスを勉強して頭に叩き込んでおき、時間をかけてバイオメカニクスの知識を使ってトコトン考える機会を作っておくからこそ、実際にトレーニング指導をしている最中には、意識せずとも無意識のうちにそういった知識が頭の中で処理されて、適切なトレーニング指導に繋がっている。

私はそのように考えて、セミナー中のご質問に回答しました。

 

考えてみれば、トレーニング指導中にモーメントアームがどうなっているとかトルクがどうとかを意識して考えているような時間的余裕なんてありません。

動きを見て、エラー動作を見つけて、それを修正するような適切な声がけを選択して与える、という一連の作業を一瞬のうちに処理する必要があるのです。

となると、そのような一連の作業を無意識のうちに処理できるようになっておかないと適切なトレーニング指導は行えないということでもあるのでしょう。

 

これは、アスリートが新しい技術を身に付けるときと似ています。

これまでやったことのない、できなかった技術を習得する場合には、まずは頭の中で考えながら、ひとつひとつの動きを確認しながら練習を繰り返すはずです。

この時点では意識して身体を動かしているわけです。

次第にその技術が身に付いてきたら、意識せずとも無意識にその動きができるようになっていくはずです。

多くのスポーツにおいては、競技中に「身体をこう動かして・・・」と考えている時間的な余裕はないので、無意識に身体を動かせるようになるところまで練習を事前にしておくことが重要です。

とはいえ、技術を身に付けて無意識に身体を動かせるようになるためには、その前の段階で意識して身体を動かすという作業は避けて通れません。

 

また、将棋の羽生善治さんは、「決断力」という著書の中で、たくさん対局をして経験を積み、それまで培ったものが脳の無意識の領域に詰まっていると述べています。

そして、それが浮かび上がってくるものを「直感力」と呼び、直感でひらめいた手のほぼ七割が正しい選択をしているとしています。

直感は偶然に思いつくわけではなく、自分の頭で考える経験の積み重ねがあって始めて浮かび上がってくるものであるとも説明をされています。

 

トレーニング指導におけるバイオメカニクスの知識も同じことです。

意識的に勉強したり、意識的に考えたりする段階は必要ですが、そこを徹底してトコトンやっておけば、トレーニング指導の最中には無意識にバイオメカニクスの知識や考え方を活用できるようになっているはずです。

この主張に科学的根拠の裏付けはありませんが、私の経験にもとづく主観としては、間違いないと考えています。

 

 

まとめ

バイオメカニクスの知識がS&Cコーチにとって役に立つことは間違いありません。

ただ、それをトレーニング指導において無意識に活用できるようになるためには、事前にしっかりと勉強をして頭に叩き込んでおく必要があります。

また、身に付けたバイオメカニクスの知識を使って、トレーニングについてトコトン考える機会も設ける必要があります。

それができれば、バイオメカニクスはS&Cコーチにとって大きな武器になるはずです。

 

もし、「バイオメカニクスなんて勉強して意味があるのだろうか?」と悩んでいる方がいたら、私を信じて勉強してみてください。

意味は確実にあります。

 

 

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【編集後記】

最近は「おかあさんといっしょ」をよく観るようになりました。そして、だんだん歌のおねえさんがかわいく見えてきました。