ツイッターで以下のようなつぶやきをしました。
まったく同じことが、ウエイトトレーニングによる「ケガをしづらい身体づくり効果」にも言える。
ウエイトトレーニングはケガのリスクを1/3以下まで減らす、というエビデンスはある。
でも、個人のアスリートにとってケガをするかしないかは100か0、みたいなところがあるから難しい。 https://t.co/e6G5UoMdxh
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
ウエイトトレーニングやっているのにケガをしてしまったアスリートは「意味ないじゃん」と感じるだろうし、ウエイトトレーニングやっていなくてもケガしないアスリートは「必要ないじゃん」と感じるだろう。
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
この点を深堀りして、ブログ記事を書いてみます。
確率論(科学的知見) vs. 一人ひとりのアスリート
私は以前から、アスリートがウエイトトレーニングを実施することのメリットは大きく2つあると主張しています:
- ①アスリートとしてのポテンシャルを広げる
- ②ケガをしづらい身体づくり
このうち後者の「ケガをしづらい身体づくり」というメリットは、なかなかアスリートに実感してもらいづらい、というのが私のこれまでの経験から言えることです。
「ウエイトトレーニングを始めてから、なんだかケガをしづらい身体になってきたな〜」みたいに感じるのは難しいでしょうから、まあ、しょうがないと言えばしょうがないかな〜とも思います。
ただ、研究によってウエイトトレーニングはケガのリスクを1/3以下まで減らすことが報告されているので、ウエイトトレーニングに「ケガをしづらい身体づくり効果」があるのはほぼ間違いないでしょう。
#234 【論文レビュー】ウエイトトレーニングを実施するとケガを1/3以下に減らすことができる
研究においては、たくさんのアスリートを対象に調べたうえで、確率論として、ウエイトトレーニングをやるとケガのリスクが減るということが確認されています。
しかし、一人ひとりのアスリートの立場からすると、ケガというものは「するかしないか」なので、100か0みたいなところがあります。
ここが難しいところです。
ウエイトトレーニングをやっていてもケガをしてしまうアスリートはいるし、ウエイトトレーニングをやっていなくてもケガをしないアスリートもいます。
前者のアスリートは、「ウエイトトレーニングやっていてもケガするじゃん!意味ないじゃん!」と感じるかもしれません。
後者のアスリートは、「ウエイトトレーニングやっていなくてもケガしないじゃん!意味ないじゃん!」と感じるかもしれません。
この辺は感情論みたいなものなので、「いや、あなたは不運にもケガしちゃったけど(幸運にもケガしていないけど)、ウエイトトレーニングにケガをしづらい身体づくり効果があるのは研究によっても確認されているんだよ!!」みたいにムキになって反論してもしょうがありません。
一人ひとりのアスリートの感情に寄り添いつつも、専門家としては、できるだけ科学的知見に基づき、確率の高い方法を選択しながら、粛々とトレーニング指導を続けるしかありません。
「確率の高い方法を選択する」みたいなことを言うと、冷たい印象を持たれたり、一人ひとりのアスリートに寄り添っていないと思われたりしそうです。
しかし、アスリートに最善のトレーニング指導を提供しようと思ったら、科学的知見を頼りに確率の高い方法を選択するしかありません。
それこそがアスリートのことを想う、愛に溢れたトレーニング指導である、というのが私の信念です。
#845 科学的知見に基づいたトレーニングが確率論で考えると最善である
「ウエイトトレーニングをやっている・やっていない」と「ケガ歴ある・ない」の四象限
アスリートを「ウエイトトレーニングをやっている・やっていない」と「ケガ歴ある・ない」の2つの視点から、四象限を使って4つのタイプに分類してみます。
上の図を見ていただくとわかるように、アスリートは4つのタイプの分類することができます:
- ①ウエイトトレーニングをやっていて、ケガをしてしまったアスリート
- ②ウエイトトレーニングをやっていて、ケガをしていないアスリート
- ③ウエイトトレーニングをやっていなくて、ケガをしていないアスリート
- ④ウエイトトレーニングをやっていなくて、ケガをしてしまったアスリート
すでに説明したように、①と③のタイプのアスリートは「ケガ予防のためにウエイトトレーニングやっても意味ないじゃん」と思いがちかもしれません。
そういうタイプのアスリートに対しては、一方的に科学的知見を振りかざさずに、感情に寄り添ってあげるような特別な配慮が必要になるかもしれません。
一方で、じゃあ②と④のタイプのアスリートの場合、ウエイトトレーニングによる「ケガをしづらい身体づくり効果」を実感してもらいやすいのかと言えば、必ずしもそうではありません。
たとえば、②のタイプのアスリートが「ケガをせずに済んでいるのはウエイトトレーニングのおかげだ!」と思ってくれるのかと言えば、そんなことはないでしょう。
④のタイプのアスリートの場合も、ケガをしたからといって「その原因がウエイトトレーニングをやっていなかったからだ!」と思ってくれる可能性は低いでしょう。
結局、どんなタイプのアスリートであっても、ウエイトトレーニングによる「ケガをしづらい身体づくり効果」を実感してもらうのは難しいんだ、くらいに認識しておいたほうが良いでしょう。
まとめ
私自身、ケガをしづらい身体づくりを目指して、できるだけ科学的知見に基づくトレーニング指導を提供するよう心がけています。
おそらく、ケガのリスクを下げるのに貢献できているだろうと思います。
しかし、完全にゼロにすることは難しく、トレーニング指導を担当しているアスリートがケガをしてしまうこともあります。
とくに、担当アスリートが大きなケガをしてしまったときは、めちゃくちゃショックを受けますし、防ぐことができずに申し訳ない気持ちでいっぱいになります。
とはいえ、競技スポーツを真剣にやっていればケガをしてしまう時はしてしまうものですし、トレーニングだけでケガを完全にゼロにすることは不可能なので、冷静になるようにも意識しています。
担当アスリートが大きなケガをした時に、変に感情的になりすぎて、トレーニングのやり方をガラッと変えてしまうのは、ケガをしたアスリートにとってもプラスにはなりません。
ケガをする前にやっていたトレーニングのやり方が科学的知見に基づいていて、ケガを防ぐ確率の高い方法だったのであれば、それを変えたら逆効果になっていまいますから。
アスリートのケガに一喜一憂することなく、それでいてアスリートの感情に寄り添いながら、確率がより高い方法を探って専門家としての腕を磨き続ける。
それが私にできることの限界であり、目指すところでもあります。
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
【編集後記】
サッカーW杯で日本は敗退しましたが、昨晩は夜ふかしして「ブラジル vs. クロアチア」の試合をテレビ観戦しました。
自国以外のチーム同士の戦いでしたが、とてもレベルが高く、純粋に面白かったです。
サッカーって観るスポーツとして、単純に面白いんだな〜、だから世界中でこんなに人気なんだな〜と改めて感じました。